14 魔王の息子、学園で狙われすぎて困ってます
「……はあ」
アルファードは、教室の窓辺でため息をついていた。
今朝は、目覚めてすぐに母上を名乗るリセリアと喧嘩してしまった。
だが、リセリアの言ってたことは、耳が痛い。
──魔王の子というだけで、望まない権力を持ってしまう
それは事実だ。
先生も、生徒も、みんなその権力を意識した目で見てくる。
歴代の魔王は、息子に殺される定めだったから、短命だった。だから家庭教師で帝王学を叩き込まれて、外には出されなかった。
けど──。
「君には、魔王に“ならない”未来もあると信じてるんだ」
それが、父上と母上の願いだった。
いろんな人と接して、違う視点を学べ。
そうして、ようやく受け入れてくれる学園を見つけたのは──母の死後三年。
母上は、小学部から入れたかったらしい。
その希望が叶うまで、セキュリティやら理由をつけられて
十年もかかった。
……まぁ、大人たちが魔王の子を他の子と一緒にしたがらなかった理由も、分からなくはないけどな。
最初は、“他の子より劣ってたら”って心配してたらしい。
実際は、魔力量、学力、さまざまな学科──全部、講師超え。
だが、一位のリセリアは武道こそダメだが、ペーパーは1位
俺が2位、
講師たちもドン引きだ。
堕天魔族が、魔王の子より成績が良いという恐るべき事態をつくり、2位の魔王の子は講師より学力も戦闘能力も上。
そりゃ煙たがられるわけだ。
しかも……最近恒例行事だが
階段から、いろんな血族の令嬢がまとめて落ちてくる。
今日は5人
「きゃっ♡」
「きゃーっ♡♡」
全員、俺の目の前に。
即、浮遊魔法で全員宙返りで元の位置に戻したけど。
これ浮遊魔法がなかったら、階段から俺もこいつらも転落死だぞ
池では、別の令嬢たちが一斉に溺れてた。
「た、たすけてアルファードさまぁ……♡」
血色ピンクで、人工呼吸待ち。
水深10センチの池でだ。
──無理だ。
あと、堕天魔族。
朝からずっと、つけてきてる。
どこまでストーキングするつもりなんだよ。
尾行スキル、ゼロか。
「影たち、あいつどう思う?」
《……処理しますか?》
「待て、まだ何もしてない」
つーか、指示ルートが絶たれて、堕天魔族の活動も止まってるはずなんだが。
長は逃げて、腐った遺体だけが残された。
残党も追われて消えた。
じゃあ、この付きまといは、なんだ?
試しに、送迎を断って徒歩で帰ってみた。
夕暮れ、通りを歩いてると──背後でざわざわ。
「アルファード様だわ」
「後ろの堕天魔族、なにかしら?」
「危害を加えようとしてるのでは!?」
「やめろおおおおおお!!」
俺が自由に泳がせてるだけだっての!
追跡ヘタクソだからバレてんだよ!
俺の影たちも呆れてる!
──いい加減、話すか。
人気のない路地へ移動。
ふわっと転移魔法で包囲。
「おい、つけてきた理由、言えよ。関わったらヤバいってわかってるんだろ?」
ガタガタ震える堕天魔族。
少年か? 赤紫の肌に短いツノ。
傷だらけだ。リセリアほどじゃないが、何度か“折檻”されてる跡がある。
「……リ、リセリアはどこだ!」
「お前ら、あいつ殺そうとしただろ? 何の用だよ」
堕天魔族の目が、悲しげに揺れる。
「リセリアは、無事なのか……?」
「だから何? 無事だったらなんだってんだよ」
怒りがこみ上げる。
母上を、リセリアを──あんな目に合わせて。
「……無事なら、それで……」
堕天魔族は、ポンとナイフを俺の足元に投げてきた。
「……どうせお前には敵わない。ひと思いにやってくれ」
「死ぬことで片付けんな!」
素通りしようとした瞬間──
ナイフを拾って、自分に向けた!
「っ! ばかっ!」
風圧魔法で、ナイフを弾き飛ばす。
「人を巻き込むなって!」
そのまま、地面にへたり込む少年。
ぽろぽろ涙をこぼしてる。
──……放っとけない。
聞けば、拠点も壊滅、親も死んでるという。
「……もういい。ついてこい。うちで保護する」
「……え?」
「だーかーら、魔王城に連れてってやるって言ってんの! まったく……」
学園帰りでこのハードさ。
こっちの身がもたねぇ。
強引に引っ張り上げて、魔力を込める。
「転移──発動」
魔王の息子の、平穏な日常は、今日もまだ来ない。