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Ep15.「優しさ」


朝のホームルーム、少し遅刻気味に巧くんはやってきた。


相変わらずの痛々しい左手……


一時間目の前、元気のない花みたいにぐったりと机によれた姿に色々と想像が浮かぶ。


ちょっと話し掛けずらいな……


いつものザワザワ言葉が飛び交う教室、なんだか二人の距離がリセットされてしまったような気がした。


「愛美?どした、なんか元気ないじゃん?」


優しくわたしの肩に手を乗せると、涼が言った。


「実はね……」


短く、出来るだけ上手く伝わるように説明した。


ちゃんと伝わってるのかわからないけど涼は、

「あぁ」

とあいまいに頷くと耳元でささやいた。


「園崎はシャイなんだよ。きっと」


駆け回る子供を見守る母親みたいな言い方だった。


見ると

「その怪我どうしたのっ?」

とかみんなに聞かれてる巧くんは、なんだか適当に笑顔を浮かべて答えてるように見えた。


「そぅ……だね」


チャイムが鳴るほんの一瞬、巧くんと目が合った。


でも、すぐにせわしなくパチパチと瞬きをすると、プイッと横を向いてしまった。


シャイ、ね……


ノートを取り出す自分の手が少し荒れていた。



お昼、いつものようにみんなと机をひっつけていたら巧くんが一人でスッと教室を出て行くのが見えた。


じっとドアを見つめていたわたしに気付いたのか、涼が小さな声でささやく。


「行かなくていいのか?」


「だって、なんかいつもと雰囲気違うし、避けられてるみたいだし……」


怒ってる、とは違う”なにか”が彼の背に張り付いてるみたいだった。


「でも、園崎はいつもあんな感じだよ?」


そうだっけ……


「とにかく、園崎のとこ行ってきなよ。あとは適当に言っとくから」


そう言って、わたしにしか見えないようにみんなを指さす。


「うん。行くだけ行ってみるっ」


バックを両手で持ち直すとドアに向かった。


「愛美っ!」


わたしの手を握ると涼は優しく、でもしっかりと両手でわたしの手のひらに”なにか”を乗せる。


ゆっくり開いてみると、涼愛用のハンドクリームだった。


「これ、涼の大事な高いやつでしょ?」

そう言ったわたしに優しく微笑む。


「好きな人のトコに行くのに、そんな荒れた手じゃアレでしょ?」


久しぶりに白い歯を覗かせて微笑むと、目じりに可愛らしいしわが寄った。

涼もやっぱり、なんだかんだ年頃の女の子だ。


「ありがとう。じゃあちょっと使わせてもらうね……って、好きとかまだっ!」



トイレの鏡の前に立って髪を直す。


涼の優しさが嬉しくて、何度キメても顔が緩んじゃう。


「そうえば、巧くんはどこにいるんだろう……」


生徒で賑わう渡り廊下に彼の姿は見えない。


すると、ポケットに入れていたケータイが震えた。


まさか、と開いてみるとやっぱり涼からのメールだった。


言い忘れたっ園崎はたぶん図書室だと思うよっ!


なんで知ってるんだろ……


少し考えてみたけれどわからない。


とりあえず、「ありがとう」と送信するとB棟二階の図書室へ向かった。



お昼のB棟は全然生徒がいなくて、すごく静かだ。


さっきまでのばか騒ぎがウソみたい……


一番端まで来ると教室二つ分くらいのスペースを取った図書室が見えた。


ガサガサと中で音がする。


一呼吸置くとゆっくりドアを引いた。


「た、巧くん。あのねっ」


おそるおそる顔を上げた先、二人の生徒がいた。


男子生徒と女子生徒は紙一枚がやっと入りそうなくらい顔を近づけて、二人揃ってわたしを見てる。


……えっ?


なにかが落ちる音がした。


それがわたしの落とした生徒手帳だと気付いたのは、ずっと後のことだった……




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