第4話「城塞都市ラーヴィル」
朝だ。
なんだか今日はとても気分がいい。最高の気分だ。
「アルー!!外にあるアレ、何かわかるかー!?」
朝から父の声が響く。
ん?てか何かしたっけか昨日。
とりあえず家の外に出てみた。
……あ。
そこには、昨日の夜に調子に乗って使った土魔術、
フォーススフィアが浮いたまま残っていた。
そうだ、昨日の夜に使ったこの魔術、飛ばすことを何も考えてなかったんだ…
だからまだ浮いたままなのか…てことは今も操作できんじゃね!?
ちょっと嬉しかったが、その場の空気的に喜ぶのはやめた。
「ごめんなさい…これ、僕が昨日の夜にやったやつです…」
一応、反省の意図が見えるように謝った。
「この浮いている岩の塊をか?」
「昨日の夜にやったの?」
両親にグイグイ質問される。
「えっと…そうですけど…」
「ねぇ!聞いた!?やっぱアルは天才なのよ!」
「ああ、そうだなマリー!アルは天才だ!」
あれ?これって怒る流れじゃなかったんですか?
「なにー?どうしたの朝からこんな騒いで。」
家から兄2人が出てきた。
「ほら!見てこれ!この浮いてるの、アルがやったらしいの!しかも昨日の夜からずっと!」
母は少女みたいに騒いでいる。
「え?これってアレだよな、本の。」
「ああそうだな、確かフォーススフィアだったっけ?」
「そうそれ!あれ確か第8級じゃなかったか?」
「だとしたら、アルはほんとに天才だぞ!」
兄達も本を読んでいたらしく、実物を見て驚いている。
「これ、剣じゃ切れねーぞ…」
剣術師である2番目の兄は、剣術師は完璧に敗北を認めるようなものらしい。どうにもこの中心の光に吸い込まれて意味がないんだとか。
「えっと…とりあえずこれ、どかしてもいいですか…?」
俺はあんまり目立ちたくはないので早くこれを飛ばしてしまいたい。
「これを飛ばすのか?」
「はいそうです。本来ならこれを敵にぶつけて攻撃する魔術らしいんですけど、昨日は飛ばす設定を何もしなかったので多分残ったんだと思います。」
「試しに飛ばしてみてよ!」
母はもう興味津々だ。
「じゃあ飛ばしますね、とりあえず真上に。」
俺が手をかざして上に向けて動かすと、それについてきて上に飛んでいった。すぐにそれらは粒のような大きさになって、見えなくなった。
「えっと…とりあえず行く準備しません?」
朝から少々疲れたが、これから俺は初めての遠出、初めての鑑定を受ける。
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両親も、俺も、準備ができた。
まあ遠出とは言っても、街の中を端から端までいくだけだが。
ここは、城塞都市ラーヴィル。
周りを堀に囲まれ、堀の外側よりも数十メートル高い位置に地面がある。ヴィリオン皇国建国時に作られた大規模要塞の跡地だ。
今でもここは要塞としての機能が生きており、この国の7大都市の一つにも数えられるような都会だ。
F・ボアロック家の家はこの街の端にある。
そして、この街の教会はちょうど反対の端にある。
俺はそこに行くのが初めてだった。というか街に出ること自体が初めてだった。
城塞都市ラーヴィルは、7大都市と呼ばれるだけあってとても発展しているのだとよくわかる。おそらくこの世界の最新の技術も使われているんだろう。
例えば、
魔素を流し込むと動く機械と魔素を放出する魔道具を組み合わせた、堀の内側を環状線に走る路面電車。その技術を応用し、ハンドルをつけて自由に操作できるようにした、自動車らしき魔導車という乗り物などだ。
にしても、集まってくる周りからの視線が怖い。
着ている服やら、装飾やらですぐに貴族などとわかるのだろう。ましてや、俺の髪は黒であり、両親の金髪を全く受け継いでいないので不審がられているのだろう。
とまあ思っていたわけだが……
「貴方様が三男様のアルークス殿で御座いましょうか」
「え…あ、、はい、」
「おお!貴方様がかの有名なアルークス殿であらせられるとは!これからのご健勝、お祈りいたします。」
「あっ、…ありがとう…ございます?」
商人から突然話しかけられた時は焦ったが、俺は外では案外有名人だったらしい。色々な人に話しかけられ、その度に返さなければならなかったから、まだ教会についていないのに、だいぶ精神がやられてしまった。
この調子でこれから鑑定かよ……
30分弱もすると、俺達家族を乗せた魔導車は教会に着いた。
やはり教会は重宝されているのか、綺麗で豪華な場所だったし、なんとなくのオーラさえも感じる。
俺は魔導車を降り、目の前の教会の門をくぐった。
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教会に入ると、早速儀式らしきものが始まった。
「ーー・ー・ーーー・ーーーーーー・ー」
神官がお経みたいなのを唱えている。
俺は教壇の前に正座し、願うような形で祈っていた。何故そんなことをするかって?神官にそう命令されたからだ。
俺だってできればこんな宗教じみたことはしたくない。というか足が痺れてきたから早く終わらせて欲しいのだが。
「ーーーー・ーー・ー!」
神官が唱え終わった。
その瞬間、前にある光に乗っ取られたかのように、意識を失った。そして、水に沈んでいくような感覚がした。
…2回目だ。
なんとなく行き先はわかった。あいつのいる世界だろう。あの、馬鹿神のいる白の世界。
やっぱりな。
たどり着いたのは白の世界だった。
遠くであの馬鹿神が手を振っている。
…あれ?
意識が戻った。
白の世界で一瞬だけ神を見かけたと思ったら、すぐに現世に戻された。
「どうでしたか?神の声は聞こえましたか?」
神官に尋ねられた。
「声は聞こえませんでしたが…手を振ってる姿は見ましたよ。」
「今、、、なんと?」
神官はやたら驚いている。後ろにいた両親もだ。
「いやだから、声はかけられなかったんですって。」
「そっちじゃありません!その後です!本来ならこの儀式では神の声を聞くのが限度なんです!そんな神様の御姿をご覧になるなんて事例聞いたことがありません!」
あー…やばいやつかもなこれ、やっちまったかもなー
「とにかく!教壇に置いた水晶から情報を取り出してくるので、少々お待ちください…」
神官は慌てた様子で、奥の部屋に入っていった。
「アル…やっぱお前は天才なんだな…」
父は励ますどころか敬うような言い方だった。少し胸糞が悪いのでやめてほしい。
神官達は今、水晶から情報を取り出して書き写す作業をしているとのこと。
…まあ、気長に待つか。
城塞都市ラーヴィルは、だいたい千代田区と同じくらいの面積です。
この頃の魔導車はとても遅く、走れば追いつける程度のものでした。そのため、内周を回ったとはいえ30分弱もかかりました。