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2 あなたに触れたくて、私はもう一度生まれた

「魔王の妻だと? もっとマシな近づき方を考えろ、リセリア! この恥知らずが!」


ドガッ!


地面に転がりながら、私は怒鳴り声を聞いていた。


殴られてる……?

ああ、やっぱり。

この体、前の持ち主、暴力で死んでるじゃん。


気づいたときには、私は“堕天魔族”の少女になっていた。


——でも中身は、前世で魔王の妻でした。


……って言っても、誰も信じない。

いや、信じられたらそれはそれで詰む。

だって堕天魔族って、魔王さまたちと敵対してる一族なんだから。


瘴気でも平気っていう変異体質の魔族が堕天魔族だ。

見た目も肌が浅紫で、ツノが生えていて、黒目黒髪。

「汚れた人間が転生した姿」とか、「堕ちた天使の成れの果て」とか、まあボロクソ。


他の魔族は、瘴気があると生きられない。

その瘴気を前世で生み出したから瘴気が平気なんじゃないか?って噂される私たちは、すべての魔族から敵認定されて当然ってわけ。


……いや、なんでそんな場所に転生しちゃったの、私。


魔王城の使用人の娘とか、もうちょっと無難な立場がよかったよ。



転生したこの子の記憶をたどってみたら、まあひどい。


飢え、虐待、孤独。

私が魔王さまに出会う前の、あの頃とそっくり。


しかも死因が……たぶん、あの族長の暴力。

魂がようやく帰ってきたと思ったのに、また壊れそうな体とか、泣きたくなる。


……でも、転機がきた。


《命令:学園に入学する魔王の息子アルファードを始末せよ》


そんなことする気ゼロだけど——会える!

アルファードに、また会える!!

うまくいかなかった関係も、やり直せるかもしれない。


そして、私は見てしまった。


入学式の会場で、堂々と立っていた息子。

私がかつて抱きしめた小さな子は、もういない。


大きくなって、強くなって、立派になっていた。


でも声をかけたら——


「母親が死んだのは三年前だ」


……うん。そうだよね。

アルファードが知ってる私は、年老いた人間の姿だった。

今の私は、どう見ても十五歳の堕天魔族の少女。


気づいてもらえなくて当然だ。

声も姿も、まるで別人。


……それでも、会いたかったんだよ。

アルファードにも、魔王さまにも。

ずっと、ずっとその日を待ってたのに。



結局、馬鹿なことをアルファードに言いやがったと殴られて今に至る。



堕天魔族は、魔王とアルファードの“失脚”を望んでるやつらの集まりである


「瘴気が効かない私たちなら、魔王と息子を始末したら魔界を制圧できる」とか、正直笑える。

魔王さま強いんだよ。

戦車に竹槍で挑むようなもんだよ。

勝てるわけないでしょ。


※※※


魔王は、死ななくなった。


本来なら、魔界の門から漏れる瘴気を吸いすぎて限界が来たら、魔界の門が開き、次の世代(アルファード)に殺されて交代する――それが、魔王という存在の仕組みだった。


でも、妻が聖女だったので、瘴気そのものが魔界からほぼなくなり、吸収する必要がない。

しかも、息子のアルファードは、聖女と魔王の力すら受け継いだので完全に魔界に瘴気はなくなった。


聖女の子で、魔王の子。

そんな存在が生まれた時点で、魔王のあり方も変わった。


魔王は不死になった。

だったら、私も――


「……一緒にいたい、ずっとそばで……」


でも、私は人間だった。

老いるのが早すぎた。


魔王さまは変わらないのに、私はあっという間に老けて、衰えて、息子とも向き合えないまま……ただ、時間だけが過ぎていった。




本当は生まれ変わって、精霊契約をしてもらうつもりだった。


精霊なら、歳を取らない。ずっとそばにいられる。

でも、二度と触れられない。

今後、魔王さまが魂になることもない


わたし、そばにいたい。魔族になって魔王さまともアルファードとも一緒に触れ合いたい


その思いに引きずられてしまった。


「転生しちゃったんだ、私……」



守れなかった。


精霊になって、そばにいるって、あんなに言ったのに。


「……魔王さま、ごめんね」


夜空は静かだった。

その声も、祈りも、ただ風に溶けて消えていった。


「……会いたいよ……もう一度……あなたに」



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