電話【三人称視点】
──トゥルルルル…
「はい、雪花女子学園事務担当、向井でございます」
『……あげは』
「はい?」
夕方過ぎにかかってきた電話に、女子校の事務を担当している壮年の女性は訝しんだ表情を浮かべた。
電話口の相手は何やら向こうでボソボソ話しているが、何を言っているのか聞き取れないからだ。
「申し訳ございません、お電話が遠いようですが…もう少し大きな声で」
もう一度聞き直そうと恐る恐る声をかけると、電話の主は先程よりも大きく、責め立てる勢いで話し始めた。
『だからっ! オメーんとこの生徒である三森あげはに暴力を受けたんだ! そんな暴力女が雪花女子学園の生徒でいいのか!?』
「はっ…?」
『河原に呼び出されたかと思えば、一方的にボコボコにされたんだ! 人の別れ話に介入しやがって…あのあげはって女のせいで、オンナと別れる羽目になったんだぞ! どうしてくれるんだ!』
感情的に自分の事情だけを一方的にまくしたてる相手に、事務方の向井は目を白黒させるしか出来なかった。
情報量が多すぎた。
電話口の相手は声音からして恐らく声変わりを迎えて年の浅い10代の少年だ。その少年が、雪花女子学園の女子生徒にボコボコにされた……ボコボコ? 女子が、男子を?
向井は手元のメモ紙に走り書きしたメモを見て、一旦目を閉じると「確認の上折り返しいたします」と一旦相手を落ち着かせるために折返しを提案したが、電話口の相手は「三森あげはを退学処分にしろ」と言って聞かない。
折返しの番号はナンバーディスプレイで確認できるから大丈夫なのだが、いくら宥めても電話口の相手は同じことをネチネチと繰り返し要求してくるのみ。
その後向井は定時の時間が過ぎても相手方のクレーム電話に付き合う羽目になったのであった。




