勘弁してよね!こんなところで!
「いつもいつも貴方はなぜ私の事を目の敵にするんですか!なぜそんな酷い事をこんな大勢の皆さまの前で!どこまで私を苦しめたら気が済むんですかっ!」
目に涙を湛え、声を震わせながら私を詰る彼女は私の婚約者の浮気相手。
「君はいつもそうだ。なぜそんなに高飛車な物言いをするんだ。でもその話はあとでじっくりしよう。だからまずは皆さんに今言った事を訂正しなさい。」
穏やかで物分かりの良さそうな話し方をするこちらは私の婚約者。しかも入婿予定だよ。
いや違った、もう元がつくんだった。元入婿予定さん。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
彼女、エステルは我が家のハウスメイドだ。こういっちゃなんだが、ハウスメイドとしてはいてもいなくても、というよりもいない方が周りのストレスにならないんじゃない?くらいの使えない人だ。
ではなぜそんな人を雇っているのかというと、彼女のお母さんが苦労人だったから。酒癖の悪かった旦那さんが酔っ払った挙句王都の警備兵に殴りかかり、返り討ちにあって働けなくなった。それでも見捨てずに面倒を見てたのに!またもややらかして、今度は命を以て償うことになったの。
それを憐れんだ父が当時まだ3歳ほどだった彼女ごと引き受けて我が家で雇ったんだけどね。お母さんは恩を感じてそれはもう必死に働いてくれたわ。けどね、物心ついた彼女はそうではなかったの。
お父さんに似たのかしらね。年が近かったことで私の遊び相手として呼ばれるごとに自分との違いを見せつけられている、と感じてたんだって。彼女のお父さん、一応男爵だったらしいから本人の中では環境が良ければ私もそちら側だった!と常々思っていたそうだ。
いや、知らんけどな。
それでね、入婿予定の彼を誑し込んだのよ。
我が侯爵家に入ってくるお婿さん。彼は伯爵家の4男で、伯爵家では継がせてやれる爵位がなかったの。つまり成人とともに平民になる予定だった。
で、彼は考えた。家付き娘に婿入りすればいい!と。
なのでそこら中の家付き娘に釣書を送りまくり我が家に行き当たったのだ。
まあそこまではよくある話。父も私も可もなく不可もなくな婿を求めていたこともあって、学校での成績は中の中、中肉中背のあまり記憶に残らない顔立ちの彼を選んだのだ。
だって入婿に野心持たれても困るし、容姿端麗で女関係でややこしくなるのもやだし。
まぁそんなわけで私も父もそんなに彼に思い入れはない。
だがしかし彼女は違ったようで。もしかしたら私のモノ、と思うと無性に欲しくなったのかも。
詳しいところまでは分からないけど、彼は上手く乗せられて彼女のことを"虐げられる異母姉妹"と認識してしまったのだ。
「君の華やかな格好に比べて彼女は質素すぎやしないかい?」
彼からよく言われたセリフだ。その時の彼の顔は怒っているわけではなく、本気で窘めているつもりのようだった。ちゃんと関係を把握してなかった証拠だな。そしてそれを誰かに確かめるという初歩中の初歩を怠ったという証拠でもある。
「そうですか?(使用人が同じなわけないじゃん)」
「いくら母親が違うからと言ってそんなに差をつけるのはどうかと思うよ。」
「はぁ。(いや、父親も違うけど?)」
後ほど彼に聞いたところによると、異母姉妹であるとはっきり言われたことはないけど、母が違うので仕方がないんです。とか私はクリスティーネ様から疎まれていますから、とか。
いかにも異母姉妹で確執があって、使用人のようなことをさせられてるんです、と匂わせていたらしい。
まあそこで裏を取らずに乗せられた彼が1番悪いんだけど。
そして私も父も薄々そんなことだろうな、と思いながらも。
自力で裏取りできないような婿なら要らん
という方向で一致していたので敢えて彼の誤解を解いてやることはなかった。
そしてある日のこと。とうとう彼らは互いを唯一の相手として将来の約束を交わしたのだった。そして起こる断罪劇。
しかも学園でだよ!勘弁してよー。
私の嘆きは無視されて2人の茶番劇が始まってしまった。
「クリスティーネ。君がそこまで性格が悪いとは思わなかったよ。」
「はぁ、なんのことでしょう。」
「ほら!またそうやってとぼけて!いくら母親が違うからと言って、彼女のことを甚振って使用人のようにこき使うなんて!」
(だから父親も違うっつーの)はぁ。
「そんな君には愛想がつきた。婚約は破棄だ、もちろん君有責でね。そしてこのエステルと新たに婚約を結び直す。
なに、母親が違うだけだ。私が婿入りして君の家を支えていくことに支障はない。
君にも良い嫁入り先を探してやろう。」
(めっちゃ支障しかないですけどね。お家乗っ取り宣言キター!!)
「そうですか。承知いたしました。父には私から伝えておきます。」
「その前にやることがあるだろう?ちゃんとエステルに謝るんだ。」
(使用人に使用人のカッコさせてごめんてか?)
「いえ、私には覚えのないことですので。どうしてもとおっしゃるなら父に仰ってくださいな。」
そう言って去ったのだった。
あああ何であんなに人目の多いところでおっ始めるかなぁ。もう穏便に解消する手立てがなくなったじゃん。まぁウチは構わないけど。
ていうかさ、もうエステルも救いようがないな。あの茶番劇の間横に寄り添ってたもんな。知らん、相手が勝手に勘違いしただけって言い訳ももう立たないけど。もう少し賢いかと思ってたんだけどなぁ。




