断罪が始まる
今まで思い思いに喋っていた人々が一斉に口を閉ざす。
そう、今日のために王家から国王と第2王子がいらしたのだ。
国王からの祝辞の後は通常なら婚約者のいる侯爵家以上の家のものがダンスを披露し、その後全員がパートナーを見つけて好きなようにダンスを始める。
司会者が説明する。まぁ毎年のことだからみんな知ってるルールだけど。
「さあ、それではまず侯爵家以上の爵位をお持ちのご子息、ご令嬢は前にお進み下さい。
婚約者が該当する方も対象です。」
侯爵家以上、と言われてしまうとかなりの人数が絞られるわけで。
今年の該当者は卒業生と、卒業生の婚約者合わせて10組ほど。
と、そこに当然という顔をしてしゃしゃり出てきたのがソルビタンとエステルだ。
当然ながら係のものに止められる2人。
「失礼な!私は卒業と同時に婚姻して侯爵家に入るのだぞ!参加するのは当然ではないか!」
抑え気味ながらもムッとした顔で抗議するソルビタン。
そこに打ち合わせ通り、友人が
「あら、ソルビタン様。あなたには参加資格はないと思うのだけど。」
「婚姻後には侯爵家の一員になると言うことでずっと練習していたんです。ですから参加資格は満たしていますよ。」
「それは貴方の爵位に関係なく、クリスティーネ様が侯爵令嬢だったからでしょう?今のあなた様に資格があるわけではないと思うのだけど。」
はっ。
鼻で笑うソルビタン。
「そうか、君たちはクリスティーネの友人だったな。同じ穴の狢というやつか。どこまで彼女を貶めれば気が済むんだ。
私がクリスティーネと婚約解消したのは、いつも彼女に虐げられていたエステルを救うためだ。母親が違おうとも彼女だって侯爵令嬢なんだから!」
ああ。とうとう言ってしまった。しかも王族の前で。彼女が侯爵令嬢だと。せめて、せめてエステルが否定してくれたなら…
祈る私を嘲笑うかのように、エステルはいつも通りのあのセリフを口にした。
儚げに節目がちに。ぎゅっとソルビタンの腕にしがみつきながら。
「ソルビタン様、良いのです。クリスティーネ様と母が違うのは本当のこと。そしてそのことで辛く当たられたとしても仕方のないことなのです。」
エステルの取巻きたちはなんて酷いやら何やら私の悪口をあちこちで言ってますが。
「あら、お父様だって違うのに何を仰ってるの?」
友人が心底不思議そうな顔でエステルに尋ねる。
「そういえば先程ソルビタン様はエステル様のこと、侯爵令嬢だなんて仰ってましたけど。
カルボシス家のクリスティーネ様はひとりっ子の筈ですわよね?」
「ええ、私も産まれた頃からのお付き合いですけど兄弟姉妹がいたなんて一度も聞いたことがなくてよ。」
「だから驚いたのよね。
ソルビタン様がクリスティーネ様との婚約を解消して他の方と再婚約をした上、お二人で侯爵家を継ぐおつもりでお話しなさっていて。」
ねえ。
ねえ。
ねえ。
そして友たちは頷き合い、令嬢らしからぬ大きな声でハモる。
"それってお家乗っ取りの計画ってことー??"
って。
年頃の令嬢が3人声を合わせると響くこと、響くこと。
かなり遠くの方々まで注目してすることになってしまった。
まあ予定通りだけど。
さあそろそろ私の出番かな。よいしょっと。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ソルビタン様、エステル、侯爵家としては聞き捨てならないお話が聞こえてきたのだけれど?
貴方がたが侯爵家をお継ぎになるおつもりなのかしら。」
いつもの柔和な笑顔は捨てて、出来るだけ冷たく居丈高を心掛けて声をかける。
「エステル、貴方はやりすぎよ。貴方のお母様は私の母代わりをしてくれたわ。それはとても感謝しているの、私も父も。だから目を瞑ってきたわ、今まではね。お世話になったお母さまに免じてって。でもね、侯爵家の乗っ取りまで画策しているのなら流石に庇いきれないわ。」
ちなみにどちらにつくか迷っていた慎重派は、ここで高位貴族たちの高みの見物に気がついてジリジリと距離を取り始めたわ。
あら、意外と聡い人もいらっしゃったのね。
ざわつく周囲。
「え、どう言うことですの?異母姉妹ではないのかしら?今の言い方だと血のつながりは全くないのではなくて?」
と、そして冒頭に戻るのである。
「ソルビタン様、今一度確認いたします。
貴方は侯爵令嬢である私との婚約を解消した上でエステルと再婚約した、と言うことで間違いないですね?」
「そうだ!君から彼女をまも…」
「ええ、そのお話はもう良いです。
そして、エステルと再婚約した上で侯爵家をお継ぎになるつもり、というのも間違っていないですか?」
「そうだ!君がどれだけ冷遇しようと彼女だって侯爵令嬢だ!彼女にだって継ぐ権利はある筈だ!」
声高らかに宣言するソルビタン。はい、終了。
「あー、ソルビタンくん。君の侯爵家を盛り立てていこうと言う気概は以前から聞き及んでいるが、君は私の息子ではなく娘婿になる予定だったんだ。
私の娘との婚約を解消した今となってはその縁はもうなくなったのだよ。」
そして父も穏やかな顔を隙のない厳しさを漂わせる顔にチェンジ。
「そもそも私の娘は1人だけだ。母親違いも何もない。そのエステルは正真正銘の我が家のハウスメイドだ。」
え
ソルビタンは一言呟いただけでそのまま固まってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
なんだ?なんなんだ?侯爵はまだ自分の娘だと認めていないのか?それをこの場で指摘されたことで躍起になっているのか?
縁が切れた?そんなわけがない。だって…
そうだ!あの日!父上はクリスティーネとの婚約解消が成立して、エステルとの再婚約と爵位の継承が認められたと言っていたではないか。
「お言葉ですが侯爵!先日我が家からの申し出でクリスティーネとの婚約解消、エステルとの再婚約について了承されたと!父が申しておりました!その際、爵位の継承も認められたと聞いております。ですから花嫁の入れ替えだけで円満に済むはずです!」
「ソルビタン君よ、まずはクリスティーネを呼び捨てにするのはやめていただこう。不愉快だ。伯爵令息にすぎない君がクリスティーネを呼び捨てにできたのは結婚する予定だったからだ。その縁が切れた今、爵位が上の令嬢に対して呼び捨てとは如何ともし難いぞ。」
ここで侯爵ははぁ、とため息なのかたんなる息継ぎなのか。ひと呼吸置くとソルビタンに尋ねた。
「お父上は侯爵家の継承が認められたと仰ったのか?ああ答えは慎重にな。君の答えによってはお父上にまで累が及ぶぞ」
継承?話の流れからして侯爵家に決まってるではないか!ない…か。
確かにあの時父上は一度も侯爵家の継承という言葉は出していない。
私は…私は何か間違えてしまった…のか?
誤字報告いただきました。ありがとうございます!




