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三森あげは、淑女を目指す!【紅蓮のアゲハって呼ぶんじゃねぇ】  作者: スズキアカネ
紅蓮のアゲハの娘は恋を知らない

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愛を求める女【三人称視点】


「私の名前は煌梨。あなた達に頼みがあるの」


 その女は少々夢見がちだった。

 何が彼女をそうしているのかはわからない。ただ一つ言えるのは、彼女は悪い男に魅力を感じるタイプの女だったのだ。

 とにかく自分が一番になりたかった。

 ただそれだけのために行動した。


「ある女を痛めつけてほしいの。三森琥虎という男の妹よ」


 少女は身一つで札付きのワルが集まる集会所にやってくると、三森琥虎と敵対する集団の幹部が集まるこの場所で彼女は不敵にも取引を持ちかけてきた。

 はじめは見知らぬ女が単身で乗り込んできたことを訝しんでいた彼らだったが、彼女の話に興味を持ち始めた。

 彼らは三森琥虎たちの存在を面白くないと思っていた。なんたって琥虎たちは彼らをライバルとして見ているわけじゃないからだ。その上、コテンパンにやられた経験もある。

 こんなにも恨んでいるのに歯牙にもかけない。無駄にプライドの高い彼らにとっては三森琥虎という男は憎き敵なのである。


「その代償に私を好きにしていい! 私はどうしてもあの男に煮え湯を飲ませたいのよ!」

「…やばい女だなお前……気に入った。こっち来いよ」


 煌梨と名乗る女に興味が湧いた青年はのっそりと立ち上がると、彼女の肩を抱いてどこかへと誘導し始めた。古びた事務所のような個室に連れ込まれたのだ。……その後どうなるか想像つくのに、煌梨の表情は歓喜に満ちていた。

 それを見ていた他の男達は「俺たちにも回してくださいよー」とニヤニヤ笑って下卑た発言を飛ばしていた。


 閉ざされた扉の奥から甲高い喘ぎ声が漏れてくるのは時間の問題であろう。

 煌梨は自分の身体を捧げることをなんとも思っていないのだ。なんたってこれが彼女の願望。たくさんの男に愛されたいと願う彼女の野望が果たされた瞬間だからである。

 

「おい…アレいいのか? 匠海(たくみ)

「放っとけ」

 

 先程から興味なさそうに一人黙々と愛車のバイクの手入れをしていた青年に声をかける人間がいたが、匠海と呼ばれた彼はあいもかわらずバイクに夢中だ。


「…三森琥虎の妹か……」


 バイクを磨いていた匠海はその手を休めると、ボソリとつぶやいた。


「なに、興味あんの?」

「あのビッチよりはな。……まぁでも女なんてどいつもこいつも似たような奴ばっかりだしな…」


 一応、匠海はこのグループの総長と呼ばれる存在だ。活動内容は暴走行為に不良行為。琥虎たちが以前行っていた不良活動と似通っている。

 しかし彼らは相容れなかった。

 なんたって不良という存在はシマ争いをする生き物。あちこちで暴れまわり、名を馳せていた琥虎達を潰そうと喧嘩をふっかけて逆に潰された彼らにとっては、興味深い話なのは間違いない。


 なんと言っても、あの琥虎という男は関心というものが薄い。喧嘩しているときも喧嘩そのものにしか興味がなく、自身がボコボコにした相手には全く関心がなかった。琥虎に泣かされた女は星の数と言われている。それほど執着のない男なのだ。

 そんな男の妹。

 妹がひどい目に遭えば、あの男は狼狽えるだろうかと匠海は想像してみた。


「鮮血の琥虎の妹はどんな女なんだろうな」

「…妹……なんかすごい噂聞いたことがあるような気がするんだけど……紅蓮のアゲハって二つ名があるって……」

「いいじゃん、あの女の言うとおりにボコボコにするかは捕まえてから考えたらいい」


 おそらく匠海の中では琥虎への憎しみとほんの少しの好奇心が残されていたのだろう。

 煌梨の頼みを聞くと言うよりは、興味本位で彼は動いた。






「三森あげはの友人というのはお前か?」

「…えっ?」

「一緒に来てもらおうか」


 彼らはなんと、三森あげはではなく、その友人の茉莉花を捕まえようとしたのだ。学校帰りを狙って、通学路途中にある公園の横を歩いている彼女をその中に引き込んだのだ。時刻は夕方過ぎ、日が暮れるのが早いこの時期。公園内に人気はなかった。

 彼女は突如現れたガラの悪そうな男たちに怯え、顔面蒼白にさせて固まっていた。まるであの日と同じだ。毒蠍に拉致された日と同じ。

 彼女は二度も同じ目に遭いたくはないと言わんばかりに、踵を返すと重い足を無理やり動かした。

 だが男たちの目は欺けない。


「ヒッ…!」


 男の手が手首を掴み、後ろから抱き寄せられた茉莉花は引きつった声を出した。

 ──煌梨は言った。三森あげはのついでに、あげはの友人も一緒に痛めつけてほしいと。気に入らないからと。

 そんなわけで手始めに彼らはあげはの大事な存在、そして煌梨が気に入らないという存在の茉莉花を狙うことにしたのだ。


 琥虎の妹には恨みはない。

 ある意味、彼らにとっては暇つぶしのようなものであった。

 怯える茉莉花の顎を掴んだ男が下卑た顔で彼女の身体を舐めるように観察する。


「すっげぇ上物」

「この女ヤれるんですか?」

「見た感じ処女っぽくないですか?」


 おぞましい。

 茉莉花は恐怖に引きつってただ震えることしかできなかった。彼女の中で封印していた暗い過去の記憶が蘇ってきそうになっていた。


「茉莉花さんっ!」


 恐慌状態だった茉莉花だったが、名前を呼ばれて一瞬我に返った。 


「お前らっ茉莉花さんに何してんだよ!」

「あぁ…?」


 そこに現れたのは毒蠍メンバーの金髪黒マスクだ。

 茉莉花は過去に彼らにも逆恨みで拉致されたことがある。今はちょっとその関係性が変化しているが、茉莉花にとっては目の前の男たちも黒マスクも同類に見えていた。

 なぜかって、性別が男だからである。



 金髪黒マスクの青年は果敢にもたった一人で特攻してきた。


「茉莉花さんを離せーっ!!」


 格闘スキルのある琥虎やあげはと違い、毒蠍の面々は喧嘩慣れしていない。あくまで彼らの悪名は先代メンバーの功績である。とどのつまり彼らはめっぽう弱い。

 そして今回拉致しようとしていた男たちのほうが強かった。その上複数人数いた。

 案の定、特攻をひらりと避けられていた。


「おいおい、イキってる割には大したことねーなぁ?」


 だが黒マスクは一人で攻めていった。転ばされ、蹴り飛ばされ、殴られようと茉莉花を守ろうと体を張った。

 そんな黒マスクを嘲笑うかのように、男たちは彼を痛めつけていた。


 茉莉花は目の前で行われるリンチ行為に言葉を失っていた。恐怖で竦み上がってしまったのだ。

 ぶしゃっと彼の鼻血が地面に降り注ぐ。茉莉花はその赤を見てギクリとした。

 マウントを取られ、体を抑えつけられる黒マスクの姿を見て、茉莉花はゾッとした。


 ──記憶が蘇る。

 力の適わない相手への暴力行為を。

 心の奥深くで傷ついた幼い茉莉花の記憶を。


 茉莉花の中で何かが壊れてしまいそうな気がした。


「やめてーっ!」



 ──茉莉花の悲鳴が空高くに響き渡った。


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