18 嫉妬とキスで魔王の理性を壊しにくる
魔王である私は、息子が堕天魔族の少女を秘書官候補にしたいと言い出したとき、少し複雑な気持ちはあったが、頬の緩みを隠しきれなかった。
――まったく、親子というか、DNAというか。
私も、私の父王もそうだった。
最初は恋愛意識なんてゼロ。
なのに、気づけばズブズブに沼ってた。
もはやこれは、恋愛遺伝子だ。確実に。
異性で信頼できると直感することは、置かれた環境からしてほぼない。
それがあった時点で、もうそれは恋のはじまりだ。
まぁ、あの子たちがそれに気づくのが早いか遅いかは――知らないけど。
さて。
私には、息子の恋愛より大事なことがある。
――自分の恋愛だ。
「トミーさん、来てくださってたのに。また寝ちゃってました……」
リンがベッドの上でしょんぼり呟いた。
「眠れるなら、寝ておいた方がいい。ここから先は、どうしても時間がかかるからな。……眠れないなら、強制的に休ませる手段もあるけど」
「でも……横になったままで、お手伝いできることは……ないかしら?」
「だーめ。まずは、添い寝できるぐらいまで回復してから」
「っ……!」
リンは耳まで真っ赤になる。(といっても、赤紫の肌だけど)
「そ、その……。15歳らしいんです、今度の歳」
「わかってる。不埒なマネはしない」
「い、いや、それもなんですけど……その、自分の体じゃないのに……魔王さまが他の誰かとイチャイチャすると、ちょっと……嫉妬というか……」
顔を覆いながら、ぼそぼそと。
魔王の私は――耐えきれず、ふっと笑った。
「嫉妬か。……前はそういうの、なかったから新鮮だな」
「前は、ずっと溺愛してくださってましたし……私でしたし。でも、今回は前の意識が残ってるみたいで、うまく動けないときがあるんです……」
恥ずかしそうに、そしてどこか悲しげに言うその姿が――
もう、たまらなく、かわいい。
かわいい。
かわいすぎる。
私の妻……最高……!!
(落ち着け自分、冷静になれ)
「前の意識は、怨念だ。私とアルファードで、もうきちんと浄化した。魂はリン。体もリンのものだよ」
心の叫びは飲み込んで、代わりに手を握る。
そしてふと、真顔になった。
「リン。……ひとつ聞かせて。なぜ、精霊になるためにすぐ戻ってこなかったの?」
胸が苦しかった。もう会えないんじゃないかと、本気で思った。
リンは、静かに答えた。
自分の老いが、アルファードとの間に溝を生んでしまったこと。
魔王である私が不死になったことで、これから先、ずっと触れ合えない存在でいることに、無意識に不安を感じて――
だから、触れ合える“肉体”を求めて、転生のルートに引っ張られてしまったこと。
気づけなかった。
あれほど傍にいたのに――気づけなかった。
アルファードと遊ぶ私を、寂しそうに見ていたあの笑顔。
私の身の回りの世話をできなくなって、スネクやバニーに申し訳なさそうに頼んでいたあの背中。
……あれが全部、彼女の心の声だったのか。
「今度こそ、絶対に離さない。
だけど、こんなことはこれきりにしてほしい。
たとえ生涯触れられなくても、傷ついた君を見る方が、ずっと辛い。そばにいてくれなきゃ……瘴気がなくても、私は壊れてしまう」
「魔王さまの弱点、ですね」
リンがふふっと笑った。
その優しい微笑みは――何も変わっていない。
顔が変わっても、声が変わっても、目の前にいるのはリンだ。
「当たり前でしょ。君以上の弱点なんて、あるわけない」
そっと、手を握る。髪に触れる。
大切に、大切に。
「ふぅ……誰も見てないし、許してね」
唇を重ねた。
ただそれだけで、時間が甘く、優しく流れていく。
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