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三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】  作者: スズキアカネ
清く正しく美しく! 三森あげはを夜露死苦!

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いびつな家族。

 ジリジリと日差しが突き刺す7月の夕方頃、部屋でゴロゴロしていた私にお母さんが命じた。


「スーパーに買物行ってきて」


 そうめんとめんつゆ、そしてスイカという…夏の風物詩を買ってこいとの命令である。

 1人でそれらを無事運んで帰れるかな…特にスイカ。と不安に思ったが、助っ人を用意してくれた。うちに遊びに来た嗣臣さんである。

 夕方でも暑い外。家から出た瞬間ムワッと湿気が襲う。私は回れ右して家に帰りたいと思った。なのに隣にいる嗣臣さんは涼しい顔をしている。むしろなにか楽しそうだ。


「…嗣臣さん、暑くないんですか?」

「暑いよ?」


 嗣臣さんって汗とかかくのだろうか。あまり汗臭いイメージがないんだけど。

 暑いって言ってるくせに私の手握ってくるし。


「今日の晩御飯はそうめんかな?」

「間違いないですね」


 まぁ、私もその手を解けないから暑さに脳がやられているらしいけど。

 本当、恋というのは厄介な病である。



 お使い先に指定されたのは徒歩15分先の大型スーパーである。今日は土曜。買い出しに来た大勢の客でひしめき合っていた。店内には家族連れやカップルの姿が多く見られる。


「スイカこれかな?」

「大きくないですか?」

「すぐ食べちゃうよきっと。ほぼ水分なんだし」


 大玉のスイカのネット紐を持ち上げたはいいが、これ持ち帰るのしんどいぞ…私は持つの嫌だからな。車で来たのであればそれもいいけど、今日私ら徒歩できたんだしさ…

 買い物かごには徳用そうめんとめんつゆ、薬味類が入っている。それにスイカを購入したらおつかいコンプリートなのだが、スイカのサイズ問題にぶち当たった。

 私は半玉のでいいと思うのだけど……お母さんに電話で確認しようと私はスマホで電話をかけた。


『もしもし』

「あ、お母さん?」

「…嗣臣?」


 3コールめでお母さんが電話に出たので、相手に呼びかけたその時、別の誰かが彼の名を呼んだ。お母さんが『なに、どうしたの』と言っている声は聞こえたが、私は背後から聞こえた男性の声に反応してしまった。


「……父さん」


 嗣臣さんの声と顔は冷え冷えとしていた。だけどそれは相手も同じだ。……父さんと呼ばれた男性は40代くらいの女性と一緒に並んで買物カートを押していた。


『もしもし?』

「…あのさ、スイカ、半分が良い? 一玉? 大玉?」


 お母さんの呼びかける声にはっとして、私はスイカのことを聞いた。


『大玉はいくらくらいなの?』

「えっと…」


 私がお母さんと通話している間も後ろで彼らは何やら会話をしているが、まるで他人同士のようにその会話は空虚であった。


「お前、ここで何してるんだ」

「見ての通り買い物だけど」


 反抗期とかそういう可愛いものじゃない。淡々としているのだ。この間お母さんとの間で養子縁組云々を持ち出されて心乱されていたのにここへ来てお父さんと遭遇とか…嗣臣さん大丈夫か?

 私はお母さんとの電話を終えてそちらに向き直ると、彼らの会話を邪魔せぬよう黙って待機していた。


 嗣臣さんのお父さんの隣にいるのが、嗣臣さんの義妹の実母で、長年の不倫相手か……優しそうに見えてなんというか……


「嗣臣君、全然うちに帰らないから心配していたのよ?」

「…ご心配いただかなくても結構です。俺はそんな子どもじゃありませんから」


 嗣臣さんはドライであった。

 だけど彼の反応は仕方ないと思う。息子が多感な時期にこの父親と再婚相手は不倫して息子を放置していたんだからな。自分に置き換えて考えたらぞっとするな。


「嗣臣。心配してくれている母さんに失礼だろう」

「父さんの再婚相手なだけで、俺の母親じゃないだろ。やめてくれよそういう家族ごっこ」


 突き放す言葉をどう受け止めたのか、再婚相手の女性は口元を手で抑えていた。それをハッとした父親は彼女の肩を支え、嗣臣さんをキツく睨みつけた。


「お前っなんて酷いことを」


 酷いのはどっちなのだろう。と第三者かつ、嗣臣さん贔屓の私は思うのだ。

 なんという三文芝居。

 嗣臣さんも目の前の状況にイライラしているけど、私までイライラしてきたぞ。嗣臣さんが実家が嫌いって言っていた訳がよくわかった。毎日こんなのに付き合ってられないよね。


「今まで子どもを放置してきたくせによく言うよ。あんたが大事なのはその人だろ。…悪いけど今更家族ごっこするのはごめんだ」


 嗣臣さんは黙っていなかった。

 ブチ切れて元ヤンモードに切り替わったら流石に止めてあげようと心に決めた私は彼を静かに応援した。

 言ったれ言ったれ。長年の鬱憤をぶつけてしまえ。


「親に向かって何だその口の聞き方は!」


 …駄目親父だな。説得力がまるでない。父親の威厳を守るために理不尽な言い訳をして息子を押さえつけようとしているんだ。

 それにこの再婚相手も泣いているけど、多分嘘泣きだ。悲劇のヒロインぶりたいだけのしたたかな女。この人、同性に嫌われるタイプだろうなぁ。その代わり男ウケはする。


「だいたいなんだお前、その娘は。親の事どうこういう前に、お前こそ学生の分際で女を部屋に引き入れているのか! 親の金で生活できているのに何様のつもりだ!」


 えっ、部屋に入ったことないですけど……

 あんた…義妹になった中学生女子を血の繋がらない義兄の部屋に入っていいと許可しておいてそれはないだろ。言ってることとやってることがメチャクチャだよもう…

 この人本当に嗣臣さんと血の繋がりのあるお父さんなの? 失礼だけどお父さんもお母さんもちょっと頭が弱い人に見えるんですけど……


「派手そうな娘だ。紬が言っていたぞ。素行の悪い女とお前が付き合っているって。悪いことは言わん。早く別れなさい」


 素行の悪い女とは失礼な。

 私は強く毅然と逞しく……間違った。清く正しく美しく真っ直ぐに生きている淑女だってのに。

 ちょっとだけ、襲撃してくる不良を懲らしめたが、あれはしかたなくやっただけだもん…


「ろくな女と付き合うと人生を棒に振るぞ。お前の実母のように」

「……俺はあんたと母さんの不倫の邪魔をしなかった。だからあんたも俺の恋愛に口を出さないでくれ」


 嗣臣さんの雰囲気が変わった。

 お母さんを侮辱されたのが腹立たしかったのか。父親が偉そうにそんな事を言うから怒りが抑えられなくなったのか。

 それとも、私を悪く言うからブチギレ寸前なのか。……全部かな?


「金を出してもらうから色々我慢してたけど、こればっかりは我慢ならない。…彼女を、あげはちゃんを侮辱するな」

「お前のためを言っているのにか」

「アンタだって今さっき、再婚相手のこと庇っていただろ。…同じことだよ」


 それもそうね。

 でもこの父親最初から最後まで説得力がないので、嗣臣さん我慢の限度が超えちゃったのかもしれないね。お前が言うなって言っても良いんだよ。


「……勝手にしろ、後で痛い目見ても知らんからな」


 捨てゼリフを吐き捨てた父親は私をジロッと睨みつけて踵を返していった。その隣にいた再婚相手は泣いていたのが嘘かのようにケロッとしている。

 私と嗣臣さんはスイカが並べられている果物コーナーで軽くバトっていたので同じ買い物客から注目を浴びていた。視線が痛い。

 なのでスイカを抱えると、私は嗣臣さんの手を引いてレジに急いで向かった。

 …しばらくここに来れなさそうである。



 私もとばっちりでディスられたけど、自分のことよりも彼のことが心配だった。

 嗣臣さんが何をしたっていうんだ。何だあの父親も母親も継母も……嗣臣さんを一人の人間として全く尊重していない。道具のように見ている気がして……私は腹立たしくなってきた。


「あげはちゃん、ごめんね」

「帰りますよ」


 なぜ嗣臣さんが謝るのか。彼からそんな言葉なんて聞きたくなかった。なので彼の言葉を聞かなかったふりをした。

 お会計を終えたあとは、嗣臣さんの腕を引っ張って家まで連れて帰る。とにかくこの場所から彼を引き離したかったのだ。

 家に帰ると買ったものを玄関に置いて、自分の部屋に直行した。お母さんが下でなにか言ってるけど今はそっとしておいてほしい。


「あげはちゃ…」

「座ってください」


 私が床を指し示すと嗣臣さんは目を丸くしていたが、そろりと正座した。私は両腕を広げて彼をギュッと抱きしめた。

 きっと彼は平気だよって笑うはず。

 だけど傷ついているはずなんだ。

 諦めよう忘れよう無関心になろうと自分に念じているけど、心のどこかがひび割れてしまっているはずなんだ。


 …気の利いた言葉何一つかけられない。

 こんなことならあの駄目親父にガツンと一言言ってやればよかった…!

 ぎゅううと抱きしめると、嗣臣さんが私の背中に腕を回してきた。


「…大丈夫だよ、俺は。……今ではあげはちゃんや琥虎、おじさんおばさんが家族みたいなもんだから」


 ほら、やっぱり大丈夫っていう。

 こんな時くらい強がらなくて良いんだ。ここには私しかいない。弱音くらい吐いて良いんだ。

 わしわしわしと彼の黒髪を撫でると、嗣臣さんが小さく笑う声が耳元に届く。


「俺、西の姓を捨てて三森嗣臣になろうかな」


 嗣臣さんが言っていることを理解するのに3秒位遅れた。西を捨てて三森に…三森嗣臣?

 理解が追いついた後には、私の身体は1度位熱が上がった。


「なんだい、お付き合い飛び越してプロポーズしたのかい? 嗣くん」


 私がツッコミを入れる前にどこからともなく現れたお母さんが冷やかしを入れてきた。


「ノックしてよお母さん!」


 どこから聞いていたの!? ていうか見ていたの!?

 慌てて嗣臣さんからばっと離れると、お母さんがニヤニヤした目でこっちを見てくる。そして嗣臣さんは私の腰に腕を回して引き寄せてくるではないか。


「なんでっそんなっ私が嗣臣さんをお婿にもらうみたいじゃない!」


 私が吠えると、お母さんも嗣臣さんも笑っていた。



 その時の私の反応が面白かったのか、お母さんは夕飯の時にこんな事を言いだした。

 

「あんた、孫が意外と早くできるかもしれないよ」

「!?」

「何っ!? 駄目だぞ嗣臣、あげはもお前もまだ学生なんだぞ!」

「親父が言うなよ」


 ガチで信じるお父さんを茶化す兄。

 私は必死に否定していたが、家族みんなニヤニヤしてこっちを見ているのだ。私の熱はずっと上がりっぱなしだった。そんな私を見て嗣臣さんも笑っているし……だけどその笑顔はとても幸せそうで、私はその顔を見ていると胸がキュンキュンしてしまい、色んな暴れる感情が忙しなかった。


 家族で囲うテーブルの下で嗣臣さんが握ってくる手を振りほどけなかった。

 

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