曲がったことは大嫌い! 私の名は三森あげはだ!【4】
「字がきったねぇんだよなぁ……草書で書くなよ……」
ぶつぶつと文句をいいながら歩く少女がいた。この一昔前の雰囲気が残る住宅街で浮いているような馴染んでいるような格好をした少女はメモを睨みながら歩いていた。
「……桜桃さん?」
ばったりと出会ったのは、中学の制服の上に濃桃色の特攻服を羽織った桜桃さんである。彼女は両手に大量のカバンを持って歩いていた。そこからは野菜がはみ出ており……そのカバン、なんだかばあちゃん臭いエコバックだなぁと思った。
「見てんじゃねーよ!!」
私がまじまじと桜桃さんとエコバックを見比べていると、赤面した彼女から怒鳴られてしまった。
私の隣で嗣臣さんが「照れてるだけだよ」と注釈してきたが、やっぱり状況が読めない。
「ありがとうねぇ、おやつあげようねぇ」
「いらねーってば!」
「お嬢ちゃん随分ハイカラな格好してるねぇ、今の流行りなの?」
エコバックをどこかの家に届けに行った桜桃さんは先程のリーゼントのように、お年寄りによってポケットにお菓子を詰められていた。
中二病で反抗期の彼女はお菓子を拒否ろうとしていたが、あっという間に特攻服のポケットがパンパンになっていた。
「…いい加減どういうことか教えてもらえませんか」
私はそれを見守りながら、隣にいる嗣臣さんに説明を求めた。彼がこちらを見た気がしたが、私は桜桃さんとご老人のやり取りを眺め続けていた。
「あげはちゃんに自分たちが迷惑をかけてきたから、それのお詫びに雪花女子学園周辺でボランティアすることにしたんだって。あくまで自己満だけどね」
「まぁ……そうですね、自己満ですね」
ボランティアをするその心がけはいいことだけど、下心ありでそんな事されても私の停学が解除されるわけじゃない。
「この近くの川でも掃除をしてると思うよ。草がぼうぼう茂ってるからそれを刈って不法投棄されたゴミを撤去してるんだってさ」
「……」
「単なる自己満だけど、あいつらあげはちゃんのためになにかしたかったんだよ。怒らないでやって」
苦笑いする嗣臣さんの顔をちらりと見上げた私は渋い表情をしていたと思う。
そうだ、そもそも私が停学になったそもそもの原因は、周りが不良ばかりだからだ。親から始まって兄、兄の友人、同じ中学の奴らのせいで私は振り回されてきた。彼らがいなければきっと今も学校に通えていたはずだ。
襲撃なんて遭うことなく、周りの女の子のようにキラキラした青春を味わっていたはずなのに……
「あげはちゃんの学校にタレこみした犯人が判明したからね、今琥虎たちがそいつら探しているはずだよ」
「……へっ?」
「覚えてる? クラスメイトの子に助けてって言われて河川敷で話をつけた男」
「……河川敷?」
それって綿貫さん…SNSで脅されて困ってるって泣きついてきた件だよね?
嗣臣さんは笑っていた。だけどその笑には怒りが含まれているように見えて、思わず身構えてしまった。
「それと、琉奈ちゃんって子の妹も関係してる」
「……えっ?」
「陽菜ちゃんだったっけ? あの子随分やんちゃなお友達がいるみたいでね。そのお友達を頼って、あげはちゃんに刺客を放ったみたい。…だけど全員あげはちゃんが倒しちゃったんだけどね」
「……」
あの数々の襲撃は、琉奈ちゃんの妹が…? なんで?
ていうか私色々恨み買ってるな。その2件に関しては兄や不良共は関係してないし……なんだよ…自分自身の責任じゃないか。思わず自嘲してしまった。
私が普通の女の子として生きていけないことをずっと兄たちのせいにしていたけど、今回ばかりは兄たちのせいではなかったのだ。
──TRRRR……
「あ、捕獲終わったかな」
閑静なお昼時の住宅街に電話の着信音が鳴り響いた。嗣臣さんは制服もポケットからスマホを取り出すと、電話口の相手となにかを話しているが、全て右から左に流れていく。
ちょっとした自己嫌悪である。淑女になりたくて環境を変えたのに、私の行動でその夢は崩れてしまった。
所詮私に淑女として普通の女の子が送るような青春を送ることはかなわないのであろう……
「よし、じゃあ行こうか、あげはちゃん」
「え…?」
困惑の声を上げた私の手を取った嗣臣さんは歩き始めた。私は彼の顔を見上げたが、嗣臣さんは前を見ていた。
捕獲ってどういうことだ。まさか、私を襲撃してきた輩を…?
「見つかったんスね? よっしゃあ! じゃあ早速シメに行きましょうか!」
「妹の方も一緒にいたから連れてきてるってさ」
……あぁ、一体何をしているんだ彼らは。
禊と言ってボランティアをするわ、私を襲撃した輩を捕まえてくるわ……自己嫌悪に浸りたい気分なのにそうはさせてくれない。
進む先は私の学校だ。
シスターに何を言われることやら……頭が痛くなってきた。
■□■
「…三森あげはさん、彼らは一体? 我が校は女の園です。男性を引き込まれては困るのですが」
開口一番にチクリとシスターに小言を頂いた私は萎縮した。
そりゃそうだ。私は停学中の身分。そしてこの学校は女子校なのだ。私のやっていることはことごとくルール違反である。
「無遠慮に入場してしまい申し訳ございません。誤解を解きたくて僕たちが彼女を連れてきたのです。お話が済めば速やかに退散いたしますので、少しお話をお聞きいただけませんでしょうか」
そこに割って入ってきたのはよそ行きの話し方をする嗣臣さんである。有名進学校の制服に真面目スタイル&美青年の彼に鉄の女であるシスターはうっすら頬を赤くしていた。
女はいくつになっても、立場を変えても女ってことか。女の表情をしたシスターを見てしまった私はちょっと複雑な気分になった。
「…ゴホン、…そちらの殿方は三森さんの交際相手で?」
「違います! 私は清い身体で色欲とは遠く離れた生活を送っております!!」
これ以上私の印象が悪くなっては困る。食い気味に否定するとシスターが引いていた。隣にいる嗣臣さんが「そんな否定しなくても…」と言ってきたが、スルーしておく。
「それはそうとして…誤解とは? 停学処分になった理由のことでしたら…」
「あげはちゃんが自己防衛のために暴力を奮ったのは否定しません」
言いにくそうにするシスターの言い分を嗣臣さんは認めた。
「…ですが彼女は好きで暴力を奮ったわけではないのです。複数人の男に囲まれて逃げ道も塞がれてしまえば、身を守るために正当防衛に走っても致し方無いと思うのですが…シスターはどうお考えになりますか?」
その言葉にシスターは閉口した。
普通に考えたら、女性なら何も出来ずにならず者共に暴行を加えられるシーンであろう。私は少しばかり腕に自信があるので返り討ちにしたが、あそこで何もしなかったら多分ひどい暴行を受けていたと思うんだよね……
今となってはただの言い訳でしかないけど。
「痛いっ、なにするのよ! ママに言いつけてやるから!」
「やめろよ、お前らなにをっ」
「うわっ!!」
背後でドサドサ、と音を立てて何かが倒れ込む音がした。私達が振り返ると、そこには仁王立ちした我が兄・琥虎とその仲間たち、見覚えのある襲撃者たちと、琉奈ちゃんの妹の姿があった。
「今からコイツらに自供させますんで、聞いてもらっていいですかー?」
…ほんとに捕獲して来たんだ…どこで情報を得たんだ一体……兄たちの情報網に私はゾッとした。私は琉奈ちゃんの家の事情を触りしか話していないのに、末恐ろしい不良たちである。
「なんなのあんた、あの女の仲間なの!?」
不良を前にしても怯まない……琉奈ちゃんの妹・陽菜ちゃんは我が兄に噛み付いていた。鮮血の琥虎相手にすごい度胸である。
兄はそんな彼女を見て、皮肉げな笑みを浮かべていた。
「…中学生のくせにやばい女だなお前。何故あげはを狙った?」
座り込んだ陽菜ちゃんと目線を合わせるためにしゃがみこんだ兄は……どこからどうみても不良です。本当にありがとうございます。
普通の女子中学生ならヤンキーを怖がるはずなのだが、陽菜ちゃんは鼻で笑う余裕があるようであった。




