表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/78

6 助けてといった時助けてくれたのは父上だった

魔王の一族が使う伝書鳥――

代々、魔王、皇后やその子らが使ってきた魔鳥だ。


闇空を裂いて飛び、人間界にも魔界にも行ける。

偵察も、伝令も、危機の報告もできる。

足には小さなカプセルを付けて、手紙くらいなら持たせられる。


ただし、かなりの忠鳥。

魔王の血を引かない者には、ただの黒い鳥だ。


アルファードは、自分の手のひらに魔法陣を描いた。


「……リセリアを探して、危機があれば場所を示せ」


鳥を魔法陣に乗せる。

父上クラスになれば、魔法陣など使わず、目や気配ひとつで命令できる。

まだまだ、俺は足元にも及ばない。


 

伝書鳥は、漆黒の空へ溶けていった。



 その頃、リセリアの意識はすでにほとんど残っていなかった。


かろうじて指が動くかどうか。もう声も出せない。


折檻? 

そんな優しい言葉じゃ済まない。


堕天魔族にとって、「傷ついたからといって魔王の息子に運ばれる」なんて、最大級の屈辱。


殺す機会を潰す? 

そんなやつ、ただの穀潰しだ。


折檻が終わり最後に投げ込まれたのは、糞尿と腐臭のただよう死体置き場。

生きているのが奇跡なら、それもすぐに終わる。


(別に、助けてなんて思わない)


この種族に、父も母もない。

生まれればすぐ、魔王を殺せるかどうかで評価されるだけ。

魔王さまと息子に手を出せない私は初めから――

こうなる運命だった。

だんだん意識が遠ざかっていく




「おい!! おい、リセリア! 生きてるか!!」


伝書鳥の緊急SOSがついたのは、鳥を放って数秒後、アルファードの耳にけたたましい鳥の鳴き声が聞こえた


アルファードは転移魔法で鳥が示す場所に駆けつける。

そこに、リセリアはいた。


 だが、返事はない。動きもしない。


「……嘘だろ……!?」


あわてて回復魔法をかける。

リセリアの体がびくんと震えた。だが直後、大量の吐血。

体温が一気に下がっていく。


「くそっ……!」


俺じゃ無理だ。これ以上はもう……!


(なんであのとき、家に帰した……? なんで、こんな……!)




 死体。死体。死体。あちこちに転がる堕天魔族の骸。




「リセリア……!」


 抱きしめたまま、喉が潰れるほど叫ぶ。


「誰か!! 誰か助けてくれ!! お願いだ……!」



「おやおや。これはこれは、魔王さまのご子息じゃないですか」


 嘲笑う声が、暗がりから響いた。


「……不法侵入じゃないですかねえ?」


 男が一人。堕天魔族の長か――アルファードの顔が歪む。


「ふざけるな! お前らこそ、これだけの殺戮をして、許されると思ってるのか!」


「思ってますとも」


男は涼しい顔で言い放つ。


「魔王と、あなたが死ねば、瘴気を浄化できる者はいなくなる。後継もいない。それなら、“私たちが選ぶ秩序こそが正義”です」


 男の掌に、巨大な火球が生まれる。


「……!」


 それがリセリアを抱えたアルファードへ投げつけられた。


「っ……!」


 ギリギリで防御魔法を展開するが、風圧と熱でよろめく。


「その穀潰し、早く捨てたほうがいいんじゃないですか?」

 男はにやにやと笑って、もう一発を構え――


 ドゴォォォォン!!


 轟音と共に、石壁が砕けた。


「っ……!?」


 爆煙の中、アルファードの前に立ちはだかったのは――


「ち、父上……!」


長い間、顔を合わせることもなかった父。

現魔王の姿だった。


 魔王は、ちらりとアルファードとリセリアを見て、目を見開く。


「急げ。戻るぞ」


その一言で、転移魔法が展開される。


アルファードとリセリアの体が光に包まれ、空間から消えた。


 ――残されたのは、死屍累々の堕天魔族と、震える長の姿だけだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ