表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/78

1 エピソード 入学式に死んだはずの母親が現れた

この物語は、前作『聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます』の人間世界でいう数十年後の世界を舞台にしていますが、前作を知らなくても楽しめます。

本作から読み始める方も大歓迎です!


入学式の日。

俺は、魔王の後継者として、魔族の御曹司たちが集まる学園に足を踏み入れた。


——と、思ったら。


「お願い! 魔王さまに会わせて! わたし、あなたの母親なの!」


……は?


俺と同じ年くらいの女が、突然俺の目の前に飛び出してきた。


なんなんだ、こいつ。頭おかしいのか?


しかも、よく見たら……堕天魔族!?

やべえ、敵対勢力のやつじゃねえか!

生まれ変わったの。とでも言うつもりか?

「悪いけど、俺の母親は三年前に死んでる。お前が生まれるずっと後にな」


冷たく言い放ち、殺気を飛ばす。

だが、こいつ、怯まない。


……さすが堕天魔族。普通の奴なら失神してるってのに。


「ほんとに、ほんとに、リンなの……わたし——」


そこに、別の堕天魔族が現れて、彼女を後ろから羽交い締め。


「お騒がせしました」


バサッと黒翼を広げて、少女を回収して飛び去っていった。


……なんだったんだ、あれ。



俺の名前はアルファード。

魔王と、人間の聖女の間に生まれた、魔界初のハーフだ。


瘴気、怨念を吸収できる魔王の力。

それを浄化して無力化する聖女の力。

両方持った俺は、どっちになるのかと思っていた——けど。


……無双だった。


瘴気を吸えて、浄化もできて、魔王クラスの魔力を持った最強ハイブリッド。


だが、俺の母親——リンは、人間だった。

そして、人間は魔族と比べて、あまりに脆い。


物心ついた頃には、すでに老いていて、体は弱っていた。

同年代の母親たちは若くて元気だったのに、俺の母は……おばあちゃん。


正直、恥ずかしかった。

一緒に外で遊ぶなんて到底無理だったし、会話もほとんどなかった。


父上——魔王は、母上にベタ惚れだったけど、俺からすれば意味がわからなかった。


「リン……リン……」


最後は、母の手を握りながら泣いていた。

俺は母親との会話らしい会話もなくギスギスしていた。

父上にはそれに怒り、反抗を繰り返した。

母は父上を止めて、いつも優しく微笑んでいた。


でも、俺にはそれが、ただ悲しい顔にしか見えなかった。


……気づいたときには、母は亡くなっていた。



人間なんて、魔界の年で20年、人間で言うと100年も生きられず、寿命が短い

魔族ならまだ子供の年齢だ。


「最初から、魔族の女と結婚してればよかったんだよ……」


俺はそう思ってた。

あんなに苦しそうに老いて、最後には何も言えず、ただ静かに眠っていった母。


父上は、「リンは精霊として戻ってくるって、約束してくれたんだ……」と呟いていた。


けど——


魂は帰ってこなかった。

精霊になることもなく、ただ、消えた。


それから父上は……執務室に籠もったきり、外に出てこなくなった。



そして、数年後。


「わたし、あなたの母親なの!」


あの少女が現れた。


あり得ない——はずだった。

でも、俺の中で、何かが引っかかっていた。


……まさか、な。


まさか、本当に、精霊としてではなく“別の形で”戻ってきたっていうのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ