その21 トミー、説明する
魔力、それは大小の差はあれ人間が誰しも持つ秘めた力。しかし、ジェダイト王国の人々にその概念はなく、持っているという自覚はないので、使うこともなく、使い方も知らない。
ただ、ずば抜けて身体能力が高い人間、とび抜けて頭がいい人間、そういう形で本人の意思とは関係なく無自覚で現れることもある。凡人はその秀でた人たちを天才と呼ぶ。
一方で、別の形、望まぬ形で現れてしまう者もいる。他人の考えが読める、この先に起きることがわかってしまう、思うだけで物を動かせる、等々。そうなるともはや人間の範疇を超えている、周囲からは気味悪がられ、悪魔付き呼ばわりされる。そして恐れられ、忌み嫌われ、社会から疎外されてしまう。
そうして行き場を失った者が、逃げ出して辿り着いたのがこの場所だった。
自慢げに話すトミーの説明に、フィラとショーンは信じられないと言った表情で顔を見合わせていた。
「最初の一人、ルトガー・ネフライトが来たのは、今からだと約百五十年前。そしてルトガーの魔力に引き寄せられるように、一人、また一人と、魔物が潜む危険な砂漠をたった一人で越える強い力を持つ者だけが、辿り着ける場所を目指した」
「それが砂漠の真ん中に築かれたネフライト国なのね」
半信半疑ながらフィラは相槌を打った。
「最初は数人の集まりだった。彼らは砂漠の過酷な気候の中で、魔力で結界を張り砂嵐を防ぎ、魔力で地中深くから水を湧き上がらせ、植物を育て、自給自足の生活を営みはじめた。誰からも疎まれない心休まる場所を造りあげたんだ。俺はここで生まれたけど、ジェダイトから逃げて来たものも多いぞ」
「ジェダイトから!?」
フィラとショーンは揃って驚きの声を上げた。
「サブリナがそうだ」
名前を言われたサブリナがおずおずと歩み出た。ハニーブラウンの髪に落ち着いた茶色の瞳の、年はフィラと同じくらいの大人しそうな少女だった。
「彼女は十二歳の時、一人で砂漠を超えてネフライトに来たんだ」
「十二歳で砂漠を超えたと言うの?」
フィラは驚きの目を向けた。自分は一人では砂漠を超えられなかっただろう、過酷な環境に耐えられず、引き返していたかも知れない。
「私は貴族の家に生まれたけど、物心ついたころから他の人たちとは違う自分に違和感を覚えていたわ。それは私だけじゃなく、周囲の人々も私に対してそう感じていたようで、両親からも気味悪がられたあげく、病気だと言われて部屋に閉じ込められたのよ」
彼女は胸の前でギュッと手を握りしめながら続けた。
「いつも独りぼっちだった。この狭い部屋で死ぬまで孤独に過ごすのだろうかとあきらめていた時、声が聞こえたの。それは精神感応で私を、と言うか私のように特別な魔力を持った者に呼びかける声だった」
「そして知ったのよ、自分には力がある、こんな部屋に鍵をかけて閉じ込められても簡単に脱出できることがわかったわ。魔力があっても正しい使い方を知らなければ発揮できない、謎の声の導きで私は部屋を、家を出て、祖国を捨ててきたのよ」
「そんなことが……」
ミアもショーンも耳を疑った。ジェダイト国内に魔力を持った人間が存在するなんて聞いたことがない。
「ここには先にジェダイトから来た人もいたから、安心して過ごせたわ、ようやく自分の場所を見つけたのよ」
「でも、お前たちが言うように、ここがネフライトなら変だ、魔族は全員逃げたはすだ。小さな国内にこれだけの人が残っていたなら、討伐隊はなぜ発見できないんだ?」
父マッカーシー将軍がそんな雑な仕事をするはずないとショーンは信じていた。
「そりゃ出来ないよ、だって時代が違うもん、ここはお前たちがいた時代のおよそ百年前のネフライトだ」
「はあ? なにを言ってるんだ?」
「お前たちも泉のゲートを通ってきたんだろ? あれは時間を遡る入口になっているんだ、魔力を結集して創りだされたものだ」
サラリとそう言われても俄かには信じられない。
トミーの話は荒唐無稽で信じがたいものだった。フィラとショーンは真に受けていいものか、判断に迷っていた。すべてが作り話という可能性もある。
「さっきも言ったように、ゲートを通ってここへ来たお前たちも魔力を持っているんだぞ」
「そんなこと、信じられない……」
トミーは再びショーンをマジマジと見て、
「お前は王族だよな、イザベル様と共に戦った英雄ショーン様と同じ、黒髪に群青の瞳、顔も似てるような気がするし」
「そうだ、俺の名はショーン様からもらった」
「お前もショーンか」
「君はなぜ先代ショーン様のことを知ってるんだ?」
と言ってから、ジェダイトから来たサブリナがいることを思い出した。
「そうだったな」
サブリナに視線を流した。冷たい視線を向けられた彼女は怯えたようにトミーの後ろに隠れた。
「ジェダイト人の中には強い魔力を持つ者がいるのは確かだ、聖騎士と呼ばれる存在がそうだ、彼らは魔力で剣を出しているのに、それを知らずに利用されているんだ」
フィラは思わず自分のブレスレットに視線を落とした。




