17 堕天魔族の少女を救ったら、秘書官候補になりました
とりあえず、堕天魔族の少女からは怨念を抜き終わった。
抜いてる最中は吐血もあったし、そもそも痩せこけて衰弱している――
リセリアと同じく、治療が必要だ。
ただ、リセリアとは当分離しておいた方がいい。
ということで、少女は俺の部屋で預かることになった。
「父上、彼女を秘書官候補として訓練させてもいいですか?」
魔王は一瞬、眉をひそめる。
「……問題はない。ただ、理由を聞こうか?」
「俺に殺されても構わないと、命を差し出しました。父上に対しても同じです。
リセリアと同族なので、偏見もない。
それに、学園で擦り寄ってきた連中とは違います。……今の彼女は、信頼できると思います」
「……ふむ」
父上は腕を組んで頷く。
「確かに。お前の周囲には、見返り目当ての者が集まりやすい。信頼できる人材を見つけるのは、至難の業だ。
……トミーもそうだった。性別も年齢も関係ない。大事なのは――気持ちだ」
そう言って、何かに気づいたように目を見開いた。
「――ああっ!! リンを一人にしてしまった!!」
絶望の顔で、ものすごい勢いで走って戻っていった。
……いや、締まらん。
少女をベッドに寝かせて、スキャン魔術をかける。
案の定、全身打撲、内臓損傷。放っておけば普通に死ぬやつだ。
ゆっくり魔力を注ぎ、循環を促す。
父上は涼しい顔でやってたけど、これマジで難しい。
ポットから水を細ーく流すみたいに、繊細な調整が必要で、ちょっと間違うと少女が苦しそうに呻く。
尾行とか無理だろ、これ。
この身体で動けてたのがむしろすごい。
応急処置で出血を止め、自然治癒じゃ追いつかない部位に集中して魔力を流す。
……てか、思春期の男女を同じ部屋に入れるって、父上の判断どうなんだ?
いや、血まみれで吐血してる状況で何も起きるわけないか。
少女がうなされて汗だくになってる。
――あ、風を送ってやらなきゃ。
父上みたいに、そよ風を……
「ばふーーー!!」
ああっ、扇風機の“強”レベル!!
少女が咳き込む。
「す、すまん! わざとじゃない、ほんと!」
なんか練習台みたいになってしまってる。
父上って、気づいたときには母上のそばにいたから、魔王としての力を見ることはほぼなかったけど、実はすごかったんじゃないか……?
「う、う……う……」
少女の意識がゆっくり戻り始めた。
「大丈夫か? ごめん、もう平気だ。無理しないで、ゆっくりでいいからな」
今度は控えめに、そっと風を当てる。
ほとんど風なんて届いてないかもしれないけど――次は、うまくできるようになる。
……いや、そもそも“次”があっていいのか?
「こ、こは……?」
少女の意識が少し戻ってきた
「ええと、魔王城の……部屋、だ」
俺の部屋って言うとなんか誤解されそうだから、ぼやかしておいた。
まあ、彼女はまだぼんやりしてるし、多分わかってない。
「もう大丈夫だ。お前、名前は?」
少女は天井を見つめながら、か細い声で答えた。
「……セラ……フィナ……」
セラフィナは名前を告げると再び眠りの底に戻っていった