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第六話

 五年経っても、まだ嫌がらせがつづいている。メメント森は、自分が受けた被害を題材にして、イヌマエルと二人で創作をすることにした。


「ドッキリだよ!」

「罰ゲームをしろ!」

「許せば、嫌がらせは終わる」

「誰かに住所を伝えれば、嫌がらせは終わる」

「ライブに来れば、嫌がらせは終わる」

「仕事をすれば、嫌がらせは終わる」

「引越しをすれば、嫌がらせは終わる」

「お前を傷つけたエンタメに戻って、感動の涙を流せば、嫌がらせは終わる」

「被害についてしゃべらなければ、大金を手に入れられる」


 メメント森は試しに、親友に現住所を教えてみた。

 避難シェルターに入って以来、友人たちにも住所は教えていない。SNSやLINEや通話でやりとりする分には困らない。

 メメント森は親友に事情を説明し、実験も兼ねて現住所を伝えたが「しきたり」の嫌がらせがなくなることはなかった。

 やっぱりね、とメメント森は、心がひねくれた悪役のような笑い声をあげた。


 ドッキリであるなら、メメント森が社会的に殺される前に、ネタバラシが必要である。メメント森が自殺未遂をした段階で、すでにシャレにならない状態に突入している。これをドッキリだと言うなら、よほどシャレのわからない無粋な奴だろう。

 罰ゲームとやらは、得体の知れない指示がそれに相当するらしかった。しかし「しきたり」でメメント森に謝らせようとする言葉の大半がひどい言いがかりであったのだから、なんの罰なのだか判然としない。

 許せと言われても、謝罪も警察の捜査も法的な裁きも行われていないのだから、許せるはずがない。

 住所は試しに伝えてみたが、嫌がらせがなくなることはなかった。

 引越しも、避難シェルターに入り、引越しをしたのにまるで変わらないのだから、無意味である。

 要するに、メメント森がそうしないと困る誰かがいるのだろう。

 たとえば、引越しをすることで儲かる業者だとか、友人が非難しているように見せかけてメメント森を叩いてきた連中だとか。

 メメント森が許さないと誓った某漫画誌は、世間で大層コラボなどして、大盛況である。おそらく嫌がらせをして、反論させることで利益を得る仕組みだったのだな、だから社会のあちこちで嫌がらせをしていたんだ、とメメント森は理解した。

 違法行為に手を染めた上に、嫌がらせで利益を得ようとは、盗人猛々しいとはこのことではないか。今や他の漫画誌まで加わって嫌がらせをはじめる始末である。さりとて、あまりにひどい言いがかりであるならば拒絶せねばならぬ。道理もへったくれもない。

 メメント森は、完全に従う気をなくした。

 メメント森は、元より自由人である。感覚で生きているバカである。


 ──殴りかかってくる奴は、殴り飛ばしてやればいい。相手にするほどの価値のない小者なら、鼻で笑ってやればいい──。


 メメント森は原始的な結論に達した。

 生きようが死のうが、どうでもいい。

 ただ、無抵抗のまま死ぬのは、メメント森の性に合わなかった。

 メメント森が受けた悲惨な被害について、なんらかの形で書き残さねばなるまい。

 イヌマエル──「神は我らと共に」という意味である。メメント森は、己の良心という神と共にある。


【おわり】

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