表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】  作者: スズキアカネ
清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/73

恋に迷える子羊はどこに行けばいいですか?

「あげはちゃん、夏祭りの日は家まで迎えに行くから待っててね」


 そう言って笑顔を向けてきた嗣臣さんの笑顔は眩しかった。夏の暑さにうんざりしていたはずなのに、胸がドキドキして仕方なかった。

 夏祭り…去年も行ったけど、あの時は茉莉花も入れて3人だったし、全く意識していなかったから……


「わ、わかりました…」

「浴衣着てくれるんでしょう? 楽しみにしてるね」


 彼の手が伸びてきて私の首もとに触れた。

 暑いので髪の毛を結んでいた私の後頭部と首を手で撫でる嗣臣さんの手。汗をかいてベタついているので恥ずかしくて身じろいだ。

 だけど嗣臣さんは「かわいいなぁあげはちゃん」といつもの調子で私を褒め称えるのみ。嗣臣さんの目には私がどう映っているのだろうか。不思議で仕方ない。


「あの…最近、どうですか?」

「なにが? 試験のこと?」

「それではなくて…ご家族とか…」


 先日私を待ち伏せしていた件で、うちのお父さんがビシッと言ったことで、駄目親父が逆恨みして嗣臣さんに八つ当たりしたりしてないかなって気になっていたんだ。

 だけど嗣臣さんは首を傾げて不思議そうな顔をするだけだった。


「特には何も。気になることがあるの?」

「あ、いえ、なにもないなら大丈夫です」


 私が首をぶんぶん横に振ってなにもないと告げると、彼は「変なあげはちゃん」と笑っていた。

 

 実母とお茶をしていた時、駄目親父&再婚相手と対峙している時の嗣臣さんの顔は感情のないマネキンのようだった。

 親の前でずっとそうなのだろうか。

 そしてあの親はそれに気づかないのだろうか。


 彼にあんな顔をしてほしくない。あれでも嗣臣さんの親なんだけど……彼に近づけたくないのだ。

 私には彼らを引き離す権利などないのだが、嗣臣さんにこれ以上親の勝手で傷ついてほしくないのである。



■□■


 

 お祭り会場の明かりが人々を明るく照らす。夕暮れがじわじわと闇に侵食されて行き、短い夏の夜が始まりを告げた。

 夏祭り会場は人でごった返しており、知り合いがいても見つけられない自信がある。

 沢山の人の中で、若い女の子が浴衣姿で鳥居前にて誰かを待っている姿があった。彼氏らしき男性が来ると嬉しそうに表情をほころばせていた。

 それを見ていた私はちらりと横にいる彼を見上げた。…私も彼と並んで歩いていたら彼氏彼女に見えるのであろうか?


「ふふふ」


 歩きにくい下駄でちまちま歩いていると、突如隣の嗣臣さんが笑い出した。


「…どうしたんですか? 面白い出し物でもありました?」

「こんな綺麗なあげはちゃんを連れて歩けるのが幸せなの」

「盲目過ぎませんか」


 本当、私のこと好きすぎだろあんた。

 迎えに来てくれた嗣臣さんはまず私の浴衣姿を上から下まで観察したのち、「はぁかわいい」と漏らして写真撮影してもいいかと問いかけてきた。そこからのコレである。

 褒められるのは嬉しいが、嗣臣さんの整った顔がデレデレに溶けてしまいそうで心配である。


 20時過ぎから打ち上げ花火が行われる。これからもっと人が増えそうだ。嗣臣さんと恋人繋ぎして人混みの中を行く。油断したらはぐれてしまいそうだ。


「──あれ、西?」

「西君!? 久しぶり!」


 その声に私はぱっと嗣臣さんの手を離してしまった。完全なる無意識である。自分の知り合いに会った時の気まずさに似ていた。嗣臣さんがこっちを見下ろして目が合う。私は気まずくなって目をそらしてしまった。


「なんだよお前元気にしてたのか?」

「…うん、久しぶり」

「その子誰? 西君彼女出来たの?」

「西君すっごくかっこよくなったよねー!」


 嗣臣さんの同級生らしき人たちがワチャワチャと寄ってきた。私はその勢いに押されて後退りすると、ドンッと通行人と肩がぶつかった。


「あっ、すみません」


 ぶつかった人に謝っていると、人の流れに飲み込まれ嗣臣さんとの間に人垣が出来てしまった。

 その場で動かずに立ち止まっていると、人の邪魔になっているようで迷惑そうな顔をされたので、道の端へと寄っていく。フランクフルト屋とじゃがバター屋の屋台の境目の前で立って待つことにした。

 話が終われば、こっちに気づいて声を掛けてくれるだろうと思っていたから。


 嗣臣さんとその同級生の会話が終わるのをソワソワしながら待っていると、膝付近をむしっと握られる感触がした。

 膝を触る? 高度な痴漢か? と思って視線を下に下げると、そこには私の足の長さくらいの背丈の男児がいた。私を見上げ、ビクリと引きつった顔をすると、その大きな瞳に涙を浮かべていた。


「うぇっ、うぇぇ、おかあしゃん…」


 どうやら男児は私をお母さんと間違えて、見上げたら別人だったので驚いて泣いてしまったようだ。

 迷子か。

 あたりを見渡してみて、迷子を探しているお母さんらしき人はいないか探してみたが…わからない。


「まいったな…」


 私は頭を掻こうとして、今日は浴衣に合わせてヘアセットしてることを思い出してそっと手を離す。

 とりあえず、警察詰め所に連れてくか……後ろの屋台のおじさんに警察詰め所はどこか聞くと、私はしゃがみこんで男児に声を掛けた。


「お巡りさんのところに行ったら、お母さんが迎えに来てくれるから一緒に行こうか」


 私が声をかけると、彼はビクリと怯えていたが恐る恐る頷いていた。

 嗣臣さんのことが気になるが、連絡先は知っているので、この子を預けた後にでも連絡しよう。彼からも連絡が来るかもしれないし。



 臨時のお祭り会場警察詰め所に迷子を連れて行くと、そこにいた女性が誰かの名前を叫ぶと、泣きそうな顔で腕を広げていた。


「お、おかあさん!」


 男児はその腕に飛び込んでいった。お母さんと無事に再会できたみたいだ。よかったよかった。

 男児のお母さんからは何度もお礼を言われ、男児にも泣き顔でお礼を言われた。お礼を申し出されたが、そこは丁重にお断りしておいた。

 うんうん、いいことしたな。怪我もなく、早めに再会できてよかったね。


 さて、私も嗣臣さんと合流しなきゃ…とスマホを巾着から取り出して私は固まった。なんてことだ、通信が不安定になっている。

 アプリを立ち上げてメッセージを確認しようとしたが重い、通信できない。メールを送ってみるが、送信に時間がかかる。電話すると『電波の届かない場所に…』とアナウンスがかかる。


 この時間帯は一番回線が重くなる時間である。完全に失念であった。スマホ画面中でクルクルと回っている通信中マークがムカつく。


 私は顔を上げて目で嗣臣さんの姿を探してみた。

 だけど人、人、人の会場。

 見つけ出す自信がまるでない。


 どうやら今度は私が迷子になってしまったようである。


 

 私は人の波に流されるように歩いた。

 歩いていて思い出したけど、迷った時は動かずにその場にいたほうがいいって…だけどこれ登山じゃないしね…。

 何度かスマホを確認したが、通信は不安定なまま。アプリを何度か起動して情報を更新したが、通信できませんと表示されるのみ。


『会場へお集まりの皆様、この後20時15分頃から花火大会を開催いたします…』


 頭上のスピーカーから流れた放送に私は焦った。

 首を動かして嗣臣さんの姿を探していると、ドッと人の肩にぶつかり、私は地面に尻餅をついた。人探しに夢中になって目の前の人に気づかなかったのだ。

 ぶつかった相手はこちらをちらっと見たが、何事もなかったかのようにそそくさと去っていく。

 ……私も不注意だったけど、その態度はどうなんだ。


 私はため息を吐いてノロノロと立ち上がる。土埃が着いてしまったお尻部分をパタパタ叩いた。

 あーぁ、浴衣が少し着崩れてしまった。髪は乱れてないだろうか。

 出かける前に何度もお母さんに最終チェックをしてもらった。嗣臣さんにもキレイって褒めてもらえたのに……


 自分ってば何してんだろうな。

 私はがっくりと肩を落として項垂れたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ