表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《記憶の鍵と風の旅人》  作者: 夢乃
第一章:風の鍵
8/18

第七話:西の道標

 小屋を出発してから一日が経った。セイとリィナは、地図にも記されていない獣道のような細道を辿りながら、西へ西へと進んでいた。


 赤砂の谷――ふたりの目的地。その名の通り、赤みがかった砂岩の地層がむき出しになった峡谷だという。かつて盗賊団の抗争が起き、多くの犠牲者を出した末に放棄された、いわくつきの土地だった。


 「……ほんとに、こっちで合ってるのかな」


 リィナが木の根を避けながら、息を吐いた。


 「合ってるよ。風の向きと、短剣の反応が少しずつ強くなってる」


 セイは腰の短剣に手を添えた。表面はひんやりとしているが、内側から何かが脈打つような気配を感じていた。


 しばらく歩くと、木々が途切れ、小さな開けた丘に出た。そこには苔むした石碑と、それを囲うようにして立つ五本の標石があった。明らかに人工の構造物だが、長年誰にも触れられていない様子だった。


 「……なんだろ、ここ」


 リィナが呟きながら、中央の石碑に近づく。


 セイもそっと手を伸ばし、短剣をかざす。刃がわずかに震えた。記憶が、ここにも眠っている。


 「リィナ、ここでも一緒に見る?」


 「もちろん」


 ふたりは同時に短剣へ手を添えた。次の瞬間、光があふれ、世界が白に染まっていく。


 ――そこにあったのは、かつての“交差点”だった。


 五人の男たちが石碑の前で言葉を交わしている。皆、風をまとうような雰囲気を纏っていた。


 「ここで分かれる。お互いの道を信じろ」


 「いつかまた、記憶が重なった時に――」


 その場に、セイの父の姿もあった。隣には、リィナの父と思しき男もいた。ふたりは無言で頷き合い、静かに背を向けてそれぞれの方角へ歩き出した。


 光が引き、風が戻る。


 「……ここが、出発点だったのかも」


 セイが呟く。リィナはゆっくりと頷いた。


 「父さんたち、最初から全部仕組んでたのかも。記憶を巡るための“鍵”を、いつかの誰かに託すってことを」


 ふたりは無言で石碑の文字を見つめた。


 《交点――五つの道は、記憶と想いをつなぐ》


 「……赤砂の谷へ行く前に、ここに導かれた意味がある」


 「何かを、覚悟するための場所……かもね」


 再び風が吹いた。旅の意味が、少しずつ形を帯びていく。


 ふたりは、互いに目を見合わせた。


 「行こう。俺たちの道を、信じて」


 そうして、赤い大地を目指し、再び歩き出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ