Ep21.「自分らしさ」
「それじゃ、気をつけて帰ってね。それと、今日はありがとう」
喫茶店から出ると、巧くんは、そう言って笑うと駅のホームに向かって歩き出した。
「どうするんだ?」
「え、なにを?」
質問に質問で返されたせいか、涼は、一瞬むっとするとまたいつものあきれ顔で笑った。
「園崎のこと、見送らなくていいのか?」
そう言われてふり向いた先に彼の姿はもうなかった……
「うーん、でも引かれないかな?」
「なに言ってんだ?そんなこと言うなんて、愛美らしくないぞ」
そ、そうかな?口から出かかった言葉をさえぎって涼は、冷静な口調で続ける。
「いつも何考えてるかわかんなくて、いきなり思いたって行動する。それが、愛美だろ?」
「うーん……なんだか、複雑だな。それって誉めてくれてるの?」
あ?とわたしを見つめた涼は、何度目かの瞬きと同時に首を横に振った。
「え?じゃ、どういう意味なの?」
ニカッと笑った彼女は、自分の右手をわたしの頭のてっぺんにのせて言った。
「あたしは、愛美のそういうところが好きだ。ツッコミがいあるしな。でも、たまにあきれるけどっ」
「あきれるって!……でも、ありがと。涼がそう言ってくれるとすごく嬉しいよ」
自然にいつも笑顔でいられる。涼と、巧くんはちょっと似てるな……
「ほらっ電車来たぞ!」
ホームに流れ込んでくる電車、もう時間がない!
「うんっ行ってくるね!」
飛び出したわたしは、きっと危なっかしくてまた涼をヒヤヒヤさせたと思う。
また、あきれて笑ってるかな?
わたしは、真っ直ぐ走り続けた。
息を切らしてたどり着いたホーム。ちょうど電車に乗り込む制服の男の子が見えた。
「巧くん!」
たった一言、それだけを言うのが少し遅かった。
電車のドアは閉まり、何事もなかったかのようにいつもと同じようにゆっくりと走りだした。