Ep19.「迷子2」
駅まで来た僕らは、改札で立ち止まった。
「アキくん、どこから電車に乗ったの?」
大きな路線案内板を見上げながら、アキくんは首を振った。
「そっか、わかんないか……」
どうしようか
「なにか目印になるものある?」
「めじるし?」
「うん」
俯いたアキくんは、地面についたガムのあとを靴で擦りながらうなり始めた。
「あっ!おっきなピンがあった」
「ピン?なんのピンなの?」
「ボーリングの倒すやつ!」
「白くてキュッてなってるやつ?」
「うん!」
ここらへんでボーリング場なんてあったかな……
ふだんあんまり出掛けないせいか、心当たりがない。
「アキくん、他になにかある?」
「えーほかぁ?」
アキくんが顔を上げたのと僕が名前を呼ばれて振り向いたのは、たぶん同時だった。
「愛美ちゃん!三上さんも」
階段を登ってきた二人が手を振る。
愛美ちゃんは、アキくんを見るなり驚いた。
「園崎、弟いたのか?」
三上さんは、いつもどうりの冷静な口調で言う。
「たぶん……いや、たぶんじゃない。迷子だよ」
「迷子?ボク、どこから来たの?」
いつの間にかしゃがみ込んだ愛美ちゃんが、優しくアキくんに問いかけている。
―二人とも今まで学校にいたのかな?
そう考えると同時に、僕の視線は愛美ちゃんに向かう。
制服の上からでもわかる華奢な肩と色白で細い小さな手。
真上から見る髪は、今日も綺麗だった。
なんだか、見方がいやらしいな。
自分を責めると共に僕もしゃがみ込んだ。
「へぇーボウリング場があるんだ!」いつの間に聞き出したのか、愛美ちゃんは「はっはーん」と頷いた。
「それ、たぶん青原だな。隣の駅だったよな?」
三上さんの問いかけに愛美ちゃんは頷き、立ちあがった。
「じゃ、行こっか!」
手を繋いで歩き出す愛美ちゃんとアキくん。
行くって、みんなで?
首を傾げている僕の横で三上さんが声を上げた。
「愛美、切符。……ちがっ、そっちは下り」
なんだか、楽しそうなことになってきたな……。