その27 ラウル、お願いする
その頃、王都では、
「婚約破棄は受理されたけど、エディ様の有責ってどういうことなの?」
レンデル伯爵邸、シャロンの私室にエディは入り浸っていた。
カニンガム公爵の怒りは収まらず、エディは家に居辛い。聖剣を顕現させると豪語したものの、その兆しは全くないし、剣の稽古も早々に飽きて、ただ、怠惰な日々を過ごしていた。
「王太子が勝手にそうしたんだよ、俺が浮気したってことで」
エディは長ソファーのドカッと座り、その横にはシャロンがしなだれかかっていた。
「浮気だなんて! いつの間にかショーン様と王太子殿下を味方につけて、あることないこと吹き込んだに違いないわ、どこまでも卑劣な人だわ」
シャロンはハンカチの端を噛みしめた。
「まあ、いいじゃないか、父上も王太子殿下相手では迂闊に動けないから、婚約破棄は決定だ。慰謝料は父上が払ってくれるさ」
「悔しいわ、本来は払わなくてもいいお金じゃない」
「我公爵家にとってははした金、君が気にすることはないさ、それに支払われるとしたらレンデル家にだろ、回り回って君にも恩恵があるじゃないか」
「それもそうだわね」
シャロンの脳裏に新しいドレスが浮かんだ。
「あとは俺が聖剣を顕現させればいいだけのこと、父上がフィラを婚約者に据えたのは聖剣のせいなんだ、だからあんな女がいなくても、俺が聖騎士になってやる」
「あなたならできるわ」
「聞いた話によると、聖騎士のほとんどが魔獣に遭遇した時に初めて聖剣を顕現させているんだ、だから俺も魔獣退治に行ってみようと思うんだ」
「そんな危険だわ!」
「大丈夫、君のためなら命も賭けられるさ」
二人は熱い口づけを交わした。
* * *
「ヘーゼル領内で魔獣が出現しました」
ラウルが執務室にいるグレアムに報告した。
「なんだって!」
グレアムは驚いて身を乗り出した。
「王都の隣じゃないか」
「直ちに王国騎士団が派遣されましたから、大事には至らないと思います」
ラウルは淡々と続けた。
「しかし、このところ、単発ではありますが都市部で魔獣の出現が確認されていますから、安心は出来ませんが」
「魔族は討伐されたのに、なんで今頃、魔獣が出るんだろう」
「討伐されたからではないでしょうか、それまでは魔族が魔獣を使役していましたが、主を失った魔獣が好き勝手に動いているのではないでかと……。砂漠地帯はマッカーシー将軍が護りを固めていますが、群れを離れた魔獣が個々に暴れていると考えられます」
「魔族め、厄介なものを残して行ってくれたものだ」
グレアムは腕組みしながら背もたれに体を預けた。
「砂漠へ出たお二人は大丈夫でしょうか、魔獣と遭遇していなければいいのだけど」
「あれから半月経つのか、なんの音沙汰もないな、こちらは彼らがいつ戻っても大丈夫なように、着々と調えているのに」
グレアムは立ち上がって、窓から外を見た。
快晴の空は砂漠の中のネフライトまで続いている。早く帰ってくればいいのにと不敵な笑みを浮かべた。
「確かに、フィラ嬢の悪い噂は消えつつありますね、そして新たな噂、義母と義妹に虐げられ、まともな食事もさせてもらえない気の毒なフィラ嬢という話が、高位貴族の間で徐々に広まっているそうですね」
「噂ではなく、真実だからな、俺も驚いたよ、だから発育不良なんだな」
「どこがですか」
「まあ、色々と」
「虐げられた上、売られるようにエディと婚約させられたのに、意地悪な義妹に誑かされたエディは公衆の面前で婚約破棄を宣言して恥をかかせようとする。ところが、そこへ颯爽と現れたヒーロー、ショーンは傷ついた彼女に手を差し伸べて、かつて共に過ごした思い出のマッカーシー領に連れ帰った。めでたしめでたし。なんてラブストーリー、二人が聞いたらビックリしますよ」
「いいや、あながち嘘ではないよ」
「それにしても短期間でそんな話を広めるなんて、王女様もなかなかお口がお上手で」
「そうだろ、適任だったよ」
「まだ、エディとシャロンの耳に入っていないんでしょうかね?」
「シャロンは高位貴族のご令嬢との付き合いはないみたいだし、そもそもあの二人は自分の世界に籠っているからね、自分たちが悪役にされているのを知るのは、もう少し先じゃないかな、その前に、カニンガム公爵夫人の耳には入っているようだぞ」
「プライドの高い公爵夫人のことです、恥をかかされて許しはしないでしょう、あの二人に未来はないでしょうね」
「カニンガム公爵夫人に睨まれては、王都の社交界で生きてはいけないだろ」
「フィラ嬢は大丈夫ですか?」
「それはマッカーシー家のエリン夫人が護るだろ、彼女も強者だよ」
「フィラ嬢のことですが、戻られたら、一度祖母に会っていただけないでしょうか?」
ラウルは話題を変えた。
「ん? 君のお祖母様と言えば、父上の乳母をされた方でそのまま幼少期の教育係も務められ、母上の王太子妃教育も務められた礼儀作法の達人、歩く王室典範と言われる伝説の淑女だったな」
「ご存知でしたか」
「ああ、ご健勝か?」
「お陰様で」
「この間言いかけていたのは、このことか?」
「やはりどうしても気になるのです、彼女がレンデル家の実子ではないと聞いてなおのこと」
「お祖母さまに会わせてどうするんだ?」
「確認したいことがあるのです」




