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三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】  作者: スズキアカネ
紅蓮のアゲハの娘は恋を知らない

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許せなければ許さなくても良い。合わない人はどう頑張っても合わないのだ。

「久しぶりだね、あげは」


 そう声を掛けられたはいいが、一瞬この人誰だろうと困惑した。

 だけど勝手にペチャクチャ喋っている内容からして、相手が母方の祖母であると理解した。しばらく見ないうちに老けたな……

 私はこの祖母が…母方の祖父母が苦手だ。そもそも苦手にしているのは何も私だけじゃない。実子であるお母さんも苦手……苦手よりも深い複雑な感情を向けていると言っても良い。

 過去に色々あったみたいだけど、今では半絶縁状態である。距離をおいてようやく平穏が訪れたのに、嵐は向こうからやってくるのだ。


 なんでかって言うと、この人がやってくるときは絶対に金の無心があるからだ。

 親族だ。血のつながった祖母だ。助けを求められたら助けなきゃいけないというのはわかっているのだが、そういう次元の話じゃないのだ。それにあまり気持ちのいい話じゃないしね。


 客間に通したが、お母さんはお茶を出さなかった。それを気がきかないとかなんとか言っていた祖母だったが、思い出した様子で用件を持ち出した。


「父さんが脳溢血になってね、金がないんだよ」


 そうなのか。連絡が来なかった…ていうか連絡先を教えていないから情報が伝わってこなかったな。 


「…医療保険は? あの人の年齢なら一定の金額までの負担で済むはずだろ」

「年金給付額が雀の涙なんだよ。保険なんか入ってない」

「……年金ちゃんと払わなかったからだろうが。貯蓄しなかった自分達が悪い」


 ピリピリしていた。

 私は流れでここに同席しているが、離れたほうが良いのだろうか……

 お母さんは実母への憎悪を隠していない。だけど祖母はグチグチといかに自分が大変なのかを語っていて、お母さんのそれに全く気づきはしない。


「育ててやったんだから、気持ちよく金を出したらどうなんだ」

「…どの口がっ…」


 お母さんは冷静さを失って怒鳴り返そうとしていたが、次に放たれた祖母の一言に言葉を失っていた。


「お前ができないならあげはに介護させな。女が学校に行ってもしょうがないだろ」


 なんと。こっちに飛び火してきたぞ。なぜ私が学校を休んで介護せねばならんのだ。おかしな話である。


「やだよ。それは配偶者であるばあちゃんの役目でしょ。私を巻き込まないで」

「老人に何いってんだ。冷たい孫だね…」

「介護認定されるなら施設に預けるとか、ヘルパー雇うとかしたら良いじゃない」


 私その辺詳しくないけど、ろくに調べもせずに金払え介護しろと押し付けられても困る。


「施設がいくら掛かると思ってんだ。それとも何だ? あんたの母親が全部出すのか?」

「それは知らないけど、行政のサービスとか病気のこととかちゃんと調べた? 駄目だよそういうの放棄しちゃ」


 祖母はいつもそうだ。

 とにかく金を貸せとせびってくる。お母さんが折れて貸すけど返したことは一度もない。貸したお金を細かく記録はしてないだろうけど、けっして少ない金額じゃない。

 まず自分で調べたり動くのではなくて、とにかく誰かに寄りかかろうとするのだ。愚痴っぽくて、恩着せがましいと言うか……。お母さんがグレちゃうのはわかるなぁと理解してしまうくらい、毒祖母である。


「あんたの言っていることはわけがわからないよ。小難しい話はあたしゃわかんないんだ。とにかく香桜里、あんたは子どもなんだから親の面倒を見るのは当然のことなんだよ!」


 その言葉にお母さんは苦々しい表情をしていた。

 私は小さい頃からお母さんのこの顔を見る度に自分のことのように苦しくなった。小さい頃の私は母と祖母に仲良くしてほしくて、母に残酷なことを言ったこともある。

 だけど今では理解しているんだ。

 いくら血の繋がった親子でも合う合わないがあるんだって。一緒にいてもいいことはない。いくら子であるお母さんが変わっても、親である祖母は変わってくれないのだと。

 ならば離れるしか選択肢はない。

 お母さんにはお母さんの人生があるから。


 あー…だけど脳溢血の祖父を放置して野垂れ死にされたら目覚め悪いしなぁ……

 だけど私にはお金ないし、介護も無理だ。学生生活を犠牲にしてまで介護してやる義理もない。



「親の面倒見るのは直系血族の扶養義務だ。嫁さんが捕まらないように介護費は負担しましょう」


 割り込んできた声に私は振り返る。客間の襖の向こうから聞こえてきたぞ。襖をそっと開けると、そこには作業着姿のお父さんの姿。今日帰ってくるの早いね。

 ……父はどこからどこまで話を聞いていたのだろうか。お母さんの隣に胡座かいて座ると、腕を組んで祖母に視線を投げかけた。

 祖母は何を思ったのか嬉しそうに笑った。


「話が早いね。はじめからあんたに話せばよかった…そしたら早速」

「脳溢血で障害が出て日常生活に支障が出ているのであれば、ヘルパーか施設に入れたらどうです? 行政サービスを使っても足が出てしまった分は業者からの請求書回してくれたら払っておきますよ」


 私が言っていたことに更に付け加えたような事を返していた。

 顔は真顔だけど、実はお父さんも怒ってるんだろう。


「そんな…そしたらあたしはどう生活すればいいんだい! 金が無いんだよ、あたしが求めてるのは現金なわけさ!」

「お義母さんの食い扶持はご自分で稼いでください。そこまで面倒見る筋合いはありませんね」


 唾を飛ばす勢いで金金騒ぐ祖母は醜悪だ。

 …百歩譲って祖母が足腰弱くて病弱ならわかるけど、まだまだ元気そうだものね。今日ここに来るのにタクシーで来てたみたいだし……本当に金がない人はタクシーなんか乗らずに公共交通機関を使うんだよ? もしくは徒歩か自転車ね。知ってた?


「この香桜里を育てるのにどれだけ金がかかったと思ってるんだ! それを返すと思えば安いもんだろ!」


 またそんなこと言って…

 子どもを何だと思ってるんだこのババァ……同じ血が流れているのに、情が湧いてこない。お年寄り相手に労りの気持ちが湧かない。なぜなのか。


「未成年の子どもを育てて扶養するのは親としての義務ですよ? そもそもあなた達、それを途中で放棄したじゃないっすか」


 お父さんは姑の言葉にも引かなかった。まさにごもっともな話である。

 普段は昔の武勇伝を語っている痛い親父だが、その姿が頼もしく見えるぞ。いつもそんな感じならいいのに。


「うちの両親はバリバリ働いてるし、あんたと同い年の親戚も掃除スタッフとして今も頑張ってる。スキルがなくても選ばなきゃ仕事はある。身体がきつくても生きるために働いてる人は沢山いるんだ」


 ぬっと立ち上がった父はゴリマッチョである。その顔は強面で、ヤンキー臭が未だ漂っている。威圧感がすごい。

 父は母のことが大好きだ。そして私達子どもを大切にしてくれている。

 彼は家族を傷つける人間を見逃してはやらない。祖母は竜の逆鱗に触れてしまったのだ。


「あげははあんたらの介護要員じゃないし、うちの嫁さんもそうだ。…話が済んだならとっとと帰りな」


 父がお怒りだとようやく気づいたのか、父が怖いのかは定かじゃないが、祖母はビビった様子で固まっていた。


「ばーさん、そんなに大変なら俺が介護してやろーか? その代わりお小遣いちょうだいね?」


 いつ帰ってきたんだ。

 高校卒業して、進学先の大学が決まった兄琥虎は長い春休みを知り合いのカーショップでバイトしている。帰ってくる時間がバラバラで、時々遠乗りしているようなので、帰ってこないこともザラなのに今日は帰ってくるのが早い。

 三森家全員に鬼婆センサーが走ったのかな。

 兄が有料で介護してやろうか? とからかうように声をかけると、祖母は更に萎縮していた。先程までお怒りで顔を真赤にさせていたのに、父と兄という背がバカでかい男に囲まれた祖母は恐れおののいていた。 


「また来るよッ」


 もう来なくていいよ。

 逃げるかのように家を飛び出した祖母。

 思ったよりもあっさりだな。父の威圧が怖かったのか? それとも兄が怖かったの?


「待ってよーおばーちゃーん♪」


 悪ノリした兄がふざけた声を出してその後を追いかけている。徒歩で。

 孫息子から逃れるように祖母は走って逃げた。68歳の婆さんが全力疾走している。先程まで老人がどうのと言っていたけど、足腰丈夫そうだ。

 最近のご老人は元気だな。




「…ごめんよ。あんたに迷惑かけるつもりはなかったんだ」

「いいんだよ。俺たちは夫婦だろ? 母ちゃんの苦しみは俺の苦しみ。分け合ってこその夫婦だ」


 鬼婆ショックから回復できていないお母さんは青ざめて座っていた。そんなお母さんの肩に腕を回して寄り添うお父さん。


「琥虎が生まれたときに決めたんだ。母ちゃんは一生俺が守るってな。家族を守るためだ。大したことじゃないさ」

「あんた…」


 完全に解決したわけじゃない。後日また襲撃してくるかもしれないし、本当に金がなくて援助しなきゃいけなくなるかもしれない。

 お母さんは優しい人だから、毒親でも結局は見捨てられないかもしれない。

 ──それでも、この父がそばにいるなら大丈夫かなと娘ながらに思った。


「…ん」

 チュッチュ

 

 両親はなにが盛り上がったのか、私の前でキスし始めた。お母さん完全に女の顔になってるし…!

 おい、アラフォー夫婦、年頃の娘の前でなにしてんだあんたら…!


「私の前でいちゃつかないで…!」


 私は顔を覆って嘆いた。

 だけど彼らにはその訴えが届かない。

 両親の仲がいいのはいいが、気まずい…! 気まずいんだよ……!

 やめて…やめてくれ……私の前でいちゃつくんじゃない…!



 その後、私は兄に「外で飯食おうぜ」と腕を引っ張られ、兄のバイクにタンデムして遠い県境にあるラーメン屋に連れて行かれたのであった。

 ラーメンは美味しいけど、今ごろ家で…と考えるとしょっぱい気持ちになったのである。


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