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4・彼女

 事態は最悪の方へ向かっていた。

 学校の帰り、矢萩まつりは瀬川要が若い女性と一緒に街を歩いていたのを目撃してしまったのだ。髪の長いその女性は、瀬川要の傍で楽しそうに微笑んでいる。落ち着いた感じの大人の女性。

「要、ちゃん……」

 雪が、顔に降りかかっても何も感じなかった。雪の冷たさよりも矢萩まつりの心の方が冷たく凍りついてしまったのだ。

バス停横の横断歩道で信号待ちをしている瀬川要は女性と楽しそうに話し、まつりに気がついていないようだった。

「矢萩、今帰りか?」

 タイミング悪く、クラスメイトの萩原紀はぎわらかなめがまつりに声をかけてきた。自分はきっと泣きそうな顔をしているに違いない。そんな顔を見られたくない。

 まつりは、「かまわないでよ」と冷たく言葉を返してそっぽを向いた。

「おまえ、泣いてるの?」

 萩原紀はしつこくまつりの顔を覗き込もうとしている。

「うるさいわね。ほっといてよ」

 ――どうして萩原紀にお前呼ばわりされなきゃいけないのよ。

 まつりは泣くに泣けず、まとわりつく萩原紀に苛立って八つ当たりをした。

 瀬川要と若い女性はまつりに気がつくことなく通り過ぎていき、まつりはその姿を目で追っていた。

 まつりははっとした。

 萩原紀がまつりの視線の先にいるカップルに気がついたのだ。

「ちょっと付き合えよ」

「えっ、ちょっと待って」

 萩原紀は何を思ったのかまつりの腕をぐいと引っ張り、買い物公園をどんどん歩いていった。その先を瀬川要と若い女性が歩いている。

――萩原君は私が失恋したって思ったのかもしれない。冷やかされると思ったのに。萩原君は私を何処に連れて行こうとしているの? いやだ。このままじゃ、要ちゃんと鉢合せしてしまう。

「お願いだから、そっとしておいて!」

 まつりはその場に立ち止まり、やっとの思いで萩原紀の手を振り払った。

 萩原紀は何か言いたそうだったが、「わかった」と頷き、「……じゃあ、なにか食うか?」と笑顔で言った。

まつりが黙っていると、萩原紀はデパートの地下へまつりを引っぱって行き、ソフトクリームを奢ってくれた。

彼なりに気を使ってくれたようだった。

「……ありがとう」

「気持ち悪いな。俺ビンボーだから、これ以上は奢れないぞ」

「でも、どうしてソフトクリームなの?」

「女って甘い物食ったら、元気になるんだろ?」

「何よそれ。ひどい偏見」

 萩原紀の気持ちが嬉しかったのだが、まつりは照れ隠しに口を尖らせた。萩原紀のおかげで、まつりは人前で泣かずに済んだのだった。

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