Ep20.「ラテ」
「本当にありがとうごさいました。ほら、亜樹もちゃんとお礼しなさい」
「ありがとう。おにーちゃん、おねーちゃん!」
嬉しそうに笑う亜樹くんと、安心しきった顔のお母さん。
「どういたしまして。亜樹くん、今度は気をつけるんだよ。電話番号、きちんと覚えるんだぞ」
微笑み、頭を優しく撫でた巧くんは、すごく大人に見えた。
少し子供っぽいかなと思っていたわたしは、すっかり見る目がない。
でも、こうしてまた巧くんを知れたことがなにより嬉しい。
子供と遊ぶ彼なんて、学校じゃ絶対に見れないと思うし……
「それじゃあね。亜樹くん元気でね!」
わたし達は、お互いが見えなくなるまで手を振り続けた。
亜樹くんの家からさっき通った道を戻り駅に向かう。
すっかり暗くなった路地に冷たい夜風が吹きこむ。
ふと、巧くんが言った。
「なにか、あったかいものでも飲まない?」
小刻みに動いてるのは、凍えてるの?
涼に目で訴えかけると「そうだな」と頷いてくれた。
「じゃ、あそこにしよう?」
駅前のビルの一階、有名なファーストフード店を前に店を構える喫茶店。
選んだ理由はかんたん。
キャラメルラテ半額!とピカピカ光る看板にくぎ付けになったから。
「よし!そうしよう」
きっと巧くんもアレを見たんだ。
キャラメルラテ好きなのかな?
だったらいいな。好きなラテが一緒ってきっと大事っ!
「ほら、愛美行くぞ?」
いつの間にかふたりが先にいる。
巧くんは寒さに耐えられないのか、ちょこちょこジャンプしてる。
「ごめんね、ちょっと考えごと」
駆け寄ったわたしに涼がそっと耳元で言った。
「園崎、あの電灯看板綺麗だねってよ。愛美が見とれてたのに見とれてたからなっ」
ニヤつきながら歩き出す涼。
え?……あー、ラテじゃないんだ。
複雑な心と元気に光る看板。
「わたしもこれくらい光れば、巧くんはきれいって言ってくれるのかな?」
え?
と固まった涼は、冷凍されたシュウマイみたいにシワシワのカチカチになった。
「意味、わかってる?」
「え?もちろん!あれくらいピカピカなのが好きってことでしょ?」
無理やり解凍された涼シュウマイは、皮がやぶれてヘナヘナになった。
「そうだね……ま、いつかわかるよ」
それっきり涼は、お店にはいっても静かになって巧くんは猫舌なのか注文したブラックコーヒーを真剣にふーふーし続けた。
わたしは、泡いっぱいのキャラメルラテを飲んでカールおじさんのまねをして笑ってた。
三人とも大人なお店の雰囲気とちょっと違ったかな。
お客さんがわたし達だけでよかった。
たぶんいちばんホッと胸をなでおろしたのは、お店のマスターさんだと。