だからそんなに都合のいいことなんてないってば!
第二王子殿下!
そうか!公爵令嬢となった私ならば第二王子殿下のお相手も務まるんだわ。
私は健気に見える、潤んだ瞳のまま殿下に向き合う。
「第二王子殿下…」
このウルウルとした眼差しの可憐な表情、どう?
笑っていた殿下が真面目な顔になる。
「いや、色々と其方達の話は聞いてはいたんだ。だが王族が貴族の婚姻に口を出すわけにはいかないからね。
苦労をかけてしまったようで申し訳なかったね。」
「苦労だなんて…殿下に労わっていただけるなんて光栄です。確かに辛いこともありましたが、それも今日この日のためのことだと…」
うっすらと頬を染め、誰からも可憐だと言われる顔で殿下を見上げる…ん?
殿下?どちらを向いていらっしゃるの?
そう殿下の視線はこちらになかった。視線を辿った先には…
クリスティーネ!
はぁ?どういうことよ⁈
「で、殿下…?」
「ん?ああ其方がエステルとかいうクリスティーネの悩みの種か。」
「悩みの種なんて…クリスティーネ様ひどいです!なぜそんなに私を目の敵にするのですかっ!」
「エステル…確かに貴方のそのすぐに潤む瞳も可憐な表情も殿方の気を引くものだとは思うわ。でもね、貴方はとんでもないことをやらかしているのよ。
侯爵家の入婿を唆して簒奪をさせようとしたんだから。
本来なら良くて終身刑、場合によっては処刑されるような罪なのよ。」
「なっ、そんな…そんな事私は望んでいません!ただ愛したのがクリスティーネ様の婚約者だっただけ!彼も貴方ではなく私を選んだだけ!」
「そうね、彼は恐らくそうだったんでしょう。貴方が自分のことを異母姉妹だとミスリードしていたからね。
でも貴方はどう?自分の父親のことも母親のこともちゃんと分かっていたでしょ?ソルビタン様に対しては立派な詐欺だし、我が家に対しては爵位の簒奪。どう言い繕ってもどこかでボロがでるわよ」
カッとなってしまい思わず素がでる。
「はぁ?私は公爵令嬢であることが分かったの!貴方が今まで振りかざしてきた侯爵令嬢なんていう身分よりも上なの!そんな偉そうな口利いていいと思ってるの!」
はぁというため息が聞こえた。ポリソルベ公爵様だ。
「お、おじさま…私は今までもこうしていたぶられていたのです。どうか私をたす」
「おじさまではない。」
へ
「君とセリンの間に血縁関係はない。よってセリンは私の妹だが、君と私には何の繋がりもない」
は
「エステル、貴方はお父様が結婚前に産ませた別の女性との間の子なの。私は駆け落ちして貴方のお父様と一緒になるまで一言も聞いていなかった。籍を入れた途端にその女性が貴方を押し付けてきたのよ。私はお父様に夢中だったから、お父様の子ならと思って育ててきたのよ。」
「そうだ。君のお父さんは本当にだらしのない人でな。子供の事までは流石に把握できていなかったが、そもそも公爵令嬢が嫁いでいいような家ではなかったのだよ。
セリンは君を産んだにしてはとても若いとは思わなかったかい?妹はその頃まだ15歳だったんだ。お父さんはね、どうにかしてセリンを手に入れれば公爵家も援助せざるを得ないと考えていたんだろうな。だがセリンは公爵家と没交渉になってしまっただろう?アテが外れたらしく、随分とキツくあたられたようだ。そんなくだらない男の子を!ここまで責任持って育てたというのに!その結果が君だとは!」
え、な…に?私は公爵令嬢になるんじゃないの…
「セリン、もう手放す覚悟はできたね?彼女はもうどうしようもない。君の手には余るんだよ。」
「はい、お兄様。私が至らぬばかりに。最初から彼女を手放す決心をするべきでした。」
そしてお母さまはこちらを向き
「エステル、今まで黙っていてごめんなさい。私が守ってあげなければ、と思ってハウスメイドになってでも親子でいることに拘ってしまったの。でも、貴方が貴族でいることにここまで執着してしまうことになるとは。成人した際に男爵位を継がせてあげられるようにと思って歯を食いしばっていたけど…」
ぽろり、ぽろりと涙をこぼしながら辛そうに話すお母さま。
「爵位を返上して孤児院に預ける方が貴方の為だったのかもしれない。本当にごめんなさい。そうしていれば市井での慎ましい暮らしでも幸せを掴めたかもしれないのに」
「ちょっなんなのよ!みんなで寄ってたかって!私は自分の幸せを求めただけでしょ!ハウスメイドに雇ってもらったことを感謝しろ?はっ低位とはいえ私は貴族の子よ!そんな程度で我慢できるわけないでしょ!大体さぁ、それだけ目にかけてもらえるんだったら侯爵にもっと媚び売って愛人になるくらいの気概はなかったの?娘として大事にって、それなら身体を売るくらいの覚悟しなさいよ!」
普段、母にはこんな感じで当たっていたから思わず出てしまった言葉。
ハッとした時にはもう遅く。
私の本性が周囲にバレてしまったと気がついた時にはもう全てが手遅れだった。
「あ…わたくしは…わたくしはお姉さまとお慕いしているのにキツく当たられるのが辛くて…ついお母様にぶつけてしまっていたの。ごめんなさい、お母様と一緒にいられなければ私…ああお母様、お母様まで私を見捨てるのですか!」
公爵令嬢じゃなくても!お母様に付いていけば公爵家の関係者として暮らせるんだもの。たとえ身分は平民でもせめて豊かな暮らしはできるはず。
そのうち子爵程度でいいから見初められれば!ただの平民なんてまっぴらよ!
「セリン殿、まさかと思うがこんな戯言を真に受ける事はないよね?」
「はい、殿下。この子を今救ってしまえばこの先どんどん酷いことになるでしょう。私にできるのは命乞いくらい、だと理解しております。」
命乞い?はあ!ババア何言ってんだよ!今まで使えねえのにお母様なんて呼んでやってたのによぉ!
そんな私の心の声が聞こえていたのだろうか。
第二王子殿下がこちらを向いて話し始める。
「今の君の頭の中はセリン殿への悪態でいっぱい、というところだろうね」
少し小馬鹿にしたような言い方に思わずキッと睨みつけてしまい慌てる。まだ可憐さは失ってはいけない。取り巻きをしていた令息たちならまだ騙せるかもしれないんだから。
「いや、今更下位の貴族だとしても君に靡くような者はいないよ。そこまで愚かなら廃嫡されるか家ごと潰されるか、ってとこじゃないかな。」
はあ?何言ってんのよ!いっつもあれだけ話を鵜呑みにしてたのよ。今だってきっと。
…誰とも目が合わない。先ほどまで近くにいたくせに!ジリジリ後ろに下がってるんじゃないよ!
「君はまだ理解できていないんだね。今の君は公爵家に保護されるか、男爵家を継ぐか、なんてところはとっくに通り越してるんだよ。」
ため息をついた殿下が続ける。
「侯爵家の入婿を唆し、乗っ取りを計画した罪というのはかなり重いのだよ。先ほど侯爵に向かって言ってたよね?侯爵家を継ぐ入婿が選んだのは自分。だから自分がそばで支えていけばいいではないかって。それって自白したみたいなもんだよね。」
「あの、第二王子殿下。発言をお許しいただけますか?」
クリスティーネ!今イラついてんのよ!こっち寄ってくんな!
憎々しげに睨みつけてやったけど眼中にない。そして殿下はでしゃばり女に発言を許してしまった。
「エステル、そもそもの話なんだけどね。ソルビタンに継承権はないわよ。彼は養子に入るわけではないの。
次期侯爵である私の伴侶になるだけなのよ。そう考えると彼は彼なりに野心はあったのかもね。
貴方は彼が次期侯爵になると勘違いしていただけなのに、彼は彼で都合良く貴方は侯爵を継ぐより夫人として支えたい、と考えていると思っていたのよ。ならば侯爵の夫よりも侯爵になれる貴方を好むのも当然よね」
まあ今更どっちでもいいけど。呟くように言ったクリスティーネにとうとう切れてしまい、やってしまった。
どん!
「アンタに女としての魅力がなかったの!だから捨てられるんだよ!」
どん!
「理解できる?それともバカなんですかー脳みそ入ってますかー」
肩を小突きながら言ってしまった。




