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日常  作者: 本田立直
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幸福な日常

幸福な日常

アラームや日光という自然なもので起きる前に自然と目が覚めたというか、眠れなかったという方が正しいだろうか。なんで今私が寝ているベッドはフレームの一部が折れているのだから、思い出せば昨日の夜何の因果か疲れ切った私がベッドに横になった瞬間「バキッ」という音と共にベッドの木製フレームが折れたのだ。確か昨日はもう夜だからと半ば諦めた感じでいたが、いざ寝てみると寝心地が悪いなんてものじゃなかった。なんせ、腰のところに支えがなくそこだけが嫌に沈み込むのだ。

 そしてもう眠る気も起きないので一階に降りてリビングで過ごそうと、2階にある自分の部屋から出て廊下を歩いて一階につながる階段を降りるとキッチンの方からいい匂いがしてきたので、少し急ぎ足で駆け降りるとその匂いの正体がはっきりしてきた。その匂いの正体は香辛料に近い匂いだったのだ。私はとある料理が思い浮かんだのでドタドタと階段を降りてキッチンに向かうと母親から「朝から騒がしい」と注意を受けてしまったが、そんなのどうでもいい。

「お母さん!それって!」そうお母さんに聞くとお母さんは

「昨日の残りのカレーだけど食べる?」と問いかけてきた。

「食べる!」私は即答だった。

キッチンにあるテーブルでカレーが運ばれてくるのを今か今かと待ち侘びているとカレーが運ばれてきた。このカレーはただのカレーではないのだ。年に1回か2回しかでない骨付きチキンカレーなのだから。このカレーは茶色っぽいいわゆる普通のカレーとは違う。このカレーは骨付きのチキンがたくさん入っているのだ。そしてチキンカレーというのだから茶色っぽいドロっとしたカレーではなく、黄色い少しサラサラしたカレーなのだ。

 そんなふうにまあ長々と説明しても仕方がないので早速口に運ぶ。まずはルーと米だけ食べる。最初はすこしピリッとした感じが口の中に広がるのだが、その後のバター特有のコクとカレーと一緒に煮込まれたチキンの風味が口いっぱいに広がるのだ。そして本命のチキンを手に取る。指がルーに塗れた関係ない。それが我が家での流儀なのだから。そして指がルーまみれになりながらもチキンを口へ運ぶと少し火を入れるだけでほろっとチキンが口の中で溶けていくのだ。普通のチキンカレーはチキンがカレーの中にゴロゴロと転がっているが、このカレーは骨についたままのチキンを丸ごと煮ているからこその特別感があるのだ。

 年に一・二回しか出てこないレアメニューのカレーをがっついていると不意にお母さんが「今日はいつもに増して早いわね」と聞いてきたので、私は「まあ…うん。色々あってね」とお茶を濁しておくことにした。こんな幸せな時間を過ごしている時にベッドがぶっ壊れてまともに寝られなかったなんていって怒られるという最悪な時間にしたくないからだ。

 そうやってしばらく幸せな時間を過ごしていると父親がリビングに現れた。

「あら、お父さんおはようございます」お母さんがそういうとお父さんは「あぁ、おはよう」とだけ返しているいつものやりとりを見ながら「土日だなあ」と思いながら冷蔵庫からデザートとしてヨーグルトを取り出した。そしてなぜ私がその光景を見て土日だというのかというと父親はオンとオフが極端にはっきりしている人で職業的に言えば編集者でライターをしているが、平日は朝5時には家を出て帰ってくるのが11時過ぎ、その反面土日は本に囲まれた自室にこもって資料収集とかアイディアを練っているらしい。

 普段じゃ絶対にリビングにいないような時間に私がいたからなのか父親は「今日はやけに早いな。何かあったのか」と聞いてきたが、私はついうっかり言ってしまったのだ。

「あー…うん。ちょっとベッドのフレーム壊れちゃってめっちゃ寝心地悪くて早めに起きちゃった」

そう言った瞬間一瞬してキッチンの空気が凍りついたのがわかった。

「え、ベッド壊れたのか?」父親がそう言って母親は「あら、ベッド壊れちゃったの」と二人そろって驚いたような様子を見せた。

 その瞬間正直なところ怒られるような気がしたが、二人から出てきた言葉はあまりにも意外すぎる言葉だった。

「ああ、ついにベッド壊れたか。まああれもかなり古いもんな」

「そうね。あれかなり使っていったから壊れるのも時間の問題だったかもしれなかったわね」

その二人の言葉に私は思わず「え、そうなの!?」と声をあげてしまった。

それに反応するように父親が「ああ、今お前が使っているベッドはお前が生まれる前、確か母さんと二人だったときに使っていた代物だからな」

「そうなの!?てことはつまり今私が20歳だから…20年以上も前ってこと」その事実を聞いて私はまたまた驚いてしまった。

「ちょうどいいタイミングだしいっそのこと買い換えるか!」

「そんなあっさり決めていいものなの!?」私はあまりの急展開に思わず聞き返してしまった。

「ああ、いいとも壊れてしまったものは仕方ないんだからな」

 そうだった、お父さんは極端な上に竹を割ったような性格だったということを思い出した。実際父は何かあれば即行動するような人だったと思い出した。

 結局朝ごはんもそこそこにしてベッドを探すことになった。朝食を食べ終えるとリビングにある家族共用のパソコンの前にある椅子へと腰掛けた。そしてパソコンの電源をつけてブラウザを立ち上げるなりお父さんは複数の大手家具屋のネットページを漁った。

パソコンの画面を見ているとどうやら最近の主流はスチールフレームのようで茶色や白、黒といった当たり障りのない色ばかりが並んでいるが、どれもピンとくるものはなかった。

 結局大手の家具屋のネットショッピングサイトを見てもなかなか良さげなものが見つからず、個人の家具屋のサイトを見てみると先ほどよりかは個性的なフレームのベッドが出始めたがやはりこれといったものはなかった。

 もう半ば諦めの気持ちで見ていた最後の家具店のホームページを見ているとトップページにはくまの子家具店という店名らしき名前とキャッチコピーであろう「毎日使うものだからこそ手に取りやすい価格で」という文言とともに柔和な店主の顔写真とともに紹介がされていた。そしてベッドのページを見てみると自分の中に惹かれる色のベッドがあった。そのベッドは大手の家具屋のように派手なわけではないけどどこかシンプルでそれでいて藍色のベッドフレームが目を引く逸品だ。ここにも文言があり「黒よりも重くないけど白よりも柔らかくないそんな不思議な色味をお楽しみください。また、枕元にはスマホや時計が置けるスペースもあります」という文言と夕焼けの中窓から差し込む光でキラキラと光り輝くベッドの写真が映し出されていた。

「これだ!これがいい!」あまりの運命的な出会いということもあってか思わず即決してしまった。

「あとはこっちでやっとくから戻っていてもいいよ」お父さんがそういうので私が部屋に戻ろうとした瞬間スマホがなった。画面をみるとバイト先のコンビニの店長だった。

「はいもしもし」

「あぁ水尾さん。店長だけど今日バイト入っているよね!?」

「入ってますが…それがどうかしたんですか」電話越しの店長はやけに焦っていた

「それがね、店のエアコンが壊れちゃって商品も濡れて今日はもう営業どころの騒ぎじゃないから休みでもいいかな?もちろんちゃんと給料はきちっと出すから」

「…わかりました」

 電話を切った瞬間はあまりの出来事に状況を飲み込めなかったが、徐々に6時間もの休みが確定したという事実を飲み込め、半日も休みがもらえたという事実に心の底から歓喜した。

そしてあまりの喜び様に母親が声をかけた

「バイト休みになった!しかも店側の都合だから給料もちゃんと出る!」

「それは良かったわね」

 母親は私の嬉々とした報告に穏やかな穏やかな様子で見守っていた。

 しかしそれと同時にぽっかりと空いた6時間をどうするかといった問題が発生した。この6時間を無駄にするのにはあまりにももったない。そう思って少し思考を巡らせるととある妙案が思いついた。

「そうだ、映画を見に行こう」自分の頭の中にそんなアイディアがふと思いついた。

 実際最近テレビで本の中に入って本泥棒を捕まえるといういわゆるファンタジー系のアニメ映画のCMが度々流れていて気になっていて一度は見に行こうかと考えたが、結局見てみたいという気持ちよりもめんどくさいという気持ちが勝ってしまいみに行くことはなかったのだ。そして自分のスマホを取り出して上映時間を確認する。見ると上映時間は15時からとなっていた。正直15時は今行くにも早すぎるし、かといって多分今家を出なかったら結局行かずじまいになりそうなのでできるだけ早く家を出ることにした。

 そうと決まれば話は早い。私はカード情報を入れているであろう父親の姿を横目に見ながら自室がある二階への階段を駆け上がる。

 正直服は昨日着ていたものをそのまま着回せばいいしバックも出かける時用のをもっていけば良かったが、なんだかんだメイクに時間がかかってしまい結局家を出たのは10時ごろになった。

 うだうだと歩いて最寄りのバス停に着いた。大学に使っている私鉄の駅ならば歩いても駅には着くが、いかんせんあの路線は都市間輸送に特化していて各駅停車より特急の方が列車の本数が多くなっている逆転現象が起きているのだ。そのため県内を移動するにはもっぱらJRが便利である。しかし、JRの駅は私鉄の駅とは若干離れたところにあるためバスを使わないといけないのだ。

 そしてバス停にある時刻表を見ると無情にもバスは数分前に出発したばかりであった。普段なら15分間隔で走っているのに今日はよりにもよって休日ダイヤのため30分も待たないといけないのだ。

「まさかバスが行ったかりとは」バス停で一人ぶつぶつと呟いていると後ろの方から「ピピンピピンピピン」というウインカーチャイムが鳴り響いたと思ったら。なんと行ったと思いこんでいたバスが遅れて滑り込んできたのだ。

プシューというドアが開く音と共にバスの車内に入り込みICカードリーダーにICカードをかざすとピッという音を奏でた。そして適当に空いている座席へと腰を下ろした。土曜日ということもあってなのか車内には人影がまばらで相席になることもなさそうだ。

 バスは出発すると特に渋滞に巻き込まれることなくスイスイと街中を進み、途中途中でちょっとずつ客を拾いながら20分もしないうちに駅前のロータリーへと滑り込む。

 なんだか今日は昨日とは打って変わって幸運なことが起きてばっかりだ。そんなふうに思うと自然と足取りは軽く普段から見慣れた駅前の風景も幾分か明るく見えた。

 駅前のロータリーに降り立ってエスカレーターに乗り駅構内に入る。さっきも言った通りこの街にはJRと私鉄二つの路線が通っているが路線の性質が二つとも違うため両方ともそれなりに利用者がいる。そんな印象だ。

 私は人通りのある改札を通ってホームへと降りる。この駅は二面三線のホームで特に上り線は使う人が多く快速と各駅停車が接続する関係上二つもホームがあてがわれている。そして私が使うのも上り線なので上り線へと通じる階段を降りるとちょうど接近放送がなっていた。本当に調子がいい。

 ホームに降りるとちょうどよく電車が滑り込んできた。電車についてはよく知らないが聞いた話だとどこか別の路線で使われていたお古の電車らしく、見た目にはわからないが見る人が見ればわかるのだろう。そんなことを考えつつ車内へと足を踏み入れると土曜日ということもあってか制服を着た学生、練習着をきている学生、家族で出かけるであろう人たちなど昨日乗った電車とは対照的にどこか活気があってそれなりに混雑はしていた。JR線は私鉄と違い昔からある線路のためどこか牧歌的な様相を思わせる路線で窓の風景に目をやると一軒家の間にちょっとした畑や果樹園などが並んでいでガタンゴトンガタンゴトンという小気味良い音を立てながら改装していく。

電車は10分もしないうちに目的の駅へとついた。自分が降り立った駅は県庁所在地に位置するためそれなりの人が降りていった。

しかし問題はここからだ。今の時間は11時まだ4時間もある。さてどうするか

まだ昼には早いしとは言っても駅近くで特段何するわけではないと思ったが、ここはあえて何も考えずに街ぶらしてみようと思った。

 まずなんとなくで思いついたのは花小路といういわば江戸時代を再現したちょっとした通りである。そしてそこにある鶴亀座というちっちゃいホールでは数ヶ月前にゼミの先生が講演をするからとゼミ生に呼びかけてきた以来だったのでいって見ることにした。

 鶴亀座がある花小路の通は高校時代によく通っていた商業誌越から一本入った通りにあり、今の世界観とは明らかにかけ離れた通りである。しかしなぜだか今日はがらんとしていた。そんなことを思いながら時計に目をやると昼の12時をさし示していたので駅前に戻っていつもいっている油そばの店で昼食を取ることにした。

 花小路から駅前に戻って油そばの店に行くとすでに中には待っている人がいた。まぁこの店はサイズが三つあるが値段は変わらないため安く多く食いたい学生にとっては味方で尚且つさっと食べれるし学生の味方なのだから。

 そして食券を買って店員に渡すと外で待たされる様に促された。正直外はめちゃくちゃに寒いが今の今まで幸運という幸運に恵まれている自分は耐えれる様な気がした。ちなみに今回私が頼んだのは油そばの大盛りに潰しニンニク、チャーシュー、温玉、胡麻ネギが一つになったセットに味変容のパルメザンだ。

 しばらくすると店員に中で待つ様に促された。中に入るとカウンターだけの店には学生や社会人含めて多くの人で満席だったが、グループが席を立ったためかわりかしすぐに案内され、しかも食券を渡してあったためすぐに油そばが到着した。

 油そばがはいいている器の真ん中には半熟卵が鎮座していてその周りにはメンマやらチャーシュー、刻み海苔なんかが鎮座していた。そして私は卓上にあるラー油トスを3周ぐらい回し入れておくから麺をガッツリ混ぜる。油そばを初めて経験する人からしたら無作法かもしれないが油そばにとってはこれが礼儀というものなのだ。実際油そばというのは器の底の方に垂れが溜まっているため必然的に混ぜる必要があるのだ。

 油そばをズバズバと啜って半分ぐらい食べたところに追加で頼んでおいたパルメザンをぶっ込んでさらに混ぜる。そうするとみるみるうちにチーズが溶けていくのだ。そして溶けたチーズに胡椒をこれでもかとかけるとあっという間に油そばからカルボナーラへと変化するのだ。

そんなこんなで油そばを完食して時計を見るとまだ一時にしかなっていなかった。上映歌詞まではあと2時間もある。さてどうするかと悩んだがそんなおり、授業で先生が言っていたとある本を思い出した。

「皆さん、100万回生きたねこってとある本の記憶違いなんですけど何かわかりますか」

「それって100万回死んだねこじゃないですか」

「その通り。そしてそんなふうに覚え違いを集めた本があるので一回読んでみてください」

そんなことを先生が言っていたのを思い出したので駅前の図書館でぃ感つぶしがてら読んで見ることにした。

駅前にある県立図書館はどこか静かでまさに図書館といった様相を呈していた。この図書館自体は参考図書を探すために何度かきているからどこに何があるのかは大体わかっているので階段を上がって2階へと急いだ。

 2階の一角には図書館に関する本があり、その中に目当ての本はあった。本を読んでみると本当にただ覚え違いのタイトルが並んでいて自分でも容易に想像がつくものや正直なんのことだろうと思った覚え違い集もあったりなど謎解き感覚で読めてとても面白かった。

 そうこうしているうちに結構いい時間になっていたので街をぶらつきながら映画館へと向かうことにした。

 駅前の図書館からうだうだと歩いて15分ほど目当ての映画館に着いた。正直その映画館は正直いつもいっているショッピングモール内にある映画館と違いどこか静かな映画館でぱっと見映画館とはわからなかった。しかしよく見ると見たい映画のポスターがありここが映画館だと確信した。そして扉は締め切られていたためドアを押して入ると受付にいたお兄さんがぶっきらぼうに15:00からの映画ですかと聞いてきたので「そうです」とだけ挨拶をして学生証を提示した。この映画館には以前来たことがあり、学生の場合学割が聞くことをしていたのだ。

受付の男性は学生証をまじまじと見ると「U-25割引ですね」1,500円ですとだけいってきたので言われた通りの金額を支払った。そして不意に「パンフレット入ります」と聞いてきて一瞬何のことか分からず戸惑っていると「うち、一人でやってるんで上映終わるとレジ閉めるんで買うんだったら買うで早く買ってください」そう明らかにめんどくさそうな言い方で行ってきたが、今日は幸福な休日。そんなのに構っている暇はない。そう思って「いらないです」と流すことにした。そして上に行こうとするとスマホの電源は完全に落としてくださいね。撮影禁止なので。そう言われたので渋々落とすことにした。

 この映画館は古くからやっている映画館でエレベーターもなく階段を上がっていくとスクリーンが目に入った。中はごくゴック普通に劇場だがシネコンとはまた違うそんな雰囲気だった。そして駅前だけどあまりメジャーな作品を放映しないということもあってか案の定あまり人はいなかった。

 席は自由なので適当な席について会場を待っているとさっきの受付の人がもう一人来るからと言ってきた。正直そんなのはどうでもよくてむしろ映画に集中したい。そんな欲が高まっていた。

 しばらくするとブーという合図と共に劇場が暗くなっていった。この作品自体はテレビでCMをやっていてふと興味を持った作品なのだが、見てみるとこれが結構面白かった。主人公は由緒唯式一家に生まれひょんなことから本の中に入って本泥棒を捕まえる話だが、最初はファンタジーの世界に連れていかれ、その後はハードボイルドの世界などいろんな世界を巡るが、最終的にその本の呪いは主人公の祖母によるものであり、その呪いをめぐる争いのホラー展開、最後には本の呪いは解かれ、本の館も市民に開放され、主人公は本が嫌いだったはずなのに最終的には小説を書き始める様になるなど感動的な展開であり。正直観た直後は言いたいことの方が多く言語処理が追いつかずまさに言語化の大渋滞が起こっているのだ。しかし同じゼミの友達にこれ「気になってるんだよね」と言ったら「観たら感想教えて」と言われたので無理やり感想を整理した。そしてそれと同時に自分の中で原作買いたい欲が沸々と湧いてきたのだ。

「例の作品見てきたよ」そう友人に送ると

すぐに「どうだった?」と返事が来た。

「一言で言うとファンタジーありホラーあり恐怖ありでしかも最後本が嫌いだったはずの主人公が小説書き始めて」

「一言で言えてないし。てか普通に面白そうだね」

「原作買うけど渡そうか?」

「お、まじ?助かるわ」

「ゼミの時にでも持ってくわ」

「りょーかい」

そんな感じで友達に連絡をしてまた数時間前来た道を戻って駅ビルの中にある本屋へといそいそと足を進めた。

本屋は駅ビルの4階にあるためエスカレーターを乗り継いで本屋に入ると目当ての本はすぐ見つかった。まぁ映画化もされたし当然と言えば当然なんだろうが。そして本を手に取るとすぐにレジへと向かった。

 レジではポイントカードを出してレジ打ちを待っているとブックカバーはかけるかと言う質問だけしてあとは事務作業の様に進めてくれたが、ICカードで払おうとすると「ICだとポイントつきませんが」と言われたので現金で支払うことにした。そんなところまで気遣ってくれるとはと思うと少しだけほっこりした。

 そんなこんなで駅の改札口で電光掲示板を確認すると電車はもうすぐの発車だったので私はスマホを改札機にかざして改札口へと急いだ。今から乗る電車は一番線の奥に切り欠いて作ったホームのため移動にとてつもなく時間がかかるのだ。

 改札を抜けて一番線へと続くエスカレーターを降り小走りで乗るべき電車が止まっているホームへ向かうと電車はまだ止まっていた。そして乗り込んで席に着くとワンマン特有の自動放送と乗降促進音が流れてドアが閉まる。そしてゆっくりと電車は発車していった。そして数時間前にも見た光景を見ながら電車は降りるべき駅へと到着した。

 時間も時間ということもあり駅は帰るであろう穂地の姿でいっぱいだった。そんな人でごった返す中改札を抜けて自宅最寄りのバス停へと向かうバスが発着するロータリーにつながるエスカレータを降りていくとバスが一台信号で止まっていたのが見えた。しかもそのバスは運のいいことに最寄りへと誘ってくれるバスだったのだ。待ち時間もほぼなくバスに乗れると思ってウキウキしていたが、バス停には何人か待っている人がいて座れるか微妙な感じだった。

 バスが到着してドアが開き待っていた人たちが順々に乗っていく中正直座れないだろうと半ば落胆の気持ちで車内へと足を運んだが運のいいことに一人がけの椅子がラスト1席空いていたのだ。

 私は意気揚々とICカードリーダーにスマホをタッチすると空いていた一人掛けの席へと腰掛けてさっき買った小説を読み始めた。結局バスは渋滞にも巻き込まれながら30分ほどかけて最寄りバス停へと到着した。普段は渋滞しているとどこかげんなりしてしまうがむしろ今日は小説を少しでも長く読めたためラッキーだ。

 バスを降りてからもそこか心地いい気分で家路へと向かっていく。昨日の帰りとは大違いで今日はなんだかとっても気分がいいそう思いながらルンルン気分で家へと帰る。

「たっだいまー」意気揚々と家のドアを開けるとお母さんが「あら今日はなんか気分良さうね。なんかいいことあった?」そう聞いてきたので「まぁ色々と」そう軽く答えていた。

「あ、そうだ。ベッドはもう発送されて明日には届くらしいわよ」お母さんが急にそんなことを言い出した。

「それって本当!?」あまりの嬉しさに思わず私は聞き返してしまった。

「えぇ、2時ぐらいに発送メールが来たもの。あとそれとお父さんがこのあとどこかでご飯を食べながら大きいお風呂行かないかって聞いてきたけどどうする?」

「もちろんいく!」私はそう食い気味に答えた。それと同時にふとした疑問が湧いてきた。

「お父さんがそんなこと言うの珍しいね。普段は家から出たくないとか言ってるのに」

「なんでも今日担当していた記事が一区切りついたらしいわよ。それで何食べたい?」

そうお母さん聞いてきたので私は「んー….サッパリ系がいいな」とだけ答えた。するとお父さんがどこからともなく「じゃあいつもの和食チェーンでいいか」と聞くので「そこでいいよと」答えた。本当に今日はついている、そんな日だ。

 そうと決まれば私はいそいそと準備を始めた。高校の卒業記念でもらったトートバックに愛用のタオルと着替えを詰め込んで親の運転する車で温泉へと向かった。今から行く温泉は熱めのお湯とぬるめのお湯の二つしか浴槽がないがそれでもなおリピートする理由があるのだ。親の運転する車に乗ること10分、目的の温泉へと到着した。この温泉は少し前にリニューアルの知らせが回ってきて物は試しで行ったところ家族全員がハマってしまいそこからと言うもの何度も足繁く通うようになったのだ。

 受付に靴を入れたロッカーの鍵を預けそれと引き換えに脱衣所のロッカーの鍵をもらう。何度も見慣れた光景だ。そして待ち合わせの時間を決めて父親と別れた。脱衣所に入って鍵に書かれたロッカー番号の前に着くとロッカーに荷物を預けきているものをとっとと脱いで浴室内へと入っていく。

 浴室は前述した通り洗い場と二つの浴槽に加えて低温サウナも用意されている。前にいていた別の温泉と違いこちらは少々手狭だがこちらには通常の温泉に加えて不感温泉と呼ばれる温泉がありこれが永遠と入っていられるのだ。

 私は掛け湯を済ませるとまずはよくある熱めの浴槽へと入る。この浴槽にはジェットバスと寝湯もあるが普通の温泉の箇所へと腰を据える。少し熱いがゆっくりするにはちょうどいい。浴槽の中でぼっとしてると母親が近寄ってきた。

「ここの温泉やっぱり気持ちいね」

「そうだね」

そんな他愛もない会話をしていながらも少し熱くなってきた。そこで私は今いる浴槽から出て隣接する少し小さな浴槽へと入り直すこちらは先ほどの浴槽とは違い体温ぐらいの温度で少し緩いがその分永遠と入っていられる温度の温泉なのだ。そのあと体を洗ったあと熱めの温泉とぬるめの温泉を交互に入りながら温泉の無限ループを堪能していたら待ち合わせ時間に近くなったので浴室から出て急ぎつつも着替えを終わらせて休憩スペースへと向かうと自分が一番乗りだった。そうと決まればやることは一つ。自販機でコーヒー牛乳を買って味わう。ただそれだけのこと。本当はアイスも食べたかったが、今から夕ご飯だと言うのにそれはダメだと牽制しつつ瓶のコーヒー牛乳を買う。

 ゴトンと言う音と共に落ちてきたビン牛乳は地元の乳業会社のもので小学校時代にお世話になったピンのパッケージを見ながらコーヒー牛乳を飲み干し休憩スペースで待っているとすでに母親も父親も出てきていた。

「何か飲んだ?」

「コーヒー牛乳なら飲んだよ」

「あらそう。まだ水分補給してないから少し待ってて」

「わかった」

 それだけ話すと二人は自販機コーナーへと消えていった。

 二人はすぐに持っていてそれぞれ麦茶のペットボトルを持っていた。

 それから水分補給も程々にして温泉を後にして。和食チェーンへと向かった。そしてその車内では何を食べるかと言う話がされていたが、自分の中ではもう決まっている。それは蕎麦と天ぷらに具沢山のミニ丼がセットになった御膳だ。こんな幸福に塗れた休日を締めくくるにはこれしかないのだ。

 しばらく車を走らせると目当ての店に着いた。和風な外観の店内の扉を開けて店内に入るとすぐに店員が案内してくれた。

 そして席につくなり私は手元のタブレットで目当ての御膳を注文した。そしてそのままの流れで両親の注文もなぜかする羽目になった。

 しばらくすると私が注文した御膳が到着した。やはりこの豪華な布陣は食べたいものを欲望のままに詰め込んだ夢のようなセットだ。

 まずは蕎麦だ。真っ先につゆにつけて食べたくなるがまずは蕎麦単体でいただく。蕎麦を啜ると蕎麦特有の風味が口いっぱいに広がる。そして次につゆにくぐらして蕎麦を啜る。本枯れ節につゆに蕎麦があって美味い。冷たいざるそばに味の濃いつゆが合わさることであっという間に蕎麦を完食した。しかしここでは終わらない。私は蕎麦湯を頼んで梅雨までを味わい尽くすのがいつもの流れなのだ。そしてその隣に鎮座する天ぷらたちに箸を伸ばす。天ぷらはエビ、オクラ、カボチャ、蓮根といういかにもな組み合わせだが、天ぷらを口に入れるとサクッという軽い歯触りが続きサクサクとした天ぷらが口の中を幸せにしてくれる。えびはプリプリで野菜の天ぷらたちは心地いい食感を楽しませてくれる。次にミニ丼に行きたいがここはグッと我慢して小鉢へと箸を伸ばす。この小鉢は小松菜ときのみの白和らしい。口の中へ運ぶと胡桃の風味が一気に口の中へと広がりそばや天ぷらとは違う豊はふみが口の中へと広がった。

 そして最後に残ったミニ丼へと箸を進める。この丼の中央には卵がデカデカと鎮座しその周りには以下やいくら、オクラ、沢庵などが後は案を埋めておりとても煌びやかだ。まずは中央の卵を崩してイカとイクラと共にかき込む。イカ独特の食感にいくらと温泉卵という二つの卵が合わさることでとても美味い。次はネギトロの部分だ。正直ネギトロは特筆すべき点はないが卵の黄身と出会うことによってこの丼の中で存在感を発揮してくれるのだ。そして最後にオクラと沢庵をいただく。おくらは天ぷらとは違いしっかり粘り気を出しておくら本来のポテンシャルを発揮していた。沢庵はあまり好んで食べないがこの丼における沢庵は単なる漬物ではなく口の中をさっぱりさせてくれると同時に食感としての役割を担う大事な存在なのだ。

 そんなこんなで一人で飯を食べているサラリーマンのドラマみたく勝手にこの御膳に思いを馳せながら食べ進めていたらいつの間にか完食していた。しかし誰がなんと言おうと今日以上に幸福と呼べる日はないだろう。そう内心で確信していた。そんなふうに思っていると両親も食べ終わっていた。

 そして会計を済ませ家に帰り、自室に戻って今日の1日を振り返る。まずは昨日食べることのできなかったチキンカレーを食べれたとこから幸運は始まり、ベッドをうっかり白状した時は怒られることはなく、むしろ新しいベッドを買ってもらう機会になり、しかも自分好みの色合いのベッドも見つかり、さらにはバイトが休みになり店の都合であるため給料も出て自由な時間が訪れたのだ。さらには油そばも食べれて映画も見れた。明日には頼んだベッドが届き、さらには温泉にも入って美味いものも食べれた。昨日の不幸が嘘のように幸福な出来事が降りかかってきたのだ。

 ベッドに横たわると案の定寝心地は最悪だが、今日のように幸福なことが起き続けるとそんな些細なことはどうでも良くなってきた。むしろ自分好みのベットが明日届くと考えるとむしろ別の意味で眠れるだろうか心配になってきたが、そんなことはどうでもいいぐらいには京都いう1日は幸福そのものであった。

 そんなことを思いながら私は開いた届く藍色のベッドのことに思いを馳せながら夢の中へと誘われた。


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