Ep11.「ばか親」
どうしたのかな……
電話にも出ない。
それにもう二時間近くの遅刻。
巧くんがそうゆう人だとゆう事なら仕方ない。
少し話すようになって、まだ三日とたってないんだから……
降り続く雨は勢いを増して、少しずつわたしにもかかるようになってきた。
今頃になって傘を持って来なかった事を後悔したけど遅いよね。
「そうえば、家を出る時お母さんとお天気お姉さんが何か言いたそうだったな……」
こうゆう事だったんだ……
お財布の中を覗きこんでコンビニでビニール傘を買おうか迷っていた時だった、お気に入りの歌が流れる。
音と振動を頼りにバックの中を探った。
ケータイが着信を知らせていた。
ディスプレイには”パパ”の表示、なんだかイヤな予感がする。
「もしもし?」
―おお、俺だ。ちょっと良いか?
駅からちょっと離れた所で接骨院を開くパパは、一年中暇なのか忙しいのかわからないけれど、いつも疲れた顔をしてる。
「なぁに?またお手伝い?」
これが一番やっかいなんだよなぁ……
―あぁ……聞きたい事がある
「聞きたいこと?なに?」
震える程寒いとゆうのに、何故か背中に冷や汗が流れるのを感じた。
―園崎巧を知ってる……ってか知ってるよな?
「うん、知ってるよ。同じクラスの子」
なんで、なんで知ってんの!?
まさか、お母さんが?
あ、でも巧くんに逢いになんて言ってないし……
―そうか、同級せいか。で、お前はそんな同級生になんでこんなに電話かけてんだ?
「えっ?……」
雨なのか汗なのか、頬を雫が伝った。
「あぁ……れ、連絡網よ。ってか、なんでパパがそんなこと知ってるの?」
少し間があると、パパは唐突に言った。
―今、ここで死にそうになってる
バンッ
引き戸を思い切り押し間違えるとユルユルと開いた。
「愛、早かったな」
横をすり抜けると診察室へ滑り込んだ。
暖房でカラカラに乾いた床に雫が落ちる。
「巧くん、巧くん!」
診察室に置かれたベットの上、小さな傷がある素肌の上半身に包帯をグルグルに巻かれた左腕。
濡れて束になった髪に、切れたジーンズ。
右手をこぼすように床に落とした巧くんが横たわっていた。
「巧くんっ!!」
駆け寄って揺すぶろうとしたわたしをパパは止めた。
無言で首を横に振る。
「うそ、うそだよ……こんなことって……」
涙がこぼれた。
喉が熱くて、嗚咽がこぼれる。
溢れる悲しみを吐き出すように、大きな声を出してわたしは泣いた。
「事故ってここに運び込まれたんだ。可哀そうに、まだ若い。お前と同じ年だろ?」
そっけなく言うパパが許せなかった。
「なんで、なんでもっと大きい病院に連れて行かなかったのよっ!!」
泣き崩れるわたしの肩を優しく抱くと、パパは静かに言った。
「すまない。間に合わなかったんだ……」
すまなそうに顔を落としたパパに当たることもできず、わたしはただ泣いた。
やっと始まると思った恋だったのに、この人ならいいなと思ったのに……
まさか、こんなことになるなんて……
「巧くん!!死んじゃやだよっ!!」
「……うっ、うーん」
突然、巧くんは痛そうにうめいた。
……へっ?
パパは、幸せそうに微笑んでいた。
わたしの肩を抱いて。
「パパ、どうゆうこと?」
ライオンに睨まれた草食動物のようにパパは小さくなると、はははと微笑んだ。
「だってさ、こうでもしないと愛かまってくれないじぃーん」
巧くんの濡れた服を広い上げると、すねたような口調で歳がいも無いようなことを言う。
マフラーとコートをハンガーに掛けると、わたしは、余ったハンガーでパパの背中を思い切り叩いた。
「だからって、なんで死にそうだなんて嘘つくの!?」
「だってぇ、寂しかったんだもんっ」
親を待つ子供のように言い放った43歳にわたしは本気で怒鳴った。