Ep23.「青いマフラー」
「はい、どうぞ」
あったかいココアを差し出した巧くんは、カチカチ動くロボットみたいに隣に座った。
ふたり揃って缶を開けると、突然「あ、隣良い?」ってもう座ってるベンチを指さす。
なんだかすごく面白くて、さっきの亜樹くんみたいに「どぉぞ」って子供みたいな言い方をしちゃった。
タイミングのズレた後で、言ったことに自分でも笑ってしまったのか、わたしの言い方の問題か、巧くんは苦笑いに近い笑みを浮かべると首をすくめた。
電車が来るまであと、どれくらいしかないんだろ?
横目で盗み見る彼の横顔。
キレイでカッコ良くて、ちょっと可愛いかった。
学校帰り、駅のホームでふたりっきり。
まるで、映画に出てくる恋人同士みたいで顔がニヤけちゃう。
でも、俳優さんや女優さんが演じないような なにか がわたし達にはある。
言葉にできないそれを早くなくせれば良いな。
寄り添えないもどかしさ、今はちょっとずつ向き会ってお喋りで埋めて行こう。
この気持ち、きっと 恋 だよね?
大きな音と規則的な振動、電車が駅にやってくる。
ふたりの減ったモノがこのココアだけならいいな。
簡単にできるとは、思ってなかったけれどやっぱり涼にするみたいには、巧くんにできない。
もどかしさが胸を締め付ける。
ふとその時、青いマフラーがそっとわたしの目の前に現れた。
それは、そのまま優しく首元に心地よい温もりを運んでくれる。
はっ、と顔を上げた時。
閉じる電車のドアの向こうに手を引いて、優しく微笑む巧くんの姿があった。
プシュ、と空気の吹き出す音が今のわたし達に残された時間がもう少ないことを知らせる。
「あ、ありがとう!」
なんとか通じたのか彼は、嬉しそうに頷くとなにか言いたそうに口を動かした。
でも、響く電車の音とたった今閉じてしまったドアで声なんて全然聞こえない。
わたしは、瞬きさえ惜しむくらい巧くんを見た。
そんな剣幕に押されたのか、さっきみたいに苦笑いを浮かべ見やすいように大きく口を動かしてくれた。
「う、し、ろ。か、ば、ん」
どういうこと?
ふと横目で振り向いてみると、そこには自分でベンチの上に置いた缶が倒れ、そこからこぼれたココアがボタボタとわたしのバックに降り注いでいた。
「えぇ!?」
駆け寄ろうとした時、電車がゆっくりと動き出した。
あっ!
すれ違うように見えた彼の顔は、すごく赤く染まってて柔らかな笑顔を浮かべていた。
微笑み返したわたしは、きちんと届いたかな?
甘いココアの香りは、なにかを少しでも埋めてくれるものになればいいな。
この青いマフラーと彼の温もりも。