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Ep14.「生まれた時から」


巧くんが帰ったあと、わたしは、ひとり残ったココアを飲みながら考えた。


ユナちゃんがわたしに”彼女さんですか?”


って聞いた時、巧くんは否定しなかったな……ってことは


「脈あるのかなっ!?」


いつの間にか身についたひとりごとは、もう離れないなとも思った。



「遅かったなぁ」


病院まで行くとパパはシャッターを閉じているところだった。


「うん、まぁ……帰る?」


近寄ったわたしにカギを渡すと親指で車を指した。


乗ってろ、ってことかな。


夜に潜むような黒のボディ、少し年期が入ったパパの愛車。


病院と違ってピカピカに磨かれたボディに電灯で照らせれたわたしの顔が映った。


「えぇっ!?ひっどい……」


ボサボサになった髪、頬に残る涙のあと。


こんな顔で巧くんに逢っていたと考えると、凍えて青くなった指先からさらに血の気が引いてくような気がした。



勝手にエンジンをかけ、エアコンの暖房をガンガンにつけていたらパパに怒られた。


寒かったら後ろのシートに乗せた毛布をかけろ、って少ないお小遣いで生活するのは大変みたいだ……


言われたとうり毛布をかけたら、あったかいけどたばこ臭い。



せっかくの高そうな毛布が台無し。っていうかこれでガソリン代浮くの?


毛布なんて乗せてるってことは、ふだん車で寝てるの?

とも思ったけど口にはしない……


「今日はありがとね、パパ」


赤信号で止まり、パパは、ヘッドライトを消すとハンドル握ったまま顔を向ける。


「愛のためなら、パパは吹雪の中だってノーパンで進むよ?」


「やめて。っていうか、なんでノーパン?服着たならパンツも履きなよっ!」


ははは、と笑ったパパは信号が青になると慌ててライトを点けようして間違えてウインカーをだした。



「帰り道も忘れちゃったの?」


笑いながら言ったわたしに、大真面目に答える。


「だって、パパ緊張してるんだもん。愛と一緒に車乗るのなんて久しぶりだし」


わたしの相槌を待ってパパは続けた。


「ママと初めてデートした時の事、思い出す……」


そっか、ドライブデートだったんだ。


「パパが運転したの?」


慣れた手つきでカーブを曲がる。


「ううん、ちがーう」


「じゃあ、ママが?って免許無いよね……お友達?」


「ううん、ちがーう」


じゃあ、誰よ?と問いただそうとしたらパパが唐突に言った。


「バス。隣同士座って箱根まで観光に行ったんだっ」


……はい?


初デートがバスで、しかも箱根まで観光?


「よくママが良いって言ったね……」


よくわからないショックでうつむいた……


「うん、大変だったんだよ。車酔いで」



「……ママが?」


「パパがぁっ」


さいあくだ……



「パパ、わたしは、ママに似てる?」

いきなり言われて驚いたのか、パパは運転中なのにまじまじとわたしの顔を眺める。


前向いて!、と言ったら振り向きついでに言った。


「もちろん。目元なんてママそっくりだよ。あ、でも耳はお祖母ちゃんに似てるなっ。特に耳たぶ」


「耳たぶってなによっ。そう、ちゃんとママに似てるんだね……」


なんだか嬉しくて、またのどの奥がヒリヒリと痛む。


「愛は、写真でしかママを見た事ないもんね……でもね、ママはいつも愛と一緒にいるよ」


「えっ、どうゆうこと?」


急にしんみりと語り出すパパに、冗談を言う時とは違った笑みが浮かぶ。


「愛美の”愛”って字はママの愛子から取ったんだよ。だから、愛が生まれてからずっとママはそばにいるだ」


初めて聞いた。


愛子っていう名前は知っていたけど、わたしの名前がママから取ったなんていままで一度も聞いたことが無かった。


「でも、愛っていう字は同じでも愛美とママは全然違うなぁっ」


なんか勘にさわるな。


「どうゆう意味よ?」


パパは、またいつもの抜け顔に戻ると言った。


「ママは、すっごくおしとやかで大人だった!」


歯を覗かせて笑ったパパに精いっぱい皮肉を言ってみた。


「わたしの抜けたとこは、パパのせいよっ」

あらら、と口では言ったけれど、パパは少し嬉しそうに微笑んだ。



「パパ、ママのこといまでも好き?」


少し速度を落とすと、一瞬だけ振り向いてパパは言った。


「大好きだよ」


「ママとわたし、どっちが好き?」


パパは少し考えると答えた。


「愛は、どっちが好きなんだ?」


質問に質問で返された、と少し頬を膨らませながら言ってみた。


「ふたりとも大好きだよ」


大きく頷くと


「パパもだよ」


って優しく言う。


いつの間にか、胸元までかけていた毛布がなんだか暑く感じる……


静かになった車の中で、いつの間にか風の吹き出す音がしてる。


よく見ると、暖房がついていた。


パパの横顔を眺める。


きっと、ママもパパのこうゆう優しさに惹かれたんだろうなぁ……


わたしもいつか、こうやって誰かを大切にできるのかな?


窓ガラスに映った顔は、我ながら幸せそうに見える。


「ね、巧くん……」


放った言葉は、あったかいぬくもりに包まれてゆくような気がした。




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