第5話「有効打突?」
狼型モンスターの死骸が、床に横たわっていた。
銃で撃ち抜かれたものと、俺が打ち倒したもの──並べてみると、死に方が明らかに違う。
俺の一撃を受けた方は、傷口がほとんどなく、全身から力が抜けたように崩れ落ちていた。
「なあ真、さっきのは……どう見てもただの面打ちだよな?」
榊原が銃口を下げ、俺を見やる。
「そうだな。稽古で打つのと何も変わらない動きだった」
「でも、さっきまで効かなかった竹刀が、あの一撃だけで倒せた。……何か条件があるんじゃねえのか?」
条件──その言葉が、頭の中で引っかかった。
スライムを倒したときも、狼を倒したときも、どちらも意識して打ち込んだ一撃だった。
正確な構え、正しい間合い、踏み込みと共に振り下ろす……剣道でいう、有効打突。
「……まさか」
俺は竹刀を見つめながら呟く。
「おい、真。お前、試してみる気だろ」
榊原が呆れたように笑う。
「……ああ」
まだ狼は一体残っている。
こいつで試す。
榊原が牽制射撃をして動きを鈍らせ、俺はゆっくりと距離を詰めた。
狼が牙を剥く。だが焦らない。呼吸を整え、中段に構える。
「──面っ!」
踏み込みと同時に、全身の力を竹刀の先へ集める。
カシャン。
手応えと同時に、狼は鳴き声を上げることもなく崩れ落ちた。
やはり──偶然じゃない。
ただ叩くだけでは通じないが、正確な有効打突ならば一撃で仕留められる。
「……分かったぞ」
俺は竹刀を握り直し、榊原に向き直った。
「このスキル、ただの武器制限じゃない。有効打突を決めたとき──相手は即死する」
榊原が口笛を吹く。
「おいおい、それチートじゃねえか」
「まだ確証はない。……だが、これなら戦える」
俺は深く息を吐いた。
昨日までの絶望が、ほんの少しだけ薄れていくのを感じた。
──ただし、このスキルには致命的な欠点がある。
有効打突を取れなければ、俺は何もできない。