Ep10.「あめ」
あれからもう二時間が過ぎてた。
何回かかけた電話に巧くんは出ない。
縛られたように手足の感覚は無く、驚く程冷たいほっぺは、歯医者さんで麻酔を打たれたみたいに痺れてる。
いつの間にか降り出した雨は少しずつ勢いを増して、土砂降りになってもまだ降り続いてる。
「巧くん、まだかなぁ……」
少し濡れた髪を触りながら、駅前の有名なコンビニの薄い屋根の下で降り続く雨粒達を見送ってた。
「これだけ待ってるんだもん。絶対来てくるよね?」
やっぱりわたしは、一人になると一人ごとを言う癖がある。
傘をさして駅に向かってく人達は、急な冷え込みに体が縮むのか首を引っ込めて走ってく。
そうえばさっき、駅とは逆の方向に走っていく人がいたような……
なにかあったのかな?
「へぇ、気がきくじゃん園崎っ」
えっ?
”園崎”とゆうフレーズに思わず顔をあげてしまった。
でしょう、と微笑む中学生くらいの愛らしい大きな瞳の女の子にそれまた同じ歳くらいの男の子。
ピンクの折りたたみ傘に体を寄せ合って入った二人は、楽しそうにわたしの前を歩いて行った。
「あのくらいの子にも、もう彼がいるんだぁ……」
なんだか思い知らされてるみたいで、わたしは背伸びして遠くまで見渡した。
「巧くん、早くきて……」
たったいま放った言葉も、雨音に消されてしまう気がした。