第6話「二つの出会い」
「じゃあ、これが正式のカードですね。身分証としても使えます。また、国境を越える時などは必須となりますので、、、マジで無くしたりしないでください。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、私はこれで。」
セシリアさんは俺にカードを渡すと、裏の事務室みたいな部屋に入っていった。
「よし、じゃあ少し街を歩きながら帰るか!」
「うん!」
父は、街にある色々なお店やら設備を教えてくれながら、俺の前を歩いていた。
歩いて見るとわかるのだが、この街…同心円上の道に、中心からまっすぐ伸びた道が交わるような蜘蛛の巣状になっている。正直迷いそうなくらいだ。
「アル、本屋行くか?」
正直驚いた。父は、というかこの一家はあまり本を読まないはずなのだが…
まさか俺の為に!?
「はい!行きます!」
少し足取り軽く、俺は父について行った。
「おぉぉ!すごい!」
本屋…というよりは図書館のような感じがしているが、とにかく大量に本が並んでいる。
「ここはこの街1番の本屋でな、家にある魔術書も俺がここで買ったんだ。流石に5冊くらいは本がないとってマリーに言われたからな。」
そうか、アレもここで買ったのか…ってことはなかなか良い魔導書とか置いてないだろうか…
「アル、さっき身分証貰ったと思うがアレ後で使うから出しとけよー」
「はーい」
そんな頻繁に使うのか、無くしたら一貫のおわりじゃ……
……あれ?
いやまさかな、、そんなことはないよな、
……えー。俺、アルークスは5歳、精神年齢22歳にして貰った当日に身分証無くしましたーー。
…うん。どうしようか。これから。
とりあえず言うしかないか…
「あのー、父さん…」
「ん?どうした?欲しい本でも見つかったのか?」
「いや…そう言うわけではないのですが…実は…先程からですね?カードがですね…」
「ねぇ君、名前は?」
後ろから声がした。
透き通るようで優しい、その中に力強さと自信を感じるような。
振り返るとそこには、高身長銀髪イケメンが立っていた。
「…アルークスです、アルークス・F・ボアロックです……」
「じゃあアルでいっか。これ落としたでしょ?」
「あ、はい、ありがとうございます…」
圧倒的な威圧感に、すぐさま後ろに逃げたい気分だ。
というか父がやけに驚いている様子なのが気になる。まるでテーマパークで芸能人に出会したような顔で、頭の上にはハテナマークがついてそうだった。
「アル、今何歳?」
「5歳ですけど…」
なんか凄い探られてるんだけど!?なんかしたか俺!?
「ほんとか?そんな風には見えないけどなー、てか、めっちゃ良い杖持ってるじゃん!貰ったの?」
「あ、はい昨日誕生日だったのでその時に貰いました。」
圧が怖い…
「えっとあのー、一応お名前伺ってもよろしいでしょうか…?」
「ああ僕?」
いやそりゃそうだろ、誰がいるんだ他に…
「トビ・フォルトゥナーデ」
なんだか聞いたことある名前だ。セシリアさんだったっけ言ってた人。
いやちょっと待て、思い出した!この人序列3位だ!
「ということは…あなた序列3位の、あの人なんですか?」
「そうそうよく知ってんねー、僕序列3位のトビでーす!」
「じゃあなんでそんな凄い人が急に来たんですか…」
俺は何か悪いことでもしたのか?この世界3位の人の気に触ることでもしたのか?
「え?話聞いてないの?ちょっとアリート〜?」
「すまんトビ…まさか今日来ると思ってなくて話してなかったわ。」
「えー、そこんとこ頼むよホントにー、折角楽しみにして帝国抜け出してきたのにー。」
ああこの人達知り合いなのか、てかそれ俺の父親すごくね!?世界3位と知り合いとか強すぎだろ…
「まあじゃあそういうことだから、これからよろしくね生徒のアルークス君?」
「え?あ、はい。」
生徒?どういうことだ?もしかして世界3位の授業を受けれんのか?最高すぎんだろ!
「あ、僕がやるのは来週からだから、それまでに固有魔法式くらいは開眼させておいてねー?」
そう言って、銀髪高身長イケメンは走り去っていった。
ていうか、固有魔法式を?来週までに?無理でしょ流石に5歳にはキツすぎるような気しかしない。
…!そういうことか!
これから俺が無理難題に押しつけられる課題を乗り越える為に役立つ本を今日探そうってことだったのか!
優しいな、我が父親は…
「父さん、あれがいいんだけどどう?」
「それがいいのか?まだ早そうなレベルのものだが…まあ、アルなら読めるか。」
俺が指差したのは、俺の身長じゃあ届かない1番上の段にある、『魔技教本』という、何かオーラを発しているような気がする本だ。
それに、皆さんご存知某9000円の広◯苑と同じくらいかそれ以上の分厚さがあるように見える。
そしてこちらの本…お値段なんと金貨3枚!
…と言われてもイマイチピンとこない。この国の貨幣は確か…紙幣、銅貨、銀貨、金貨の順に価値が高くなっていく方式だったか?詳しいことは知らない。
「アル!買ってきたぞ〜、ほいっ。」
「おっも!」
ああ、なんて重さなんだ…前世で使ってたパソコンよりも重いじゃん、一体何キロあるんだろう。
「よしじゃあ本も買ったし、ぼちぼち家に帰るか!」
「帰るのは良いんですけど、すみませんがこれを持ってもらえませんでしょうか。」
「ああ、流石に重かったか、すまんすまん。」
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「ただいま〜」
「おかえり〜、2人とも、もうすぐご飯できるよー。」
なんか凄い平和だ。
平和すぎて何か怪しい、嵐の前の静けさとかじゃないよな?流石にただただ平和なだけか。
「あ!アルじゃん、やっほ〜。」
…はい!平和じゃなくなりました!
てかなんでもういるんだ、来週からではないのか?
「もしかしてなんですけど、これから一緒に住む感じなんですか…?」
「そうだよ?僕が家庭教師終わるまでずっと。」
なるほどね。うん、これは当分平和にはならなそうだな。
「あともう一つ、これからここに住むのは僕だけじゃなくて、このミレイちゃんもでーす!」
…え?誰もいないけど…?
「あれ?ちょっと待ってて。」
トビが突然足元に魔法陣を展開し、光ったと思ったら。するとそこには日本なら即スカウトレベルの美少女がいた。
「なに?」
その子の声は、子供らしさ全開だが超綺麗といった感じだった。
「ほら、前にも話したでしょ?彼がアルだって、アルークス・F・ボアロック。」
「あ、こんにちは」
「どうも、アルークス・F・ボアロックといいます。」
「ミレイ・イハイラルです、よろ、しく…」
「よろしくお願いします。」
「そんなさー、緊張しないでって、ほらっ。…まあ、そういうことだからこれからよろしく、F・ボアロックさん。」
トビはミレイを連れてリビングから出ていった。
続いて、母さん、兄達もリビングから出ていく。
父さんは珍しく少し真面目だった。
「なあアル、実はな、本来この国の子供はお前くらいの歳になると学校に行くんだ。でもアルは計算も識字もできる、だからそれに合わせて家庭教師を雇ったんだ。嫌だったか?」
「いえ、学校には行きたいという気持ちはありましたが、序列入りしている方に教えてもらう方が嬉しいです。」
「それならよかった、来週までに色々予習しとけよ?」
「はい、父さん!」
現在、トビ・フォルトゥナーデは序列3位で純人類で最強です。また彼は非常に楽観的で、彼自身もアルークスと同じように身分証をなくしていますが、焦ったり見つける努力はせず、今も不保持状態で国境はバレないように突破しています。