第4話「通じない一撃」
狼型モンスターの群れが、湿った回廊を駆け抜けてくる。
低く唸る喉の音と、爪が石床を叩く鋭い足音が混じり合う。
「真! 後ろは俺がカバーする、前は頼んだ!」
榊原が短く叫び、ライフルを構えた。
俺は頷き、竹刀を肩に掛ける。
スライムの時と同じだ──そう思って、先頭の狼の横腹を叩きつけた。
カンッ!
嫌な音が響いた。
竹刀の先端は、まるで硬い木板を打ったかのように弾かれ、狼は痛みにも怯まず飛びかかってくる。
「っ……!」
反射的に身を捻ってかわし、床を転がる。
すぐさま立ち上がって二撃目──今度は背中へ振り下ろす。
だが、やはり弾かれた。
力を込めても、竹刀はただの棒にしかならない。
「おい真、どうした!?」
「……効かねぇ!」
狼の牙が肩を掠める。制服越しに鈍い衝撃が走り、血の匂いが鼻を刺した。
榊原が間に割って入り、ライフルで狼の頭部を撃ち抜く。
「くそっ……スライムは一撃だったのに……」
俺は竹刀を握り直す。
心臓が嫌な速さで脈を打っていた。
群れはまだ三体残っている。
榊原が後方から牽制射撃を放つ間に、俺は再び前に出た。
正面から飛びかかってきた一体──避けずに踏み込み、竹刀を構える。
その瞬間、体が勝手に動いた。
右足を踏み込み、左手を押し出す。
面打ち。
剣道の稽古で何千回も繰り返した、あの動き。
カシャン。
竹刀の先が狼の頭部をかすめた瞬間、骨の砕ける音とともに、狼は糸が切れたように崩れ落ちた。
残る二体が怯んで足を止める。
「……今の、何だ?」
榊原が呆然と呟く。
だが俺は答えられなかった。
さっきまでまるで通じなかった竹刀が、あの一撃ではまるで別物だった。
偶然か?
それとも──スライムの時と同じ、何か特別な条件があるのか?
考える暇はない。
残る二体が再び吠え、こちらに突っ込んでくる。
俺は竹刀を構え、息を整えた。
あの感覚──心、気、力。全てが一致した瞬間を、もう一度。