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Ep05.「ひみつ」


「もういいよ園崎くん。ありがとう」


もうあれこれ三十分近くは探してる。


机、ロッカー、ごみ箱、掃除道具入れ、目に入るもの全てに手をつけた。


無いものは無いの。


男も諦めが肝心よ。


いつだか由美ちゃんが言ってた。


「でも、定期が無いと困るでしょ?」


「うぅん」


確かに困る、とは言えなかった。


園崎くんは埃まみれになりながら一生懸命に探してくれる。


でも、なんでたいして話をしたことも無いわたしにこんなにまでしてくれるんだろう?


きっと園崎くんは、困った人を救うヒーローなんだ。


……でも、もし定期が見つかったら捜索料とか言ってお金を取るのかもしれない。

でも、この人に限ってそれは……


「あっ!」


本棚の裏を覗いてた園崎くんが急に大声を上げるものだから、心臓が飛び出でそうになった。


「あ、あった?」


期待を込めると同時に、これでなかったらお礼を言って帰ろうと思った。


「……誰だよ、こんなとこに置いたの」


なにを?


こんなに大きな本棚の裏に置くらいだから、よっぽど秘密にしておきたいものなのかな?


「園崎くん、なにがあったの?」


「……見る?」


園崎くんの言い方が悪いのか、わたしの想像力のせいなのか、いろいろな悪いものを想像してしまう……


「よいしょ」


その埃まみれのモコモコの毛から最初は大きな虫かと思ったけれど、よく見ると愛らしい顔をしてる。


「これ、メイプルフラワーの限定生産ベアだよ。本物は初めてみたっ、意外と大きいんだなぁ」


はにかんだ園崎くんが、なんだか初めて虫取りをした少年のようでつられて笑ってしまった。


「意外と詳しいんだねっ」


わたしの顔を見るなり顔を真っ赤にして、何か単語を連発するとみんなには内緒ね、とはにかみながら言った。


わたしがもちろんと言うととても嬉しそうに笑う。


「大丈夫、本棚の後ろに限定生産のベアがあったなんて言わなきゃわかんないよっ」


わたしがそう言うと、園崎くんは頬を引きつらせて「あぁ、そっち?」って言った。


そっちって、どっち?



結局、その後も定期は見つからなかった。


疲れ果て、ぐったりと椅子に腰掛けた園崎くんに自販機で買ったあったかいココアを渡す。


その隣に椅子を引っ張ってわたしも座った。


静かな部屋にふたりの缶を切る音が響く。



「ごめんね、定期見つけられなかった」


ココアの甘い香りにうっとりしていたわたしは、慌ててううんと首を振る。


「あやまらないで、園崎くん。ありがとうね、一緒に探してくれて」


「う、うん。どう、いたしまして」



「あぁっ!」


今度はなにっ?


と、でも言いたげに園崎くんが跳ねた。


「涼のこと、忘れてた……」


「涼って、三上さんのこと?」


男の子にしては大きめの瞳をパチパチさせなが園崎くんが聞く。


「うん、駅で待ってると思うの……」


そう言いながらわたしはブレザーの左ポケットに手を入れる。


……あれ?


「ケータイがない……」


「今度はなにっ!?」


今度は本当に言った。


そうだ、ケータイはバックに入れっぱなしだった。


あの時、涼に投げ渡したバックが目に浮かぶ。


「どうしよう……電話できないよ」


どうしてわたしってこうも駄目なんだろう。


もう高二も終わるってゆうのに、全然成長してない。


こんなんでこれから先、生きてゆけるんだろうか……


なんだかそう思い始めたら止まらなくなって、気が付いたら「ひくひく」泣き始めてた。


涙で揺れる景色……突然、青い色に覆われた。


顔をあげると園崎くんがハンカチを差し出してくれてる。


「あ、あぃがとぉ・・・」


何も言わず、ただ傍にいてくれる園崎くんの優しさが心地良かった。



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