はじまり
短編です
ずっと誰かの代わりをしていた。独り身だから、時間の余裕がある。融通が利く。それだけで、休んだ誰かの仕事を肩代わりしたり、早めに帰ってしまう人の代わりに残業したりしていた。ソレが日常だった。
私はずっと、誰かの代わりをすることに疑いも持たなかった。
【あなたの代わりは居ない!】
なんて謳い文句で入社したのに、私は誰かの代わりをしている。他のみんなが帰っていく中、後輩の子に「これ、お手伝いしてもらっても良いですかぁ?」と仕事を押し付けられた時、私はもう限界だったんだと思う。作り笑いを浮かべて、受け取って、残業した帰りに、倒れた。
ホント、びっくりするくらい前兆なんて無くて、いや、あったのかもしれないけど、ほんと予想外の事態。道行く人が救急車を呼んでくれてよかった。
基本、健康体で生きてきたから、自分がまさか仕事のし過ぎで倒れるなんて思ってもみなかった。
気を失っていた私は3日ほど無断欠勤をしてしまって、上司と連絡がついたころには、事実上の解雇を言い渡されていた。
私はいつも誰かの代わりをしてきたのに、私が困ったときは、誰も私の代わりをしてくれなかった。
【あなたの代わりは居ない!】
奇しくも、この言葉は正しかったようだ。
医者にも「一度まとまったお休みをとった方が良いですよ」と言われてしまったし、仕事は無くなってしまった。
私は実家に帰ることにした。と言っても、家には誰もいない。両親はすでに他界しているし、ド田舎でなかなか買い手がつかないから、空き家として放置されているだけの家。どうせ仕事を辞めてしまったんだから、休養をとるために、田舎暮らしでもしようかなと、荷物をまとめた。
驚くほど荷物が少なくて驚いた。
昔はもっと多趣味で、いわゆる汚部屋と呼ばれてしまうほどモノを溜めこんでいた私の引っ越し荷物は、段ボール4つ分にまとまってしまった。
引っ越し業者を借りるまでもない。どうせ実家に帰ったら、車が必要になるのだからと、思い切って中古車を買った。仕事仕事で貯金だけは、まぁあったから。貯金しようと思って溜めてたわけじゃないけど。
久しぶりの大金の出費に、心なしかドキドキした。
少し古い型の車に荷物を詰めて、実家への道をひた走る。世界は次第に、人より植物の方が増えていく。
埃臭い家の中に入ると、ひんやりとしてなんだか寂しかった。でも、手つかずのまま残っているから、懐かしさも一緒に込み上げてきた。
とりあえず埃を払おうと掃除を始め、少ない荷物を部屋に運び入れる。引っ越し完了。何とも味気ない。
ホコリの匂いに交じって、正月に帰ってきたときの実家の匂いが脳裏に浮かんだ。あぁ、帰ってきたなぁとジンワリと実感した。
ガスや水道は明日からだから、今日のご飯は近所に買いに行こうと車を走らせて、家から十五分の距離のスーパーでいろいろ買い込んで、帰ってくると、外はだいぶ暗くなって、雪まで降ってきた。
この時期のこの辺は、もう雪が降ってたんだなぁ。都会で過ごす冬は、ほとんど雪が降らないから、懐かしいような、新鮮なような、不思議な心境。
それにしても中古とはいえ車を買ってよかった。それに雪が積もる前に買い物に行けて良かった。エアコンがつかないから、今日は布団にグルグル巻きになって寝よう。
翌朝、窓の外は銀世界に変わっていた。真っ白で、日の光がキラキラと反射している。窓を開けると、口から白い息が漏れた。
玄関を開けて、一歩踏み出すと、足跡がついてくる。
「・・・・へへ・・・えへへ・・・あはっ・・・あはははは!!」
小学生以来のはしゃぎっぷりで、家の庭を駆け回ってしまう、独り身の四十路女には、きっと代わりはいないだろうな。
——ひゃっほ~!!——
新しい雪に足跡つけるの最高~!!




