『遺書(ラブレター)』
さよなら君とティーカップ
君の書く物語が好きでした。
なんて言ってももう君は死んでしまったのでしょう。
どこまでも真っ直ぐで世の中の間違いに苦しんで、そのくせ生きるのがヘタクソで堕落してしまっている人だった。君にそういうと「そんなことない」と少し不服そうに笑って言うんだろうけど。
君の隣を歩くのが好きでした。
君は世界をクリアに見ている。
夏も近い日に君を訪ねに行くと少しやつれていた。
「ご飯たべてる?」
私よりも料理上手な君に言うのもおかしな話だ。実を言うと胃袋を掴まれた相手でもある。
君と少し散歩をした。
澄み渡った青空と入道雲。君はどことなく嬉しそう。私が来たからかな。
君の住む部屋は本に溢れていて、片付いているのに物が多い。私の部屋によく似ている。
君とは高校以来の文芸仲間だった。
遅すぎるパソコンの立ち上がりを記憶にも残らないお互いの確認作業のような話で笑い合う。
君の書く物語は君が死ねば完成されたと思う。
そういう意味では私は数少ない親友の死を望んでいたのだろう。
君のことだから遺作の最後の最後に私が読めるように何かしらやってくれるだろうとか期待もしていた。
君とは随分遠距離になってしまった。
会えないことはないし、なんなら偶に電話もする。
会うと時間や距離なんて関係のない唯一無二の君がいる。
君とする買い物が好きでした。
特に目的もなくウロウロと店内を回るのが好きでした。
君とペアリングでもしておけば少しだけ今の私が満足するかもしれない。
君と飲むお酒が好きでした。
君は私にお酒を勧めてきた。もちろん無理矢理なんてことはない。君はとても優しいから。
お酒は苦手だ。そもそもアルコールがダメらしい。まず臭いがダメだ。そして味もアルコール由来のものがなければと思うがないとただのジュースになる。
ただ君と飲むことだけは好きで、普段全く飲まないくせに君といる時だけは飲んでいた。
君にならどんな醜態を晒しても良いと思っていたのだろう。
君と行く喫茶店が好きでした。
ある時、本一冊読み終わるまで居座ろうとか私が言い出して7〜8時間位座ったことがある。
喫茶店の向かいの本屋でお互いのお勧めの一冊を買って、軽食とケーキとコーヒーを飲みながらダラダラと過ごす。確かこのことは君がネタになったとかで書いているので良ければ探して欲しい。
君の方が読むのは早くて、読み終わるとソワソワしながらメニューを見たり私をチラッと見る。可愛い。
「何か注文する?」
これは目があった時に君が言った科白。
私も君を見てたから目があったのだと今頃気がついた。
そんなこんなで君と私は相性が良過ぎた。
それはもうあまりにも酷かった。
私も一人だと堕落してしまうが、君といると限度がなくなる。ズブズブと沼に嵌り沈んでいく感覚。
一番の問題はお互いにそれを問題視してるくせに心地よく思っていることなんだ。これは君に聞いたわけじゃないから分からないけど。
距離感って難しい。
こんな爛れた関係がずっと続いて、いつかはお互いに変わらず社会に出るのだと思ってた。
ある時、君は水を得てしまう。
ようやく君は生を受ける。
そして君はこの汚れきった世界に残る綺麗なものを書けなくなった。
君の死んだ世界をそれでもまだ綺麗で何とか文章として書けないものかと四苦八苦する私は君を思う。君なら何て書くのだろう。
私はまだ水を得れない。もしかしたら君だったのかもしれない。
水があれば私はもっと生きやすくて、こんなもの書かなかったのだろうか。
なんて気恥ずかしくて君にも言えない。
最後に、この作品は君に見せることは多分ないと思います。こんな告白じみたものを見せられても困るでしょう。そして、君に見せないとどこかに発表することも出来ません。
だから、この作品はいつか君に見せた時か君が本当に亡くなった時、私が亡くなった時に、君に届くような投稿をお願いします。
もう、筆を置いてもいいかもと思って書いてた時のやつです。
運良く、まだ書くことを続けれてます。




