第0話 ~prologue~
初投稿です。よろしくお願いいたします。
召喚魔法。
それはこの世界において、近年発見された新たな魔法である。
異世界の人間をこの世界に召喚する魔法。
魔法大国トランテスタにて発見、発表されたこの魔法に対し
各国は驚きをもって受け止めていたが、
異世界の人間という未知の存在に対して懐疑的になり
その魔法を積極的に使おうとする国はなかった。
だが、ある噂が流れ始めたことでその流れは一変する。
『トランテスタにて召喚された異世界の人間で魔力ランクSSの人間がいるらしい』
――魔力、それはこの世界に生まれた人間が潜在的に少なからず持っているもので、
人によりその魔力量はそれぞれ異なる。
約半世紀程前、トランテスタが発表した魔力判定の魔法により、
その人が持つ魔力量によってランク分け出来るようになった。
魔力量が多ければ多い程このランクは高くなり、
より高度で強力な魔法が使用出来るようになる。
魔導師のレベル、数が国の軍事力の大きなポイントとなるこの世界では、
それ以降、生まれもった時点で先天的に魔力量は決まっていることもあり、
子供の頃に魔力測定を行うようになり、魔法力の高い人間を選抜し
その後各国それぞれの魔法学院で魔法学を学ばせ魔導師として
育成するような流れとなっていた。
ちなみにこの世界の大多数の人間は、ランクD。
日常生活で火を起こしたり、水を出したりといったレベルの魔法を使う事ができる。
そこから魔力量に応じてレベルは上がっていき、ランクAともなれば
その数はかなり限られており、各国お抱えの魔導師クラスの人間がこのランクとなる。
そのような世界においてランクSSの魔導師が現れたということは
各国の戦力バランスが大きく崩れることを意味する。
現にこの噂が流れて以降、各国こぞって召喚魔法を使用するようになり、
自国に強力な魔力を持った人間を召喚しようとしていた。
そしてそれは同時にこの世界の騒乱の火種ともなっていったのである。
「…ん?ど、どこだよここは!」
その男はつい数分前まで駅から自宅への帰り道を歩いていたはずだった。
残業続きの毎日から開放され久しぶりに定時で帰れたことに気分を良くし、
帰ったらビールを飲みながらゆっくり過ごそう。そんな事を考えながら歩いている時だった。
突然、足元に幾何学模様のサークルが出現し、
そこに吸い込まれるように飲み込まれていったのだ。
いきなりの出来事にパニックになりながら、必死に抵抗しようと地面に手をかけ抵抗を試みるも底なし沼の如く逆らえない力で、その男はあっけなくそのサークルに吸い込まれていった。
そしてその後ショックで気を失い、気がついた時には
その男が目にしたのは、これまでの人生で見たこともない場所だった。
中世のヨーロッパを思わせるような石レンガの部屋。
12畳程の大きさの部屋はいくつもの炎が灯ったランプで明るく照らされており、
その男の目の前には、ファンタジー映画に出てきそうな金髪の美女が
両方の手の平をこちらに向けるようにして立っていた。
「ソフィーどうだ?」
その美女の隣に立っていた身なりの整った男が声をかける。
「魔力は…微弱ですね。ランクEといった所でしょうか」
「そうか…」
「ごめんなさい、私の力が足りないばかりに」
「いや、召喚の結果はあくまでランダムだ。ソフィーのせいじゃない。
そもそもこの国にはレベルSである君以上の魔導師はいないのだから」
「ありがとう、アルベルト…」
アルベルトと呼ばれる男から慰めの言葉を受け、ソフィーと呼ばれた美女は頬を赤くし微笑んだ。
そんな映画のような一連のやり取りを唖然と見つめていた男はふと我に返り、再度声を上げる。
「だから、ここどこなんだよ!お前らは一体何者なんだ!!」
しかし、男がいくら声を荒げてもそれに答える声は帰ってこない。
このような光景はこれまで数回繰り返され、その度にアルベルト達は同じ反応を目にしてきたのだ。
「アルベルト様、この者の処遇は如何いたしましょう」
アルベルトとソフィーの後ろに控えていた甲冑を来た兵士がアルベルトに声をかける。
「これまで通りだ。この世界の常識を教えた後は男手の足りない村に派遣するように」
「かしこまりました!」
アルベルトの言葉に威勢よく答えると、土曜に後ろに控えていた兵士数名と共に
たった今召喚された男を両側から捕まえた。
「ちょっ、何するんだよ!離せってば!!お前達は一体何なんだよ!!!」
「いいから大人しくしろ!後できちんと説明するからとりあえずここから移動するぞ」
「離せっ!離せよ!!」
「だから暴れるなと言ってるだろう!いい加減にしないと痛い目を見るぞ!!」
「それでは失礼致しますっ!アルベルト様、ソフィー様」
暴れようとする男を抑えつけながら兵士達は部屋を後にしていく。
そして部屋の中にはソフィーとアルベルトの二人だけになった。
失敗に終わった召喚者が連れていかれる様子を眺めながらソフィーはため息をつく。
「中々上手くいかないわね」
「あぁ。だが、トランテスタだけじゃない。ディアンロッサもSの召喚に成功している。
このまま何もせずにいては、近い将来この国も間違いなく狙われる」
「この召喚が上手くいったら、その…本当にやるの?」
「あぁ、私利私欲に溺れた今の女王はもうダメだ。
彼女を引きずり下ろして必ずこの国を建て直してみせる」
「うん、あなたならきっとやれるわ。そして私もあなたにずっと着いていく」
「ありがとう、ソフィー。君は僕の大切なパートナーだ」
「アルベルト…」
アルベルトの意志の強い視線に惹かれるようにソフィーは自ら顔を近づけ、そしてそっと目を閉じる。
ソフィーが重なる唇の感触に酔いしれる中、
アルベルトは先程男が召喚されたばかりの召喚陣をただじっと見つめていた。
使えるものは何でも使うさ。
トランテスタにいる彼女を手に入れるまでは――
主人公たちは次話から出てきます。