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64話 お誘い

「海鮮チャーハンを。それと……今日もいるの、蟹田君は」

「え、あ、はい。最近はフロアよりも厨房に居ることが多くて……。まぁ元々修行って名目でここにきたみたいですから。ちなみに海鮮チャーハンは最近蟹田君が任されることもあるんですよ」

「そう。頑張ってるのね。……はぁ、こういう時間が気持ちを盛り上げるって本当なのね」

「え?」

「あ、何でもないですから気にしないで。そうだ、今日は卵スープも頂くとするわ」

「かしこまりました。ご注文ありがとうございます。ではもう少々お待ちください」


 あの日から石田さんは定休日を除いて毎日この店にやってくるようになった。

 

 それでもって席は1人のお客さんのための部屋ではなくて少しだけ厨房が覗ける増設前の、いわゆるメインフロアにと必ず申し出てくる。

 そのためには何分だって待ってくれるし、嫌そうな顔は1つもしない。


 それどころか、その待っている間でさえどこか惚けた表情で……最初のあの緊張感帰してくんないかな?


 もうただの恋する乙女なのよ、石田さんは。

 しかもその相手が蟹田、というかコメコメホタテクラブとかいうふざけた名前のモンスターって……実情知ってると正直面白過ぎるよ。


 いや、本人は至って真面目なんだけどね。

 もう大丈夫とはいえ、この際こっちから監査人を取り込むために2人をくっつける作戦を決行するのも悪くないかも。


 それに……。


「蟹田君、また来てるよ石田さん。なんかずっとアプローチ待ってるみたいだけど、どうするの?」

「俺の身体を美味しいと言ってくれるお客さんで顔もいい。だから好きではあるが……。これ以上俺に何を求めて……。うーん、なら今度は他の……。いや、そうすると業務に支障が出るかもしれないな」

「身体を……ということはもう2人はそういう関係ってことなの? いやだもう! それならそうと早く言ってよ! いやぁ、ドラマよこれ。こっちまでテンション上がってきちゃったじゃない。それでそれでこれを他の女の人たちが知ったら……うふふ。私こういうの本当に好きなのよね!」


 石田さんの下に注文を聞きに行っていたパートさんが言うように、コメコメホタテクラブを狙う女の人は多い。


 そのせいで最近女性客同士がバチバチしてる時がたまにあって……。


 蟹田という存在を生み出してしまった俺は少なからず罪悪感があるんだよ。


 早めにその身を固めさせてこの争いに終止符を打つことが、俺を含めてみんなが平和になる選択なんじゃないか?


「――持ち帰りの肉まん3つ持ってくね!」


 そんな中、争いには参加せず思いっきり働いてくれるイセ。


 殺伐とした状況の中、イセとあーちゃんはいつも以上に俺の癒しになっている。


 書類の提出が終わるとイキリ爺、コメコメホタテクラブ、イキリ爺、人型となったモンスターたちは戸籍を手にして、全員が年金手帳を所持できた。


 どう考えてもあり得ないことなんだけど、とにかく働くことになんの支障もなくなったのは本当に嬉しい。


 真波の動画でもイセの年齢を証明するものとして、映してはいけないところにしっかりモザイクが掛かった上で報告されて、綺麗さっぱり。


 今気になるとすれば向かいのラーメン屋くらいだけど……正直今のところどっちが美味いとかまずいとか比較するような口コミもなく、お客さんが向こうに掻っ攫われているということもなく、ただほぼ互角という状況に彰君がお熱なだけ。


 別に通常に営業する分には何の悪影響もない。


 ま、逆に言えば大分安定してしまったなって感じかな。

 新メニュー、海鮮チャーハンの人気は相当なものとはいえ、それで新規客を増やしているかと言われればそうでもない。


 真波の動画やSNSを介して集客できていた層はもうだいぶ取り込んでしまったのかここのところそこまでバズるということもないし……。


 あとはせっせとコツコツ稼いでいければいい……ということはない!


 ここまできたなら2号店は当たり前、家のリフォームどころかモンスターたちの住まいのためにマンションだって欲しい! カップ麺とのコラボとか、冷食の展開、それに最近思うのは……やっぱりここまで店が大きくなったきっかけの1つに、真波を起用したCMの放映とか真波のスポンサーになるとか、そんなことまでしてあげたい。


 ちょっと夢がデカすぎるような気もするけど、それくらいの勢いが今うちにはあると思うんだよね。


 勢いはある。でも金はない。金金金金金金金金金。もっと稼ぐには……3階層の攻略に出るか?


 攻略を進めれば店に色々な設備を常設することもできるし、バズる何かがドロップするかも。


 とにかく店のために何かカンフル剤になるようなものが欲し――


「――店主! お客様が来てますけど、今出れます?」

「え? えっと、彰君ちょっと任せてもいい?」

「はい! 任せてください!」


 パートさんに呼ばれてフロアに。

 まさかまた石田さんみたいな案件じゃないだろうな。


「おお、君が息子さんか。いやあ、いろいろ多変だったみたいだね。でも……。うんうん、繁盛してるみたいじゃないか」

「……。えっとすみません、ちょっとお顔に覚えが……」

「ああ、ごめんごめん。そうだよね、ここは商店街から外れた場所にあるし当然集まりにも来られないから。私は桜町商店街代表の桜井文太。ほら、そろそろ商店街で桜まつりが行われるでしょ? かなりの人が集まるし……場所とかもろもろこっちで用意するからどうかな出店やってくれない? 前は親父さんも参加してくれてたんだけど」

お読みいただきありがとうございます。

モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。

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