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11 10日目の朝に

体が――動かない。


熱い。火がついたみたいに、全身が焼けてる。


痛い。苦しい。助けて。


ときどき吹く冷たい風だけが、少しだけ、気持ちいい。


でも、それでも――苦しい。


「……魔王さま、アルファード……ごめん」


こんなとこで、さよならなんて――嫌だよ。


焼け焦げそうな心の中で、リンはただ、息を吐いていた。


はあ、はあ、はあ……呼吸すら重い。頭がまわらない。体の奥から、何かが叫んでる。


『殺せ! 殺せば楽になる! 今すぐやれ!』


誰の声?


『魔王を! アルファードもだ! お前をこんな目にあわせた奴ら、全部!』


違う……そんなこと――できない……!


なら、わたしを殺して。

お願い、誰か……もう、壊れそう……


……わたし、なにしてるの?


――そのとき。


ふっと、懐かしい声が、聞こえた。


『大丈夫。私はそんなことで死なないって、知ってるだろ?』


……魔王さま。


『リン、愛してるよ。君を信じてる』


――ダメ、騙されちゃダメ!

頭の中の声が叫ぶ。


でも。


『僕に任せて。大丈夫』


魔王さまの声が、何度も何度も、優しく響く。


――ああ、この声を聞きながら死ねるなら、それでもいい……


がんばったよね。

ごめんね、そばにいられなくて。

……ごめんね。


意識が、すうっと――遠のく。



「リン? 目、覚めた?」


……魔王さまの声?


夢、かな。


天井がうっすら見えた。懐かしい、知ってる場所。

でも、まぶしくて目が開かない。


「ま……お……さま……」


声にならない声をしぼり出す。

夢でもいい。そばにいて……。


「動いちゃダメ。まだ治療中だよ。ちゃんと、寝てなきゃ」


手を――握ってくれてる?

あたたかい。魔力が、ゆっくり流れ込んでくる。


「昔みたいに痩せちゃったね。……また一緒にご飯、食べよう」


ふふ……おかゆ……だったっけ。

トミーに買ってきてもらう? ……いや売ってないか。バニーさんに作ってもらうように頼もうかな。


魔王さまの声が、ふわっと響く。


……都合のいい夢、かな。


だってわたし、もう人間じゃない。堕天魔族で、姿も声も、違うのに。


「ゆ……め……?」


「夢じゃないよ。よく頑張ったね。そばにいるから」


幻みたいな魔王さまが、やさしく頭を撫でる。


「あい……してる……」


ぽろり。涙がこぼれて、意識がまた、落ちた。



うつらうつら。夢か現か、何度も揺れて――


ほんとうに、目が覚めたのは。


魔王さまとアルファードが、リセリアを連れ帰ってから、十日目の朝だった。


まぶたが、開く。


ぼんやりとした視界のなかで、一番に目に飛び込んできたのは――

ボロボロになった、魔王さまの姿だった。


「……まおう、さま……?」


口も、ちゃんと動く。声も、少しだけ出た。


魔王さまは、ぐっと息をのんだあと、目を細めた。

疲れた顔。でも、それより――あたたかい顔。


そっと手が伸びてきて、頭をなでてくれる。


――その瞬間。


ぽろ、ぽろ、ぽろぽろと、涙がこぼれた。


「まおうさま……魔王さま……! 魔王さまっ……!」


ベッドから立ち上がれない。だから、ぎゅっと両手を広げる。


すぐに、魔王さまがその上から、そっと覆うように抱きしめてくれた。


「ああ、リン……今度こそ、目が覚めた? おかえり。もう、大丈夫だから」


魔王は、誰もいないはずの周囲をちらりと確認して――


やさしく、唇を重ねた


「……やっと、戻ってきたね」


そう言って、少し泣きそうな顔で、笑った。


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