表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

Ep08.「青いハンカチ」


「やっぱり、返しに行こうっ!」


いきなりソファから立ったわたしにビックリしたのか、お母さんは啜った熱いコーヒーでむせた。


「な、なによ急に?」


階段を駆け上がったわたしは、自分の部屋に行き机の上にたたんだおいた“青いハンカチ”を優しく手に取った。


リビングのテレビはお昼のニュースを伝えている。


少し化粧気の強いお姉さんが午後の天気を読み上げている。


「この後の天気ですが……」


「愛美、どこ行くのよ?外に出るなら……」


同時に発せられた二人の話を背中で聞き流すと、わたしは玄関を飛び出した。


朝からずっと迷っていたから、服も髪も準備はカンペキだった。


飛び出したは良いものの、肝心の巧くんに連絡を取ることを忘れていた。


バックからケータイを取り出して、昨日の夜何度も行ききした”さ行”をスクロールする。


初めてが電話なんて、緊張する……


四回、コール音が鳴ると待ち望んだ声が聞こえた。


―はい、もしもし


「たっく、巧くん?」


緊張したのか出だしで噛んだ。


―たっく?……その声、愛美ちゃん?


声だけでわかってくれたっ!


それだけで、なんだかお腹いっぱいになれた。


「そ、そうだよ。あのね、いまひまかな?」


電波が悪いのか、少し返事までに間があった。


―うん、大丈夫。どうかした?


「あのね、いま姉井駅の近くにいるんだけれど……逢えないかな?」


―……。


直球過ぎたのかな?返事が無い。


慌てて弁解するように付け足した。


「ハンカチ、返すの忘れちゃってたから……」


いきなり二人で逢おうなんて言われて、引かれたかな……


早く返事してっ!


―ガチャン!


「えっ?なに、いまの音?」


―な、なんでもないよ。それよりごめん、ちょっと手が離せなくて。もう一度言ってくれないかな?


もう一度!?駄目、恥ずかしい……


「いま、姉井駅にいるんだけれどね」


―駅?もしかして、また定期失くしちゃったの?


”また”とゆうフレーズに少し落ち込む。


「その……ハンカチ返すの忘れちゃってて、だから」


―待ってて、すぐ行くからっ


そう言うと、巧くんは一方的に電話を切った。


嫌われちゃったのかな……


お昼の駅前、くっついて歩くカップルが温かそうで羨ましかった。



「行くって、どこにだろ?」


とりあえず近くにあったベンチに座る。


見上げたねずみ色の空と強く吹く冷たい風がわたしをさらに凍えさせた。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ