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ラジオ大賞参加作品

オルゴールでは音のない舞踏会が開かれている

作者: めみあ
掲載日:2025/12/01


 そのオルゴールには旋律がない。

 木の蓋を開ければ、舞踏会が開かれていて、クルクルと踊り続ける人形たちがいるだけ。


 黒は王

 赤は王妃

 白は聖女

 紫は王子


 一番輝き、栄華を極めた瞬間を切り取った。





「お母さん、そのオルゴール、音が鳴らないの?」


 中学生の娘が携帯から視線を外し、声をかけてきた。

 人形は正常に動いているのに、音が無いことを不思議に思ったのだろう。


「そう。壊れたの」


「直さないの?」


「このままでいいのよ」


 ふうん、と娘は再びスマホに視線を戻す。


「このままがいいのよ」


「え?」


「なんでもない」


 

 家族が家にいて、天気がよく穏やかな日に、私はこのオルゴールを開く。


 今の幸せを味わうためだ。


 同じ動きをする人形たちを目にすれば、いつでもあの頃の私に戻る。


 大昔の、豊穣(ほうじょう)を司る女神だった頃に。


 私は、信仰心と引き換えに実りを与えてきた。

 満ち足りていて、誇らしかった。


 けれどもある日、人間のなかに奇跡の力をもった者が現れた。その者は聖女と呼ばれ、人々に癒しや微々たる実りを与えた。


 やがて彼らはその者を(あが)め始め、更に王家も聖女を女神の化身だと宣言し、王族として迎え入れた。

 

 次第に私への祈りは途絶えていき、豊穣の力は枯れ、私は暴走し、国を滅ぼした。

 

 

 滅ぼすと決めた日。

 空は穏やかに晴れていた。


 その日は聖女と王子の結婚式の舞踏会だった。


 美しく着飾り、微笑み合って国の行く末が安寧(あんねい)であると信じ切った瞬間、魂ごと切り取り、オルゴールに閉じ込めた。


 徐々に倒れる国を見せるより、永遠の苦しみを与えたかったから。

 

 

 私は罰として神の地位を剥奪され、見知らぬ世界で人として生きることとなった。

 オルゴールだけ、この手に残すことを許されて。


 ――中身を知ったら許さなかっただろうけれど。



 よくよく見れば、踊る人形たちの表情が苦悶に満ちていることに気づいたはずだ。


 彼らの魂はまだ生きている。

 

 あるときは涙を流し、

 あるときは憎しみを向け、

 あるときは絶望の笑みを浮かべている。


 同じなのは、蓋を開ければ怨嗟(えんさ)の声が聴こえること。


 これがとても心地よい音色で、

 私の心も踊る瞬間だ。



 



 隣家から赤ん坊の泣き声がして現実に戻る。


 携帯から目を離さない娘。

 ソファで本をめくりコーヒーを飲む夫。

 これが日常。

 

「ねえ踊ろっか」

 何の気なしに娘に声をかければ、胡乱(うろん)な瞳を返された。

 

 その反応に満足し、ふと思う。


 ――物好きな神様が今日を切り取ってくれないかしら。

 そうすれば、永遠に家族といられるのに。


 と。

 



 



読んでいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
こ、こわい……(´;ω;`) 日常に隠れる狂気って感じでじわじわ怖いですね……。でも(元)女神さまは聖女に取って代わられたとき、自分の存在がなくなったようで苦しかったのでしょうね……。 オルゴールの怨…
とても千文字に思えない濃密さ! あたたかな家族とのひとときとは違い、オルゴールの中では怨嗟の声が聴こえると。 怖くて物悲しいです。 リアクションスイッチ全押しさせていただきました。 良かったです。…
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