第2話「ようこそ異世界へ」
自称神の話は長かった。
インターネットがなかったり、産業革命なども起きておらず、科学技術は乏しいため、今までの生活と比べるとものすごい不便だそうだが、この世界には魔法があるらしい。
「そういえば、俺はどうしてこんな有様なんだ?」
「どゆこと?」
神はとぼけている。
「いやだから、なんでここにいるのかって話。さっきまで丘にいたはずなんだけども?」
「あー、そのことね!そんな問われたところでどーしようもできないよ?だって君、死んでるから!」
その後の神の説明によると、アルテミス彗星を見ていた俺らの丘に、分裂した彗星の一部が落ちてきたらしい。
それも、だいぶ後方から。
あの丘は街のアラートやらが聞こえないため気づかなかったんだと。
「因みに、君と一緒にいた彼……」
「匠哉の事か?」
「そうそれ!彼には勇者として同じ世界に飛ばすから、安心してね〜」
何が安心だよ。
こちとらお呼び出しされた時点で安心のあの字もないんだが。
「え?俺は?」
「いや〜考えんのめんどくさくなっちゃって、まあ気楽に行こうよ、ね?」
「は?」
俺は、久しぶりに殺意が湧いたような気がした。
「まあ産まれたら転生関係でなんかしらギフト付くだろうから安心してね?」
「それって、どんな?」
「いや?知らないけど?」
もうこいつはダメだ。
でも俺の脳は夢だった異世界転生が近づいてきていてとにかく興奮していた。
「まあそんな感じだから後は頑張って〜」
「おいちょっとまだ話が、」
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突然、水に沈んでいく様な感覚になった。
これが、地球から転生するという感覚なのだろうか。
「転生ギフトを譲渡します」
脳内に声が響く。
「えっと……誰ですか?」
「申し遅れました。我は創り神から貴方様に派遣され、これからの生活を支えさせてもらいます、アテーナです。」
創り神とは…さっきのアホらしい神のことだろうか。
「創り神とは、先程の神でございます。一応、こちらの世界を観察し、様々な神をまとめ上げるリーダー的な存在です。」
「さっきのあれがか?」
「はい。さっきのあれがです。」
残念だが彼を神だとは思いたくはない。
だが、認めざるを得ないほど証拠があってしまっている。
アテーナにそれを教えてもらった後、今度は物凄い眠気の様なものに襲われ、目を閉じた。
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目が覚めた。
周りには心配そうに見守る兄らしき人物が2人、仁王立ちしている姉らしき人物が1人、泣きそうな顔でこちらを見ている父親らしき人物がいた。
そして、母親と思しき女性に抱き抱えられていた。
「ーーーーー!」
転生は、、無事成功したらしい。
だか周りに書いてある文字はおろか、周りの人の言葉が全く理解できない上に、自分自身がどの様な状況なのかすら理解が追いつかない。
でもこのお陰で少なくもここの世界は日本語、英語、フランス語、ドイツ語は使わない。というかまずまず地球上に存在していた言語ではないのだろうとわかった。
周りの皆は笑顔だった。祝福をしているのだろうか、言葉が使えないのがこれ程不便だとは思ってもいなかった。
「ーーーーーーーー?」
「ーーーーーーーー!」
2人の若者が話していたが、やはり何もわからない。
「うーーあー」
よし。とりあえず声は出せた。
「ーーーーー!!」
また周りが一気にざわついたのはわかった。
なんだろうかこの気持ちは。普段とは別の、地球で俺が育ったときには感じられなかった謎の安心感。
やはり、この人達は家族なのだ、と実感した。
産まれて1年になった。晴れて俺も1歳だ。
ほんの少しではあるが、歩けるようになった。
「ーーーーーーー!!!」
母親が喜びながら何かを叫んでいたが、やはり言葉はわからない。
1歳と2ヶ月くらいになった頃、家の2階にとある空き部屋のような場所を見つけた。
扉を開けてみると、本棚に本がずらりとあり、中央には机と椅子のある書斎のような部屋だった。中には古本屋にも並ばなそうなほどの古びた本もあった。
この後すぐ姉に見つかった。しかし、家族は怒るどころか喜んで、この日を境に読み聞かせをしてくれるようになった。なんて優しい家族なのだろうか。
毎晩色々な本を読み聞かせてくれたお陰か、ついに言葉を理解でき、なんとなく話せるくらいになってきた。
「アルー?」
「アルどこ行ったー?」
兄達とはよく家かくれんぼをする。現世ではやったことなどなかったが、案外楽しいものだ。
基本の文字を完璧に読めるようになってから、俺はよく書斎に来るようになった。見つけた魔導書を読むのが本当に楽しみだったのだ。
ある日、窓の外を見ると2番目の兄が剣術の練習をしていた。
(異世界ってやっぱ剣大事なんだ……)
兄が何か視線を感じたのかこちらを見た。その威圧感から、思わずよろけてしまい棚から落ちてしまった。
(あ、やべ、、、)
俺は無事に頭から真っ逆さまに落ちた。
そのとき、家中に鈍い音が響いたのだろうか。すぐに母親が飛んできた。
「アル!大丈夫!?」
「うん、だいじょぶ」
やはり言葉は素晴らしい。意思疎通は素晴らしい。
そして何より、家族は怪我があったりするとすぐに
【ヒール】という魔法で治している。
「母さんはね、これでも昔はちょっとは強い魔術師だったんだよ?」
昔話で聞いたときは信じていなかったが、治している姿を目の前で見て、本当なんだとよくわかる。
俺も早くこんな魔法を扱えるようになりたいと思っていた矢先、事件は起きた。
もうすぐ5歳になるという頃、日頃読んでいた水の魔導書に載っていた魔法を実践してみようと、手順を全く変えずに、全て詠唱し、魔法陣も展開した。やっと使えると思ったとき、手元で大爆発が起きたのだ。
家族が一斉にこっちに向かってくるところで、俺は意識を失った。
目が覚めた。
「アル、、、本当に、、無事で、良かった、、、」
側には父親がいた。
「父さん、なんでそんなに泣いてるの?」
「そりゃ当たり前だろ…どんだけ心配したことか…」
「そっか、心配させてごめん、父さん。」
父親は、そんな謝る必要はないと言いたげな顔をしていた。他の家族も物凄い心配していたらしく、後で散々泣き散らかされた。
今回の事件を機に、今度、5歳になったら固有魔術やらステータスやらを調べに行くことになった。5歳にして初めて遠出だ。
父親・・・アリート・F・ボアロック
母親・・・マリー・F・ボアロック
長男・・・アルベルト・F・ボアロック
次男・・・アノス・F・ボアロック
長女・・・マーシャ・F・ボアロック
主人公:三男・・・アルークス・F・ボアロック