第3話「一撃」
ダンジョン臨時討伐任務。
俺と榊原は、都心にぽっかりと現れたゲートの前に立っていた。
「今回は低レベルモンスターの掃討だ。まあ、真のリハビリにはちょうどいいだろ」
榊原は軽口を叩くが、俺は返事もしなかった。
竹刀しか持てないこの状況で、何をどうしろというのか。
ゲートを抜けた先は、湿った石造りの回廊。
苔むした壁から水が滴り、空気はひんやりと冷たい。
足音がやけに響く。嫌な緊張感が漂っていた。
「……来るぞ」
榊原が低く呟く。
前方の暗がりから、ずるりと青白い塊が這い出してきた。スライムだ。
俺は竹刀を構えたが、正直、倒せるとは思っていなかった。
刃も無い竹の棒で、粘液の塊をどうにかできるとは思えない。
スライムが跳ねた。
その瞬間、体が勝手に動いていた。
「──面っ!」
竹刀の先端が、ぬるりとした頭部に触れた瞬間──
パリン。
硝子細工を割ったような軽い音とともに、スライムの全身が霧散した。
俺はその場で固まった。
榊原も、信じられないものを見るような目をしている。
「……おい、今の見たか?」
「ああ。……お前、いつの間にそんな威力出せるようになったんだ」
「知らねぇよ」
試しに、もう一体。
襲いかかってきたスライムの胴体に、竹刀で横一文字。
再び、パリン──霧散。
「……おかしい」
スライムは低ランクだが、木の棒で触れただけで粉砕できるものじゃない。
何より、俺はほとんど力を入れていない。
「真、これ……スキルじゃねぇのか?」
榊原の声が、やけに耳に残った。
俺は竹刀を見つめた。
さっきの一瞬、竹刀が微かに脈動したような──そんな気がした。
だが、確かめる暇はなかった。
回廊の奥から、複数の足音と唸り声が近づいてくる。
今度はスライムじゃない。狼型のモンスターが群れで現れた。
「くそっ、考えてる暇はなさそうだな」
榊原がライフルを構え、俺は竹刀を握り直す。
──この瞬間から、俺の戦いは、本当に始まったのかもしれない。