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Ep09.「電話」

 

日曜の朝、いつもとうり7時に起きた僕は出勤する父さんと母さんを見送ると妹の優奈の部屋へ向かった。


昨日の夜、友達と遊園地に行くと言っていた中三の妹は大丈夫なんだろうか?


”受験前の最後の気晴らし”ってやつだと良いんだけれど・・・



「ノックしろよ!」


と乱暴に宣告したうさぎに一礼する。


コンコン、コンコン……


動く気配は無い。


まだ寝ているんだろうか?


「入るよ?」


朝日が厚いカーテンに阻まれて日差しが入らないのか、室内はやけに薄暗い。


高い窓から下がるカーテンを勢いよく引くと、眩しい朝日で目が眩んだ。


「うへぇ……まぶしぃだろぅ」


ボサボサの前髪を払い恐ろしい顔を覗かせる。


「もう7時半だよ。大丈夫なの?」


虚ろな目で円を描くと漫画のように巨大化させた。


「はぁ!?ふざけんなよっ!!」


誰に怒鳴っているのかわからないけど、一応返事をする。


ベットから毛布ごと飛び下りると、駆け足で洗面台へ向かって行った。


イチゴの柄の入ったマットが敷かれたフローリングにへたばった毛布をベットに上に整え僕はキッチンへ向かった。




わずか十分で出来上がったとは思えない年頃の女の子が顔を出すと、外見とは偉く違った口調で叫ぶ。


「ねぇ!なんか食いものないのぉっ?」


カウンター越しに覗きこむ彼女にコーヒー、目玉焼きとベーコンを添えたトーストを差し出す。


「さっすがッ!」


乱暴にトーストに目玉焼きを乗せると、そんなに開くものかと疑いたくなる程大きく口を開けかぶりついた。


交互にコーヒーを啜り無理矢理飲み込む。


大きな塊が喉元を流れてゆくと、うぐっと唸った。


優奈は、空のカップと皿を僕へ寄こすと素早く玄関へ向かう。


流しへそれらを置くと、棚からピンクの折りたたみ傘を取り出し差し出した。


「天気予報じゃ午後から雨かもしれないってさ。一応もっていきなよ」


口をとがらせると優奈は渋々バックに傘を突っ込んだ。


「いってきまぁす」


「気をつけてね」


聞こえているんだか、いないのか小さく返事をすると危なっかしく飛び出していった。


ため息交じりの笑みをはくと竜巻のような優奈に吹き飛ばされた靴を揃えた。



「室温で溶かしたバターを練って・・・」


昨日、近くの書店で買った「メイク.ア.パウンドケーキ」を片手に僕はキッチンに立った。


趣味で始めたお菓子作りも、もはや密かな楽しみになっていた。


何より僕が作ったものを家族がおいしいと言って食べてくれるのが嬉しいんだ。




壁に掛けた、母さんの趣味で買った音の出る時計が正午を知らせた。


オーブンから出したケーキをケーキクーラーに乗せると丁度、ズボンのポケットに入れた携帯電話が鳴った。


知らない電話番号。誰だろう?


戸惑ったが、なんだか出なくちゃいけないような気がしてフリップを開いた。


「はい、もしもし」


―たっく、巧くん?


懐かしいような気がする声が胸に響いた。


「たっく…その声、愛美ちゃん?」


―そ、そうだよ。あのね、いま暇かな?


若干上ずった声で、嬉しそうに笑った。


なんて事だろう。


まさか、愛美ちゃんから電話が来るなんて……


僕は、それだけでお腹いっぱいになったような気がした。


「うん、大丈夫。どうかした?」


―あのね、いま姉井駅の近くにいるんだけれど……逢えないかな?


どうゆう事だろう


逢えないかな、だって?

突然の事に、頭がぼーとっする。


「……。」


無言の僕に驚いたのか、慌てて愛美ちゃんは付け足した。


-ハンカチ、返すの忘れちゃってたから……


ハンカチ?そうえば、昨日洗濯カゴに入れなかったなぁ……


そうか!僕は彼女に貸したままだったんだ。


あまりにもピンときたものだから、思わず手が動いた。


その拍子で置いてあった型が僕の左足に落ちる。


ガチャン!


あっ!痛っい・・・


―えっ?なに、いまの音?


驚いた様子で愛美ちゃんの声が半音高く鳴なる。


「な、なんでもないよ。それよりごめん、ちょっと手が離せなくて。もう一度言ってくれないかな?」


痛みを堪えながら、これが夢じゃない事を確かめる。


―いま、駅にいるんだけれどね……


あまりの痛さに頭が上手く回らない。


「駅?もしかして、また定期失くしちゃったの?」


―定期はあるの。けど、その・・・ハンカチ返すの忘れちゃってて、だから


やっぱり夢じゃない!

しゃがんで靴下を下げると赤く腫れていた。


「待ってて、すぐ行くからっ!」


素早く返事をすると、電話を切った。


愛美ちゃんは、まだ何か言いたそうだったけれどこれ以上我慢できない……


冷凍庫から氷を出すとそのまま冷やした。


ジンジンと鈍い痛みが響く。


「大丈夫、冷やせばなんとかなるさ……」


なにを根拠にそう思うのか、僕は熱のこもった額も氷で冷えた手で冷ました。



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