Ep18.「迷子」
僕は、公園のジャングルジムにいた。
いつの間にか夕陽は落ち、月が輝いている。
月明かりに照らされて見える雲の流れ。
少し冷たい夜の風が頬を撫で、ほのかな湿気が髪を包む。
温かかった缶コーヒーは冷めていたけど、中身は少しも減ってない。
イッキに飲み干しても、額に残る払えない微熱と眠気のような感覚は、さめなかった。
―愛美ちゃんは、どう思ってるんだろ……
二人で定期を探したのはつい先日の事。
でも、僕はそのずっと前から愛美ちゃんを探してた。
渡り廊下、集会場の体育館。
教室じゃ見れない彼女が見たくて、知りたくて。
でも、いつも大勢の女子の輪にいる彼女に声をかけられる程の勇気が僕にはなかった。
だからあの時、教室に突然愛美ちゃんが現れたのには心から驚いた。
そして、チャンスだとも思った。
それから事は、僕が思っていた以上に恐ろしく進んだ。
半年以上もアドレスすら聞けなかったのに、愛美ちゃんから電話がかかってくる。
しかも「逢える?」なんて……
お父さんの病院で見せたあの涙は、やっぱり……
「お兄ちゃん大丈夫?」
いつの間に登ったのか、隣にまだ小学校低学年くらいの男の子がいた。
色白の頬にくりくりの目、母親が切ったのがわかる綺麗に横一列にならんだ前髪。
小さな両手は、まだ柔らかそうに見えてもしっかりと力強くパイプを掴んでいた。
「あ、うん。大丈夫だよ。ありがとね」
微笑み返すと男の子も満足気に笑った。
それにしても、当然来るであろうと思っていた親の呼び声がない。
こんな時間だ。
子供一人で遊ばせるはずないと思うんだけれども……
「ボク、お母さんは?」
男の子は俯くとゆっくり首を振った。
「そっか。じゃあ、誰と来たの?」
「タケシくん」
友達かな?
でも、僕ら以外の人影はない。
「タケシくんは、いまどこにいるの?」
「わぁかんない」
「えっと、じゃあさ……」
一通り聞き終えると彼、アキくんは危なかっしくジャングルジムから飛び降りた。
「いこう!お兄ちゃん」
駆け出すアキくんを追った。
なんでも彼は、隣町から来たらしく一緒だったタケシくんの塾に付き合わされたらしい。
でも、タケシくんに先に帰られてしまい帰り道がわからなくなってしまったそうだ。
「お腹空かない?」
「ジュースのみたい!」
―弟がいたらこんな感じなのかな?
優奈は男勝りだけど、やっぱり少し違うな……
勝手な想像の世界は膨らんで、袖を引っ張るアキくんに連れ戻された。
「あ、駅ついたね」
「うん。でんしゃだよ」
ホームにあまり人はおらず、僕らはベンチに並んで腰を降ろした。
「きっとお母さん、心配してるよ」
家の電話番号がわからないんじゃ電話の仕様もない……
無邪気に電車へ手を振る彼に、危機感というものはまだないようだ。
彼の寒そうな首元にそっとマフラーを巻いてあげた。