15 父上登場で、即死亡フラグです
アルファードは少年を連れて、魔王城の地下訓練場に転移した。
ここなら何かあっても、すぐに術を発動できる。人目もない。
少年はぐったりしていて、抵抗する様子はまったくない。
だが油断はできない。こいつ、目だけはよく動く。
「……飯、食ってんのか?」
アルファードが問いかけると、少年はかすかに首を振った。
「この前の時、リセリアが懲罰を受けてて……僕もやらなきゃやられるから、一緒に。でも、リセリアはここ数年、すごく優しくて。いつも僕のこと気にかけてくれて……だから、魔王たちと一緒に消えたとき、僕、追いかけたんだ。魔王城まで」
「追いかけたって……お前、リセリアが生きてたのは奇跡だぞ」
「わかってる。でも、僕は弱くて……逆らえなかった。リセリアを探してる間に本部は誰もいなくなってた。仕方ないから、学園に通って……リセリアのこと聞こうと思って……」
涙をこぼしながら、少年は言った。
「殺してくれていいんだ。リセリアは、僕にご飯を分けてくれた。庇ってくれたのに……僕は、何もできなかった」
アルファードは頭をかいた。
「……いや、お前なんて俺からすれば、無害もいいとこだ。殺す理由にもならねぇよ。でも、父上は──」
言葉を濁す。
だって、愛する妻が転生してんだぞ?
それを傷つけた奴ら、許すわけがない。
「魔王が、俺を……殺すかもしれないってことですね。それなら……突き出してください。もう楽になりたいです」
アルファードは腕を組んで唸った。
こいつがリセリアを折檻した一人なら、父上は殺すよな。
でもこいつ、戦う気ゼロだし、痩せてて骨みたいだし……。
とはいえ、このまま魔王城に置いとくのもなぁ……。
地下に堕天魔族がいたら、トミーやバニーが見たときパニックになりそうだし。
「とりあえずボディチェックするぞ」
一応、拘束魔法をかける。少年は抵抗せず、おとなしくしている。
ナイフはさっき自分から差し出してきた。なら、他に隠し持ってないか確認しないと──
目、口の中、胸──
胸──?
「……おい、お前? 胸……ある、だと……!?」
ずざっと後ろに後ずさるアルファード。
なんだこの展開!? これ、少女漫画とかラノベでよくあるやつじゃねぇか!
男だと思ってたけど、実は女の子でしたってやつじゃねぇか!!
「だ、大丈夫だ。胸に暗殺具は隠してない。僕、胸は大きくないから、隠せないし。ズボンのナイフは渡しました。体の中も何も仕込んでません。でも……靴に小刀が仕込んであるんで、脱ぎますね」
そう言って靴を脱ごうとしたが、拘束魔法で動けない。
「いや、もういい。ていうか、お前、女だったのかよ」
「一族にある制服が残り男物だったので……。というか、一族のものも自分のこと女だと思ってなかったというか」
「いや、すまん。その……女性に手荒なことをするつもりはなくてだな……!」
胸を触ってしまった罪悪感がMAX。
これはテンプレ展開だけど、これはマズい……!
一歩間違えたら痴漢だぞ!!
「やっぱ、父上に相談するしか──」
ふぅ、と息を吐いた、その瞬間。
「……とっくに、お前の後ろにいるが?」
「は──?」
振り返ると、そこには父・魔王。
やっべ。全く気配がなかった。
堕天魔族の少女、ごめん……
うちの父上、母上に関してだけは理性飛ぶタイプなんだ……。
お前の命、もうないかもしれん──
背中を冷や汗がつーっと流れ落ちた。