消えた古布
執筆の合間の気分転換にと、私は階下の店へと降りて行った。
「お腹空いたよ、眞ちゃん」
カウンターの中で、弟の眞一朗は呆れたように苦笑を漏らす。
「龍ちゃんさっきお昼食べたでしょう」
「だってさ、頭使うとお腹空くんだよ。ホントだよ」
私の言い訳に、眞一朗はわざと眉根を曇らせる。
「で、進んでるの?」
私は笑ってごまかした。
調子が乗っていたらこんなにうろうろしない。
「ねぇ~眞ちゃん~なんかいい話な~い?」
「龍ちゃんが書けないのに、僕が出来るわけないだろ」
「何も話を作れって言ってないよ。何かこう面白いトリックのアイデアとかさ……」
「トリック決まってないんだ?」
痛いところを突かれた。叱られた子犬のように落ち込む私に我が弟は容赦ない。
「締め切りいつ?」
「明日……あ、明後日かな?」
「明日だね」
眞一朗の一刀両断に私はがっくりと肩を落とした。
そう思いたかったのになぁ。
『紅茶専門店 星月』は、星月家の広い庭園の隅にある、小さな喫茶店だ。店主の星月眞一朗が作るスィーツと、淹れたての紅茶が人気を呼んでいる。
スィーツのメニューは月毎に変わるものの、常時20種は揃えてある。紅茶も茶葉の産地だけで12種類、ブレンドやアレンジティーも合わせると50種以上のメニューが並んでいる。
昼時は近所の主婦、夕方下校時を過ぎると、近くの学校の中高生で賑わう店内も、ちょうど隙間の時間帯で、殆ど客がいなかった。
私はいつものように、鍵型に曲がったカウンターの角の席に座って、眞一朗の淹れてくれたオレンジティーを一口飲んだ。
「あ、やっぱりいた。先生」
けたたましいドアベルの音と共に入って来たのは、私の担当編集者の高木だ。
顔はまあ悪くない男で、フレームの細い洒落た眼鏡をかけている。同僚の女性たちからは、「知的でイケメン」などと言われているらしいが、生憎中身に知的なところがないのが残念だ。
高木は挨拶もそこそこに私の隣りに座ると、
「出来てます?」
と、言った。
「全然」
私も即答する。
「しょうがないなぁ~。二次締め切りまで伸ばしますよ。二日だけ」
「三次締め切りもあるのかな?」
「ないですよ。印刷所ギリギリですからね、あと三日で必ず入稿して下さいね!」
入社三年目の年下の編集者は鼻息も荒くそう言った。
私は大袈裟にため息を吐いてみせた。
「なんかいいネタないかなぁ~?」
「物体消失なんかどうですか?」
「マジックのネタ考えてるわけじゃないんだけど?」
高木はへらりと笑ってみせる。
「まあまあ、田舎の友達に不思議な体験をした奴がいましてね」
「ホラー小説を書いてるわけじゃないんだけど?」
「でもミステリーですよ」
「どんなお話なんです?」
眞一朗が水を向けると高木の顔がぱっと輝く。
客商売のせいか、眞一朗にはどこか華がある。人好きのする穏やかな性格と相まって、男女を問わずよくモテる。
一方私は、顔形は同じなのだが、何故か眞一朗に比べ華がないと言われるのだった。
「それがですね……」
高木は彼お気に入りのウバを飲みながら、話し始めた。
「高校の同級生の話なんですけどね、彼は卒業してすぐ地元に就職したんです」
「一年くらい前ですか……彼はダイエットのためにウォーキングを始めたんです。で、その初日ですよ。朝早く彼が川沿いの遊歩道を歩いていると、見知らぬおじいさんに声をかけられたんです」
「どんなおじいさん?」
「それが、髪も髭も真っ白で、仙人みたいな人だったそうです。で、そのおじいさんが彼に近づいて来て言ったらしいんですよ。――あなたは亡くなった自分の息子にそっくりだ。自分は身よりもないしこれを受け取ってほしい――って」
そこまで喋ると、高木は喉を潤した。
「何貰ったの?」
「それが! なんか古い布の切れ端だそうです。着物かなんかの」
「怖っ! なんだそれ?!」
私は思わず身震いした。
「しかもその後ですよ! ……友達は人がいいもんですからね、その布を貰って箱ごと大事に閉まっておいたんです」
「箱に入ってたんですね?」
眞一朗の問いに高木は思い出したように何度も頷いた。
「桐の立派な箱だったそうです。高級な和菓子とか入ってるやつみたいだったって言ってました」
「それで?」
「それから何日かした後に、今度はいかにも怪しい女に呼び止められたそうなんです」
「その女は自分は神の使いだって言ったそうなんですよ」
「わぁ~それはリアクションに困るねぇ~」
私が茶化しても、高木は構わず話を続けた。
「で、その女の言うことには、『神様はあなたがどれだけ心優しいかを試した』と、それで『あなたにあるものを預けて、それを大事にしてくれるか確かめた』んだって話なんです。友達はさすがにそんな話を信じなかったんですけどね、女は『あなたは合格だから、神様はもう預けたものを取りに来た』って、それだけ言って去って行ったらしいんですよ」
「なんだそれ? 合格って言うからには、なんかご褒美ないの?」
「ありました。--それでアパートに帰ってみたら、例の布切れが無くなっていて、代わりに金の仏像が置いてあったそうです」
「仏像~? 神様なのに、仏教?!」
私がそう言うと、高木もううん、と唸った。
「仏像って言ってましたよ……?」
眼鏡をちょっと直して、高木は続けた。
「まぁそういう不思議な話なんですけど……どうです? 物体消失」
今度は私がううん、と唸った。
「そりゃ詐欺だよサギ」
「僕も話を聞いた時にはそう思いましたよ。でも、彼は別に何も損してないでしょう? 何か盗まれたわけでも、お金を騙し取られたわけでも、高い壷買わされたわけでもないんですよ?」
高木は一息に並べ立て、紅茶をすすった。
「布ですよ」
眞一朗はそう言うと、新作のモンブランタルトを私たちの前に置いた。
「わぁ、美味しそうですねぇ」
甘いものに目のない高木は、早速フォークを手に取って食べ始めた。
代わりに私が眞一朗に聞き返す。
「どういうこと?」
眞一朗は穏やかに笑って、頷いた。
「その前に質問。まず、お友達はどこでその女の人に声をかけられたんです?」
「コンビニの前です。アパートのすぐ向かいの。だから、部屋を空けてたのは、ほんの十分くらいだったって言ってました」
高木はペロリとタルトを平らげ答えた。
「部屋の戸締まりは、しっかりしていましたか?」
「窓の鍵は開いてたそうです。でも二階の部屋だし、向かいのコンビニから丸見えですからね。誰か入ってたら気付くだろって言ってました」
「ははぁ。そりゃ甘いよ高木クン」
私がニヤリと笑ってみせると、高木はきょとんとした。
「ええ。甘くて美味しいですよ?」
「ケーキの話じゃなくて」
彼のボケに私はすかさずツッコミを入れてあげる。
「二階の窓から入るのなんか、わけないよ。宅配か引っ越し業者のふりしてトラックを下に用意しておけばいいんだよ。荷台の上から出入りしてさ」
「そんなの目立つでしょう? 十分の間ですよ。窓の外にそんなのいたら、あいつだって気付きますよ。しかも、それで盗まれたのが布切れだけ! そこまで大掛かりに彼を騙して何の得があるんですか?」
「ん~、それはよほどその布切れに価値があったとかさ。組み合わせると宝の地図でも浮かび上がって来るとか……?」
「宝の地図ですかぁ?」
高木は眼鏡の奥の瞳を見開かせ、呆れたような声を出す。
「まあ、例えばだよ」
私もさすがに思い直して付け加えた。
「そんな話、読者は納得しませんよ」
「君に言われたくない」
先に荒唐無稽な話をし出したのは誰だと思っているのだ。
「なにも“宝の地図”にしなくても、“宝”でいいでしょう」
カウンターの中でスツールに腰掛けたまま、眞一朗はくすくすと笑い出した。
「眞一朗さんまで、その布切れが“お宝”だって言うんですか?」
怪しむ高木に、眞一朗は逆に問いかけた。
「そのお友達はアパレル関係の方ですか?」
「え?」一瞬面食らった後、高木は答えた。
「……いいえ、食品会社に勤めてますけど?」
「古美術に詳しいというわけでもない?」
「ええ」
「なのに彼はその布が“古いもの”で“着物”の切れ端のようだと思ったわけですね?」
「そうですね、ええ」
高木はまだぽかんとしている。
「何枚かあったんですか?」
「……ええ、確か十枚以上はあったって、言ってましたよ。それが一枚ずつ和紙にくるんであったとか」
眞一朗は高木の答えに満足したのか、微笑を浮かべたまま何度も頷いた。
「ところで、お友達がおじいさんに会ったという遊歩道には、何か待ち合わせの目印になるようなものはありますか? 時計台とか、橋とか」
「ああ、大橋がありますけど……」
話が急に変わったので、高木も私も戸惑った。
「あれ? 眞ちゃん布の話は? お宝なの?」
「やっぱりそのおじいさんもグルなんですか?」
私達が口々に違う質問をぶつけると、眞一朗は困ったように笑みを深めた。
私は眞一朗より先に、高木に指摘する。
「おじいさんと誰がグルなんだよ?」
「怪しい女ですよ。……あ、でもどうやって、布と仏像をすり替えたんでしょう? 相手がおじいさんじゃ、二階の窓から出入りなんて出来ませんよ?」
「それより、布をこっそり取り返す意味がわかんないよ」
私が呆れてそう言うと、高木はううん、と唸って天井を見上げた。
換気のための扇風機がゆっくりと回転している。
「それは……女の言った通り、人の良さを試された……?」
「何のために?」
「だからそこが不思議な話だって言ってるんじゃないですか!」
「大橋というのは、遊歩道から渡れるんですか?」
「大橋ですか? ええ。渡れますよ」
眞一朗は何故か橋にこだわった。
こういう時、彼の頭の中では既に何かが閃いているのだ。
「何かわかったの、眞ちゃん?」
眞一朗はにっこりと笑って、「ちょっとね」と、言った。
更に高木にこう尋ねる。
「大橋と名前が似たような橋が近くにありませんか? それも最近出来たような橋です」
「あ、ありますよ。去年……いや、一昨年ですか。新しい橋が出来たんです」
「今までの橋は大橋とは名ばかりで、台風で増水すると通行止めになるような橋だったんで、新しいのを作ったんです。で、“新大橋”って名前を付けたもんですから、友達と『芸がないな』って、笑ったんですよ」
高木は言いながら、しきりに頷いてみせた。
「あ、でも新大橋は遊歩道の上を通ってますよ?」
「それでいいんです」
高木の言葉に頷いて、眞一朗はにっこりと笑った。
カウンターの奥で、しゅうしゅうと湯の沸く音がして、彼が背を向ける。
高木はじれたように、その背に向かって訊いた。
「何かわかったんですか?」
ティーポットに高い位置から湯を注ぎながら、眞一朗が答えた。
「わかったというか、推測なんですけど」
「何、なに? 教えてよ」
私も待ちきれずに身を乗り出す。
眞一朗は向き直って、ティーポットにウォーマーを被せ、砂時計をひっくり返した。
「例えばね、そのおじいさんは、古い布の収集家か、あるいは研究者で、そういったものをコレクションしていた人だったとします」
眞一朗は耳に馴染む柔らかな声で、穏やかに話し始めた。
「古い布も、江戸、室町、鎌倉や平安まで遡れるような貴重なものなら、歴史的資料としても古美術としても、高い価値がある場合があります」
「そうなんですか?」
高木の驚きに、私も同調した。
「小さい布の切れ端みたいなものでも?」
「現在残っていることさえ珍しいようなものならね。高木さんのお友達は、古美術にも服飾関係にもさほど詳しくないのに、それを“着物の切れ端”だと思ったということは、僕らが普段着物と言われて思い浮かべるような、晴れ着や打ち掛けみたいなきらびやかな意匠が見て取れたのではなかったかと思うんです」
「はあ、なるほど」
わかっているのか、いないのか、高木はぽかんと口を開けたまま頷いた。
「……だとしたら少なくとも、すり替えられた仏像が18金かそれ以上のもので出来ていたとしても、それよりずっと価値があったのでしょう」
「そのおじいさんのコレクションの中に、そういった価値のある“お宝が”あったとしましょう」
眞一朗はちらりと砂時計に目をやって、続けた。
「そして、それを欲しがる人達がどこかにいたとします。おじいさんは、せっかく集めた貴重な品を易々と他人に渡す筈はない。そこで、彼らは言葉巧みに近付いて、言うわけです。『あなたの亡くなった息子さんの、生まれ代わりの男性がいます。その人にあなたの“宝物”を渡せば、息子さんの未練も断ち切れ、魂も浮かばれます』とか、なんとか。実際はもっと巧妙に言ったでしょうが、そうしておじいさんに、“お宝”を“息子の生まれ代わり”に渡す気にさせたわけです」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」
高木は慌てて口を挟んだ。
「それじゃ、友達は詐欺師の片棒担いだって言うんですか? あいつはそんなやつじゃありませんよ!」
「そうです。お友達は偶然通りかかったに過ぎません。おじいさんが待っていた、“大橋”の前をね」
「えっ?」
驚いて腰を浮かせたままの高木に、座るよう私は身振りで示した。
「恐らく詐欺師達は、『大きな橋の所で、いつ何時に待っていれば若い男が通りかかる。それがあなたの息子の生まれ代わりだ』と、いうような話をおじいさんに吹き込み、自分達は大きな“新大橋”の上で、それらしい若者を用意して待ち伏せていたことでしょう。ところがおじいさんは大きな橋と言えば、昔から馴染みの“大橋”の方だと思い、そっちに行ってしまった。しかも偶然にも、そこで亡き息子にそっくりな青年に会った。おじいさんはまさしく彼に違いないと思い、“お宝”を彼に渡した」
「じゃ、人違い……」
高木が唖然として呟く。
「詐欺師達にしてみればね」
砂時計の砂が落ちきったのを見て、眞一朗は温めていたカップの湯を捨て、ポットから紅茶を注いだ。花のような独特の香りが鼻孔をくすぐる。
「慌てたのは、騙した連中です。おじいさんに『あれは人違いだ』なんて、言えるわけもないでしょうから、なんとか渡した相手を探して、“お宝”を回収しなければならない。それで、彼らは高木さんのお友達を突き止め、タイミングを見計らって、こっそり布をすり替えたというわけです」
「いくらアパートがコンビニから丸見えだと言っても、常に誰もがアパートを監視しているわけでもない。買い物をしにコンビニに入っている間は、人の目が離れている。その隙にこっそりベランダに飛び移ることは、そう難しくはなかったでしょう。後は、出て来る時に、ちょっとお友達を呼び止めて、時間稼ぎをした。きっとアパートとは反対の方を向かせるように声をかけたのでしょう。ついでに例の“神様話”をでっち上げ、それっぽい“おみやげ”を置いておけば、布を貰った経緯も手伝って、警察へ届けることはないだろう。という、算段です」
高木はぽっかりと口を開けたまま、固まっている。
「お友達は警察へ届けましたか?」
眞一朗の問いかけに、高木はただ、ただ、首を横に振った。
「すぐにお友達に連絡して、警察に被害届を出すよう言ってみて下さい。少なくとも、不法侵入と窃盗の罪に問えますから、警察だって動いてくれますよ」
「わっ、わかりましたっ!!」
言うが早いか、高木はドアベルの音もけたたましく飛び出して行った。
「ここでケータイかければいいのに、どこ行ったんだ、あいつは?」
私の呟きに、眞一朗がたまらず吹き出した。
数日後、私は次の執筆の構想を練りつつ、いつもの通りカウンターの角の席で一服していた。
今日はアップルティーに、リンゴと紅いものパイ包みというメニューだった。カウンターには私の他に、居候の速水と、雑誌でスィーツ専門に記事を書いている、ライターのめぐみが座っている。
彼女は今月の新作スィーツを並べて試食をしているところだった。
「パンプキンタルトは、このざっくりしたタルト生地がいいわね。南瓜もクリーミーに仕上げてあって、食感の違いがいいわ。こっちのリンゴと紅いものパイ包みも、色合いもいいし、リンゴの酸味と紅いもの甘さのバランスが絶妙ね」
めぐみが誉め千切ると、眞一朗は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「めぐちゃんにそう言ってもらえると、自信が付くね」
「またまたぁ、眞一朗さんたら」
語尾にハートが付きまくってもおかしくないほど、めぐみは体をくねらせた。
端から見ても丸わかりなほど、彼女は眞一朗に心酔しているのだ。彼のパティシエとしての腕にも、彼自身にも。
「たっ、大変ですよっ! 先生!!」
ドアベルの音もけたたましく、駆け込んで来たのは、言わずと知れた高木だ。
「どうかした?」
「こ、これっ……これっ」息を切らしてそれだけ言うと、彼は私に新聞の三面記事を指し示した。
そこには鎌倉時代の貴重な古布が見つかったということと、それを騙し取ろうとした詐欺師の一味が捕まったという記事が書いてあった。
高木は出された水を一息に飲み干した。
「誰? このメガネイケメン」
めぐみが眞一朗に尋ねているのが聞こえる。
「龍ちゃんの担当さんだよ」
「ああ、龍太朗さんの」
めぐみは興味もなさそうにそう言った後、悪戯っぽく笑って、私に呼びかけた。
「まさか星月先生、直木賞でも当たったんですか?」
『当たった』って、なんだよ。
「まさか! 先生の書く話が直木賞候補になるわけないじゃないですか!!」
私の代わりに高木が勢いよく答える。嫌な奴だ。
「そんなことより、眞一朗さん、見て下さい、これ!」
高木は興奮した様子で、新聞を眞一朗にも見せた。
「先日、眞一朗さんが推理した話と、ほとんど一緒だったんですよ!」
「ああ……この方が高木さんのお友達?」
眞一朗は紙面に老人と写っている青年を指差した。
彼の体験談として書かれている事件の顛末は、先日眞一朗が推理してみせた話とおおむね一致していた。
「ええ、あの後すぐそいつに、眞一朗さんの話をして、警察に行くよう言ったんですよ! そしたら、本当におじいさんが見つかって、しかも騙されていたことがわかって、詐欺師が捕まったんです!」
「それは良かったですね」
眞一朗は人の良い笑顔で、高木の話に頷いてみせた。
「それで、おじいさんの“お宝”も取り返せたんだ?」
高木は何度も頷いて、また出された水を飲み干した。
「海外のブローカーに渡る寸前だったそうで、警察から感謝状貰ったって、言ってました」
「鎌倉時代の、ごくごく初期の西陣が含まれていたんですね」
新聞を見ながら、眞一朗が言うと、高木はカウンターに手を付いて、身を乗り出した。
「眞一朗さんはこうなることをわかってたんですか? どうしてわかったんです?」
「わかってたってわけじゃないですよ」
眞一朗は苦笑を漏らしつつ、言った。
「ただ、これなら辻褄が合うなぁって、思っただけですよ」
〔終わり〕
龍ちゃんが主人公のように見えますが、主役は眞ちゃんです(笑)。
安楽椅子探偵ものというコンセプトで書いてますので、眞ちゃんはカウンターから一歩も出ません。ものぐさなわけじゃないですよ。ほんと。