第7話「真級の授業」
「よし、じゃあ始めよっか、アル、ミレイ」
「はい」
…あれ?
まだトビがこの家に来てから1日しか経ってないような気がするのだがて、前倒しされたのか?
「本当は来週からだったけど、もういけるので今日からやりまーす、ミレイはいつも通り魔素錬成から始めといて」
ミレイは慣れているのだろう、すぐに動き始めていた。
「アルは、僕と戦って?」
「え?」
なんで!?無理だよ?100億%一方的にボコられるだけだと思うんだけど??
「遠目から一度見ただけだから、実力、示してみな。回復魔術も得意だから容赦なく来てね」
「あー、はい」
そうかこれは実力テストか…
それに、あの序列3位と戦えるなんて機会中々ないし、今知ってる魔術を全力でぶつけてみよう。
俺は初めて、これから人に魔術を使う。人と戦うのだ。その重みと威圧は想像を優に超えていた。
フゥゥーー
大きくため息を吐く。
「じゃあ、いきます」
「よし、さあこい!」
『火炎矢』
いつも通りの炎の矢だった。しかし呆気なく消され、こっちに歩いてくる。
『水護壁、石砲弾×10』
トビ先生は何もないかのようにそのまま歩いてくる。
だがこれでいい。弱めを大量に見せて置いて後でとっておきを一気に使って畳みかける。元々勝とうとは思ってはいないから、ぶつけるだけでいいのだ。
「ほらほら、もっといける、もっと攻める!」
なんか言ってきている。だがそれはよく聞こえなかった。
『浮遊』
「お、空間系もいけるのか、思っていたよりは強いな」
『石砲弾×50!』
これで弾幕を張った後で…
「さあさあもっと重く!」
いやだから魔術の音で聞こえないんだって、
「よく聞こえません!!!」
まあいいか。
『地動赫球!!』
前の演習場のやつより少し強く見えるその球は、先生の直上から、地面を掘り下げていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パチパチパチパチ
煙幕の向こうから拍手の音がする。
「いやぁーすごいね、ほんとに5歳?危うく死にかけたよ」
先生は、服だけが汚れ、傷なく、昂揚した声で話した。
なんだこの人、マジ強すぎだろ…
「アレだね、アルはもっと自覚を持ったほうがいいかな」
「つまり…どういうことですか?」
「アルは、今の一戦の内容だと魔術だけでみたら第一級相当になれるだろう。だがしかし〜?実践と体力、知識が足りなさすぎる!そして…何より戦闘中の脳内、何考えてた??」
「えっと…次に使う魔術を考えてました?」
「なるほどね」
先生は俺の一言を聞いたら、ミレイの方へと歩いていった。
「どう?いつものは終わった?」
「うん、次は?」
ミレイは慣れていると伝えるような返事で、次を求めた。
「アルもきてー」
なんか呼ばれた。嫌な予感しかしない。
「それじゃあ君達、これから1週間ごとにテストという形で模擬戦をしてもらおうじゃあないか」
ああまだ思ってたよりはマシだったかな。
「あの、それっていつからやるんですか?」
「え?今日からに決まってんじゃん、ほら、立ち位置ついて、始めるよ」
「まって」
間に入ったのはミレイだった。そして、俺の方を指差した。
「ミレイ勝てない」
少し驚いた。こんな少女に戦う前からオーラで勝ち負けを予想されて諦められるとは、俺はなんか大人気ないな、見た目はただの5歳だが。
「いや大丈夫大丈夫、ミレイは勝てるよ。僕もいるから安心して戦ってほしい、あとなにより固有魔法式開眼できてるじゃん?」
「でも…」
ワーオ…固有魔法使えんのかよ、てか同じくらいの年齢だよね!?ギフトみたいなあるんじゃなかったっけ!?あの野郎め、詐欺しおったな…
「まっ、習うより慣れろって言うしとりあえず全力でやってみよう!最悪僕が守るから」
そう言われたら強制的にテレポートさせられた。
はぁ……なんでこんなことに…
「はいっ!始め!」
まずは遠隔で…!
『石砲弾』
過去最速きた!これは効くんじゃないか!?
『水氷領域』
…ですよねー、フラグでしたよねー、そりゃかえせますよねー。てかなんだあれ、水と氷の絶対領域的なヤツか?
「一体なんですかそれ、チートですか?」
「ちーと?わからない、固有魔法だよ」
そうか固有魔法式の一種か、そりゃ強い訳だ。
だがなんとなく中身はわかった、水の状態変化といったところだろうか。
『地動赫球』
赫球が飛んでいくのは見えたが、ちゃんと避けられた。
もうこうなってくると手数も少ない。強いて言えば3級を連発するくらいしか…
…煙の先には、杖を構えた少女がいた。
『火槍』
『水護壁』
危な!ギリ防げたけどマジ危ないってアレ!
「今のいいと思ったのに」
怖!イマドキの女子、怖!ちょっと先生なんて子を育ててるんですか、将来が心配です!
「ほらほら、アルも全力でー」
さっきから先生からのヤジがすごい、やっぱりもう魔素切れ覚悟で強め連発しかないか…
まあとりあえず4級から3級やるか、
「空間魔術『反魔術域』」
これを範囲小さくしてミレイ周辺だけに当てる、そして俺の魔術が域内に入る瞬間にそれを切る、完璧だ。
「あれ?発動しない…」
ミレイも魔術が使えなくて困ってるな、作戦通りだ。
『大炎渦』
『魔素砲』
そして、反魔域を切る!
……あ。これ勝てないわ…
切った瞬間に、ミレイの水域ができたのがわかった。そしてそれと同時に、黄色い閃光がさした。
『瞬雷』
その一筋の光は俺の胴を貫いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…んあ?
あれ?生きてる…
確かミレイの魔術で撃ち抜かれたと思ったんだけど…
「お目覚めになられましたか、我が主様」
…誰だこの人。こんな男女構わずモテそうな顔の奴なんて知ってる人にいたっけか?
「えっと…誰でしたっけあなた」
「そうでした、この姿では初めてですからね、私は創神により生み出された、アテーナです」
「アテーナって…転生直前のときの声の人ですか?」
「それです」
「起きたー?」
げっ。奴が来た、人同士を無理矢理戦わせてこの有様にさせた奴が。
「では後は頼みます、フォルトゥナーデ様」
「了解しやしたアテーナさん!」
アテーナはそう言い残して部屋を出て行った。
「一応戦う前に補助魔術かけて置いて良かった、まさかあんな激化するとは思ってなかったしね。んで、どうだった?僕の一番弟子は」
「固有魔法の偉大さがよくわかりました、魔術の使い方も上手いです。ただ、想定外に弱そうという印象です。というかこれ負けた側に聞きますか?」
「実はミレイ、あの後すぐに魔素切れで倒れちゃってね。実質引き分けみたいな感じだよ」
まあそりゃそうか、激強固有魔法を常に発動させながら戦ってたんだもんな。
「そんでさ、さっきの戦い方だけど、あれだと一生負けることになるよ」
…え?何故だ?
「そんな驚く顔しないでって、現にそうなんだから。アルは考えすぎなんだ、もっと感覚的に戦ったり空間を読んだりして、反射的に魔術を使えるようにしないとだよ」
感覚…?反射…?できたらとうにやってるんだって、それを急にやれと言われてもなー。無理なものは無理だし。
先生はその後もどんどん欠点を教えてくれた。それも案外わかりやすくまとめられていて流石だなあと思った。
「そして何よりの問題だ。アル、君は魔素を無駄に使いすぎている、魔術でのロスが大きすぎるんだ。」
魔素のロス?そんなのがあるのか、というかウチにあるあの魔術書は等価交換とか言ってなかったか?
「まあ今日はそんなとこかなー、授業終わり!また明日ね」
…え?
まだ1時なんですけど…?午後の授業は?
今回使った魔術について
火炎矢
→矢の形の火を飛ばす、8級魔術
水護壁
→水の壁で敵の魔術を防ぐ、6級魔術
石砲弾
→先の尖った石を高速で飛ばす、7級魔術
浮遊
→その名の通り浮遊する、6級空間魔術
火槍
→火の槍を投げ飛ばす、4級魔術
反魔術域
→魔術の使えない空間をつくる、3級空間魔術
大炎渦
→火の渦を相手周辺に作る、5級魔術
魔素砲
→魔素を直接ビームとして撃つ、3級魔術
瞬雷
→雷を撃つ、3級魔術