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三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】  作者: スズキアカネ
紅蓮のアゲハの娘は恋を知らない

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ギャグハーとかお姫様とか夢見がちも大概に【2】


「やめてーっ!」


 私はピタリと立ち止まった。

 掃除当番のため遅れて帰宅していた私の耳に悲鳴が聞こえた気がしたのだ。しかもその声には聞き覚えがありすぎて。

 気のせいかもしれない。……だけど胸騒ぎがした。


 どこから聞こえた?

 ここは学校から駅までの道。辺りには住宅と会社がある。その他に変わったものは何も……


「やめてっその人死んじゃうっ!」


 生活音や車の音に紛れ込んだ、悲鳴混じりの声。

 やっぱり、気のせいじゃない。

 私はぐるりとあたりを見渡す。耳を澄まして、どこから声が聞こえてくるのか探った。


「いやぁぁ…っ」


 ──公園だ!


「茉莉花っ」


 時刻は夕方過ぎだ。薄暗くなった公園には子供の姿なんてない。公園の中央にぽつんと立つ外灯はぼんやりとした明かりを灯し、薄暗くなった公園内をうっすら照らしていた。

 その先に彼女は、いた。

 男に羽交い締めにされながら暴れている。

 彼女の目の先には、見覚えのある金髪の男がタコ殴りにされていた。殴られて口元のマスクがずれてしまっている。いつもなんでマスクしているのかと問うと「アレルギー性鼻炎なんス」と返って来たことがある。

 彼のそのトレードマークがめくれ、顔面血まみれになっている。


 ──不良という生き物は喧嘩に明け暮れる生き物だ。

 だが、目の前の行為は喧嘩じゃない。

 複数で一人を寄ってたかって暴行しているだけに違いない。一方的に殴られている黒マスクは意識があるのかないのか定かじゃない。

 そして男性恐怖症である茉莉花は取り乱して冷静さを欠いている。そりゃそうだ。茉莉花はごく普通のお淑やかな女の子だもの。こんな血生臭い不良とは関わり合いのないはずである。


 ……なにがどうなって、茉莉花に手を出そうとしたのか。黒マスクを暴行しているのか。

 暴れる茉莉花を抑え込んでいる男は無感動に黒マスクが暴行されているシーンを淡々とした表情で観察している。

 理由はさておき、許せない。


「てめぇら! その汚い手を今すぐに離せ!!」


 私は怒鳴りつけながら、公園の車止めをハードル超えのように飛び越えると、その場に特攻した。


「ふんっ!」


 ソフトボールを投げるかのように、自分のかばんを振り回して投げると、黒マスクにマウントをとっていた不良Aにぶつかる。すると相手は「ぐふあぁっ!」とうめき声を漏らしながら後方に倒れた。


 私の登場に不良たちは驚いた様子だったが、その中のひとり……茉莉花を羽交い締めにしている男だけは違った。

 こだわりでもあるのか、髪をアシンメトリーにしている。その男は私の姿を目に映すとすぅっと目を細めた。

 ……その目は愉悦に満ちていた。


「──あげはちゃんっ!」

「…鮮血の琥虎の妹か……」


 その、二つ名。

 …また、兄貴関連の不良共か!!!


「茉莉花を巻き込むんじゃねーよ! お前ら許さねーからな!!」


 茉莉花の怯えきった顔を見ていたら頭に血が上った気がした。私は地面を強く蹴りつけると、先手必勝とばかりに不良共に攻撃を仕掛けた。

 まずは茉莉花を捕らえている男を落とそうと思ったが、思いの外出来るやつだったらしい。ヒョイヒョイと避けられてしまう。しかも茉莉花を人質にされているのでこちらに分が悪い。


「後ろがガラ空きだー!」

「やかましい!!」


 背後を取ってこようとする不良その他を回し蹴りで仕留め、地面に転げ落ちた奴の髪の毛を引っ張って持ち上げると頭突きをかます。

 ゴチンと鈍い音が響くと、こちらのおでこに痛みが走る。頭突きやめときゃ良かった。

 相手は目をくるくる回して戦意喪失したようだ。


「何だこの女、強い…!」

「そりゃあ、紅蓮のアゲハと呼ばれる女だからな。お前知らなかったのか?」


 不良Aがわななきながら私を畏怖の目で見てくる。それに対し、アシンメトリー野郎がわざとらしく肩をすくめていた。


「…その二つ名は、私のお母さんの若い頃の二つ名だ。私とは関係ない」


 ここにも誤解をする人間がいるのか。二つ名だけがひとり歩きして、私のイメージが勝手に作り上げられていくんだな……恐ろしい風評被害である。


「謙遜するなよ。鮮血の琥虎の妹は負け知らずの豪腕持ちだって噂を聞いたことがある。幾多もの不良軍団を叩き潰して支配する女王だって」

「…違う! 違わないけど違う!」


 私が否定と肯定をすると、アシンメトリー野郎は微妙な顔をして「どっちだよ」と聞いてきた。

 違うけど違わないんだよ! それだけで理解しろよ! 察せない男はモテないんだぞ!

 

「兄に恨みがあるなら、兄に直接逆襲してくれない? …なんで妹の友達に手を出そうとするんだ」

「頼まれたんだよ。邪魔な女がいるからボロボロにしてくれっていう女にな」

「……女?」


 それは下半身ユルユルの兄を恨む女のこと…?


「私のことよ! 三森あげは、あんたを潰したら、今日から私がこの街の姫になるんだからね!」


 どこからともなく現れたのは、先日学校に現れた電波女であった。彼女は新たに現れた男の腕にしなだれかかっていた。


「…志津子…!」

「その名前で呼ばないでよ!!」


 電波電波だと思っていたらとんでもないアホ女だったのか…!


「早くその女ボコボコにしてよ!」


 ギャグハーだがお姫様だが知らんが……自分の欲望のためには気に入らない奴らを潰すって……何様のつもりだ…! 


「…潰したいなら、私を標的にしたらいいだけだろう…! 茉莉花も、そこの黒マスクも何の関係もないはずだ…!」


 私は怒りも顕に不良共を睨みつけた。

 茉莉花はなんにも関係がない。何故茉莉花に手を出すのか。そして何故金髪黒マスクをリンチするのか……目的は私なのだろう!?


「…それもそーだな。ほれ」

 

 何を思ったのか、アシンメトリー野郎はあっさりとその手を離して茉莉花を解放した。

 茉莉花はドサリと地面に膝をついた。彼女は這うようにして逃げていた。できればそのまま安全地帯に避難していて欲しい。


「じゃあお相手してくれよ。…久々に強い人間と戦えそうでウズウズしてるんだ」


 なんだか楽しそうに言われた。

 だけど仲良くおしゃべりしてやる理由はないので、早く決着をつけてしまおうと、私は地面を蹴りつけて跳んだ。

 


■□■



「ははっ……お前強いなぁ……女だと思って油断しすぎた」

「くっ…離せ…!」


 すぐにKO出来るだろうと思っていたら、相手はなかなか強かった。……恐らくだけど、武道か格闘技を習っていたことがある人間だ。そのへんの素人不良とは全然違った。

 何度か攻撃をヒットさせたが、うまいこと力を流され、衝撃を軽減化される。相手はなかなかへばらなかった。なのに相手は攻撃をしてこない。

 ──女だとナメられている証拠だ。悔しい……!


 今現在私はトイレのある建物の壁に手首を縫い付けられ、足は相手の膝で抑え込まれていた。この体制を取られると身動きができなくなるのだ。…どうする……

 私を押さえつけている男の顔が近い。私はそれを睨みつけた。相手を睨みつけることで、まだ降参したわけじゃないアピールをする。


「…いい目だな。俺を睨みつける女なんて初めてだ」


 生意気だと殴られるかもしれない。それは覚悟していたのだが、相手の反応は思っていたのと違った。アシンメトリー野郎は面白いオモチャを見つけたかのように瞳を輝かせると、ずいっと顔を近づけてきたのだ。


「気に入った。お前俺の女になれよ」

「……あ゛?」


 ……なんか、どこかで聞いたことのあるようなセリフ……あっ、綿貫さんが大好きなギャグハー小説か!

 うわ…ガチでそんなこと言っちゃう男っているのね……


「ふざけんな…! 誰が…」

「強がるなよ。喧嘩は強くとも所詮は女。男に敵うわけがないだろ? …生意気な口を叩けるのは今の内だ」


 抑えられた手を動かそうともがくが、びくともしない。

 私は悔しくて歯噛みした。

 か弱い乙女に向かって何たる暴挙! こんなんで女がときめくと思ったら大違いだぞ!


 顔をさらに近づけてこようとしたので、私は精一杯顔をそらして避ける。このままじゃキスされてしまう…! 誰がこんな不良なんかとキスするか!

 私の唇はそんな安物じゃないんだ!


 私は出来る限りの抵抗をした。それに焦れたアシンメトリー野郎は抑えている手をひとまとめにすると、私の顎を掴んで固定した。

 しまった。これじゃ好き勝手にされてしまう……!

 万事休す。 

 せめてもの抵抗で、私は目をぎゅっとつぶって口を固く閉ざしたのである。


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