第5話「65537」
「お待たせいたしました!それではこれをどうぞ、そして遅くなって申し訳ございません。何度も確認していたもので…」
本?というか検査結果の役ある紙みたいなやつを渡された。様々な項目と、それぞれのランク(S、A−F)と、総合的な判断(級)が書かれていた。ちなみに、これでいうランクとかは全て、それに対する「適正」に当たるらしい。
んーっと?なるほど、こりゃ何度も確認するわけだ。
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名:アルークス・F・ボアロック(5)
固有魔法式・未開眼
魔素量・65537(世界4位)
⚫︎攻撃魔術・A
水魔術・S 土魔術・S
火魔術・A 雷魔術・C
光魔術・A 闇魔術・A
⚫︎空間魔術・A
空間転移魔術・A 探索魔術・A
回復魔術・A 召喚魔術・B
結界魔術・A
⚫︎加護、その他スキル
・創神の加護
・過剰魔素耐性 ・毒耐性 ・熱変動耐性 ・精神攻撃耐性
・魔素上限無効化 ・魔術侵食無効 ・病原無効
⚫︎総合評価・第一級
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…うん、やばいな俺。ほぼ全てに適正あんのかよ。
「アル、、これはもう天才とかいうレベルじゃないぞ……特にこの魔素量。父さん18848なんだぞ?これでもこの街1番の多さだったんだけどなー…」
父さんは悔しそうにしていた。母はただただ驚き呆然としていた。
「そんな、魔素だけで強さなんて測れませんよ」
「でも総合で一級だろ?俺三級なんだよ…ほんとすごいな、ウチの子は…」
父はもうぐったりしている。疲れているのが目に見える。
ちなみに、基準ではあるが現在真級でお隣の国、グレカニア帝国で『勇者』をしているゼノス・アスターという人がいるそうなのだが、その人の魔素量は53840らしい。
数…もしかして特別な存在きちゃった!?
「これなら、成人する時には序列入りでしょうな。」
神官はもう褒めることしかしない。嬉しい。
「今序列の人ってどのくらいの魔素量なんですか?」
「えっと…序列3位のトビ様のなら、あの方は魔素量78012で空間魔術、結界魔術は全てでS、攻撃系はAでしたと思います。」
うそーん。普通に負けるじゃんだめじゃん。
やっぱトレーニングはしていかないとか…。一応日頃から魔素切れギリギリまで追い込むのを続けてはいるが…
まあ帰ったら今日もやるか。
すると、帰り際神官に尋ねられた。
「えっと…あともう一つ伝えなければならないのですが…」
「え?あ、はいなんでしょう。」
なんだ。また俺の株を上げるつもりか?
「あなたはギルドに登録してらっしゃいますか?」
ギルド?なんもしてないなそういえば。
「いや、まずギルドに行ったことすらないです。」
「なら、今日この後行ってみてはいかがですか?一応ギルドの発行するカードは身分証代わりにもなるので。」
「わかりました、そうします。それではこれで。」
俺達は教会を去った。
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「え?ギルドに行きたいのか?」
俺は両親に話した。
「はい、神官に先程勧められたので。」
「んーじゃあ私はやることあるし先に家に帰るから、2人で行ってきたら?」
「わかった。じゃあアルは俺とこっちな。」
「じゃあまた後で、母さん。」
三叉路で別れ、俺達はギルドへと向かった。
………あれ…?
俺達はギルドに着いたのだが…想像とは全く違った。
そこはまるで市役所のような場所だった。
よくアニメやらで出てくるあの酒場は!?
初心者狩りをするようないかつい冒険者達は!?
そんなイメージの欠片もないようなギルドを、誰が想像できただろうか。
あ…
壁に大きな絵があった。恐らく世界地図だろう。しかし、こうして見るとこの国の小ささがよくわかる。日本と同じくらいだとはいえ、島国じゃないしな…
「あ!ボアロック様ではございませんか!お久しぶりです、今回はどんなご用件で?」
遠くで女性の声が聞こえた。
受付の、茶髪の女性と父は知り合いなのだろうか。普通に話している。てかこの世界には黒髪はいないのか?
「今日は、三男のアルークスをギルドに登録しておきたくてな、今からできるか?」
「はい!今からすぐに!」
「アル!今から色々やるから来てくれ!」
地図は気になるが、とりあえず父の方へ向かう。
「えっと…これからアルークス様の担当になります、セシリア・ミラクと申します。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。」
「じゃあ早速なんですけど、教会で鑑定などはされましたか?」
「これのことですか?」
俺はさっきもらった適正・能力表を渡した。
「ああそうですこれです!………ん?失礼ですがこれ本当に合ってますか…?」
「はい。ちゃんとした鑑定でそれでした。神官の人も驚いてましたよ。」
「いやぁ…これは驚くどころの騒ぎじゃない気がしますけど…。ま、まぁとりあえず実技ですね。裏の広場へ行きます、着いてきてください。」
やっぱ色々な冒険者達を見てきているギルド受付でも引くレベルなのか…これ偽造できたりしないかな…
ちなみに父は受付で待つとのこと。よほど俺の魔術を生で見たくないらしい。
「そういえばアルークス様って今何歳なんですか?」
「5歳です。一応昨日誕生日だったのでなったばかりですが。あ、あとアルークス様はやめていただけると嬉しいのですが…少し慣れていなくて…」
「わかりました!じゃあこれからはアルークスさんって呼びますね!」
そんな話をしているうちに、広場の端まで来た。
「じゃあ、あちらの的に向かって何か魔術を使ってください。当たれば飛び級で第9級にもなれますよー!」
第9級?なにを言ってるんだセシリアは、俺一級判定なはずなんだけど…
あ!そういえば渡した紙に級書かれてなかったじゃん!
まあ今は試験に集中しよう…
「……的は破壊しても大丈夫なんですか?」
「大丈夫です!」
「わかりました。じゃあいきます。」
ガラスのような壁にある扉を開けて、演習場に入る。
なるべく高得点で通過したい、ならやることは一つ。今の俺の全力をぶつける他ないだろう。
そうとなればもちろん使うのは8級のアレだ。まあ流石に詠唱はしないけど。
杖の向いてる方向は…大丈夫だな。
「…フォーススフィア!」
昨日と同じように、赤い光が杖の先に生まれる。違うことといえば、それが人が走るより少し速いくらいのスピードで
一直線に飛んで行ったことだろう。
ドォォォォォン!!!
少し遠くで大きな爆発音が聞こえた。完璧だ。
土煙が晴れた。
その先には的はなく、ただただえぐり取られた地面と丸く穴の空いた奥の壁、撒き散らかされた岩や土があっただけだった。
「君、すごいね…誰?」
隣にいた人がボソッと呟く。
「試験を受けにきた見習いです。」
少し奥の方を見た後、セシリアさんのいる廊下の方に戻った。
「アルークスさんって…本当にただの5歳なんですか…?」
「はい。僕はただの5歳です。あ、あとさっき渡した紙なんですけど、書かれてなかった部分があって…」
「ああ、階級の欄のとこですね?」
「そこなんですけど…僕、第一級判定なんですよ…。」
「…アルークスさんって人ですか?」
「人です!」
疑われつつ談笑しつつ、俺達は父の待つ受付へと戻った。
アルークスは、転生前では一人称に"俺"だったため考えたりする時はその名残で"俺"になっていますが、転生後の世界では年齢と合うよう、"僕"で話しています。